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当時17歳の少年が起こしたひとつの殺人事件をもとに、社会から切り離された母と息子の関係に焦点を当てた物語が話題を呼ぶ映画『MOTHER マザー』。初めてのオーディションで息子役を勝ち取ったのは新人俳優、奥平大兼だった。
大森立嗣監督、長澤まさみ主演の本作は、自堕落で奔放なシングルマザーの秋子と息子・周平の奇妙にねじれた親子関係を描く。苛烈極まりない人間性を持つ秋子が物語を動かすエンジンとするならば、周平は過酷な人生を強いられながら彼女の本性を浮き彫りにしていくガソリンといえるだろう。そんな重要な息子役の青年期を担ったのが、今回映画初出演をかなえた奥平大兼だ。彼は、大森監督と撮影現場での本格的な芝居の前に行ったワークショップを通じて、“演じること”は自分が今まで想像していたものとまったく違っていたと振り返る。
「演技は、撮影現場に入るまでにイメージしたことや準備したことを表現すればいいと思っていたんです。演じてみてわかったのですが、それは役として自然ではなくて。監督から演技を教わってから、奥平大兼という自分が先にあって、そこに周平の感情が足されていくイメージを持つようになりました。そこに存在するのは周平ではあるけど、僕自身が直面する出来事に心が動いていないと、セリフに感情が入らないし意味がない。最初は不思議な感覚でしたが、撮影では、監督から『自分が感じたことを表現してください』と言われていました」
奥平は、初めての映画撮影だったが、監督とのコミュニケーションの中で、役を演じることのおもしろさを実感していくことになった。
©2020「MOTHER」製作委員会
「大森監督に『演技するってすごく楽しいことなんだよ』と言われたんです。最初のうちはいっぱいいっぱいで気づかなかったのですが、現場に入ってちゃんと僕の言葉で言おう、動こうと意識してからは、自分自身が、周平として物語の中に生きている感覚が生まれて、本当に楽しかった。
また監督は最初から『自分の言葉で言っていいよ』と僕を受け止めてくださっていたので、母親役の長澤まさみさんの言葉に反応して、周平の感情に合わせてセリフを変えることもOKにしてくれました。自分というより、監督や長澤さんが僕を周平にしてくださったことにとても感謝しています」
想像を絶する運命を背負う少年を演じる彼の姿を見た大森監督は「彼が偉かったのは、演技の中で嘘をつかないことをやり通せたこと」と評価する。「演技の魅力を感じることができました」と笑顔で語る未来ある俳優、奥平大兼のスタート地点に注目が集まる。
『MOTHER
マザー』
男たちとゆきずりの関係を持ち、その場しのぎで生きてきた秋子。シングルマザーである彼女は、息子の周平に奇妙な執着を見せる。ゆがんだ愛の形しか知らず、それに翻弄されながらも応えようとする周平。親子はやがて身内からも社会からも孤立していき、17歳に成長した周平はひとつの殺害事件を起こしてしまう。監督:大森立嗣 出演:長澤まさみ、阿部サダヲ、奥平大兼、夏帆、皆川猿時、仲野太賀、木野 花
7月3日より全国公開 公式サイト
奥平大兼さんプロフィール
2003年9月20日生まれ、東京都出身。本作で初めてオーディションに参加し、大役に抜擢されスクリーンデビューを果たす。趣味は芸術・洋楽・クラシック鑑賞など。特技は空手で、空手初段を有する。12年に全国武道空手道交流大会「形」で優勝経験を持つ。
Photo:Teppei Hoshida
Interview&Text:Hisamoto Chikaraishi
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