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『ウォールフラワー』は、以前(vol.6)紹介した『マイ・ブルーベリー・ナイツ』の派生というか、音楽つながりで観たくなって選んだ作品です。雰囲気もどこか似ている気がして。エマ・ワトソンが出ていて、さらに興味が膨らんで観はじめました。
『ウォールフラワー』(2012)
ブルーレイ&DVD発売中
発売・販売元:ギャガ
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“壁の花”だった内気な高校生のつらい日常に突然差した光とは?
主人公は、高校に入学したばかりの男子高生、チャーリー(ローガン・ラーマン)。内気でおとなしい彼が、映画の冒頭で手紙を書いているのですが、“高校生活あと何千何日”と数えるくらい、学校生活が嫌だということが伝わって来るんです。楽しいことを心待ちにして数えるのはいいけれど、その逆って……。そんな姿を見て、少し悲しくなってしまいました。
でもある日、図画工作の授業で個性的な上級生パトリック(エズラ・ミラー)と知り合い、その後、頑張って観戦に行ったフットボールの試合で、勇気を出して彼に声をかけます。パトリックは気さくに接してくれて、後から来た義理の妹サム(エマ・ワトソン)も紹介してくれるんです。サムもパトリックも年上だけど、友だちとしてすごく仲よくなっていく。あぁ、良かった~って(笑)。3人で夜の街をドライブに出かけるシーンもすごくよくて、そこからチャーリーの毎日は一気にキラキラ輝いていくんです。
実は、パトリックやサムも、いわゆるアメリカの学校の“スクールカースト”的なことで言うと、上位に位置した人たちではないということがわかって来るんだけど、彼らは明るく奔放に日々を過ごしている。2人が呼んでくれたパーティで、チャーリーを歓迎して乾杯するときに、サムが「はみ出し者の島へようこそ!」と言ったのが僕はすごく好きでした。いわゆるカーストトップは「アメフト選手とチアリーダー」という構造の中、パトリックやサムたちは、こっち側にいてくれる人たちなんだな、と思ったら、それだけでちょっと幸せでした(笑)。そういう人たちが友達と楽しそうにしているのを見ると、なんかもう幸せになるんです。
居場所があって、自分らしく過ごせるかけがえのない日々
彼らがちゃんと学校生活を送っているのもいい。授業に出たり、図書館でみんなと勉強したり、ファミレスみたいなところで喋ったり勉強したり。僕もよく地元のCOCO’Sで、ドリンクバーと山盛りのポテトだけ頼んで、放課後にみんなでよく集まっていたのを思い出して、懐かしいなぁ、戻りたいなって思いました。いつの間にかチャーリーは、“高校生活、あと○○〇日”なんて数えなくなっているんです。やっぱり自分の居場所って大事ですよね。特にこの年代には。学校や友達に馴染めなくて落ち込んでいる高校生活の憂鬱から、パトリックとサムと出会い、一緒にパーティに行って……という流れに、一気に乗せられた感じがありました。そこからの展開が、楽しくてワクワクです。最初で、一気に心を掴まれてしまいました。
大好きなシーンはたくさんあるし、というか、大好きなシーンばかりですが、何かを飲まされてハイになっているチャーリーも可愛いし(笑)、そんなチャーリーに、サムがミルクシェーキを作ってあげるシーンも好きだし、プロムで兄と妹が「家で練習してきたあのダンス、踊っちゃう!?」って、楽しそうに踊るシーンも、楽しいな~って観ているだけで心が躍りました。いいシーンだらけ。
友情に過敏だからこその勇気
でも一方で、サムがつらい恋をしたり、パトリックがアメフト部の人とトラブルがあったりして……。そしてチャーリー自身、過去に親友が自殺していたり、幼い頃に大好きな叔母さんが亡くなったことに関連して、深いトラウマを抱えているんです。そういう不安定なところがあるのですが、だからこそ友情にとても過敏で繊細で、真摯に向き合っている。パトリックとサムのことを本当に大切に思っているから、パトリックを傷つけたアメフトの人たちに対して、チャーリーがめちゃくちゃキレてバ~ンと喧嘩する。考えるより前に体が動いてしまったチャーリーの、本当に大切なものを守ろうとする真っ直ぐさや素直さが、すごくステキだなって思いました。
その後、丘の上でパトリックが、いきなりチャーリーにキスするシーンも、すごく好きでした。パトリックが、自分の身に起きたことを、苦しみながらふり絞るようにチャーリーに伝えます。キスされてチャーリーは驚くけれど、パトリックを抱きしめる。最もコミュニケーションが下手だったチャーリーが、この時はパトリックを受け止めて支えている。関係性が逆転したこのシーンも、すごく胸に染みました。
大学生になって町を出ていくサムとの別れのシーンでは、手と手が重なった瞬間、過去の出来事がフラッシュバックして、チャーリーの精神的トラウマがよみがえってしまう。その後の展開はすごく重かったりもするんです。本作は賑やかな青春映画であり、全編を僕が大好きな曲ばかりが流れる音楽映画でもあるのですが、そういうシリアスなテーマ――虐待やイジメやドラッグやジェンダーのことなども、色々と描かれています。そういうもの全てが交わって、あくまで青春エンターテインメントとして成立しているのが、とても濃いし、すごく上手いと思いました。
思春期ならではの心の振れ幅が凄まじい、チャーリーという繊細な役
チャーリーという役は、本当に凄まじい揺れ幅があって、すごくチャレンジしたい役ではあるけれど、まだ僕には絶対無理だな、と思うくらい繊細なキャラクターでした。僕もピックアップトラックの荷台に立って、デヴィッド・ボウイを聞きながら、両手を広げたいって思うけれど(笑)、凄まじい振れ幅の役。サムが去ってからトラウマがまた戻って来たチャーリーの変貌も凄まじい。僕にはとても出来ないな、素直に“すっげ~な”、と思いながら観ていました。
最近、ある監督とお話をして「ハリウッドで活躍する多くの俳優たちは、同じことを何度も全く同じような鮮度を保ったまま繰り返すことが出来る。それが出来る人をプロの俳優と呼ぶ、それがアクトすることだ」と聞きました。それを、チャーリーが机に突っ伏して泣いているシーンで思い出しました。うわあ、僕はこんな演技を何度も繰り返して出来ないなぁって思うくらい、素晴らしい演技でした。
高校2、3年って、これから大学に行ったり就職したり、別々の道をみんな歩いていくことになる時期ですよね。仲間との別れが近づいてくると同時に、自分のことに向き合わなければいけない瞬間でもある。別れの悲しさや寂しさもありつつ、新しい世界が広がる楽しみも同時にあるという、色んなものが入り混じった心情が、本作にすごく出ているんですよね。そして「実際に大学に行ったら、これまでと全く違う世界が広がっていた、すごく楽しい」っていう卒業した友達の言葉があって。それも、すごく良かった!
ラストでは、チャーリーが、パトリックとサムとドライブに出かけて、今度はトンネルの中でチャーリーが両手を広げて、前半のドライブシーンと同じ曲、僕の大好きなデビッド・ボウイの「Heroes」が掛かるのですが、それが最高で!! うわぁ、無限だ~って。僕にとって『ウォールフラワー』は、“無限”を感じる映画なんです。
本作は、やっぱりサントラが最高です。プロムでサムとパトリックが踊るシーンで流れる「カモン・アイリーン」も、すっげ~いい。ドライブシーンで流れるボウイの「Heroes」もそうですし、僕が元から好きだった曲がたくさん入っていて、最高ですね! それこそ「Heroes」は、僕がドライブ中によく聴いていた曲で、それがかかるタイミングも、また素晴らしくて。あのイントロがすごくよくて、一瞬でガ~ッと掴まれます! しかもこの時代、カセットテープに自分の好きな曲を入れて、好きな相手にプレゼントしたり、交換するシーンが何度か出てくるんですよね。それもいいなぁ、って。チャーリーがサムの影響でロックバラードを聴くようになって、ノッて口づさみながらミックステープを作っているシーンも大好き。ザ・スミスの「アスリープ」とか、本作を観た後、もう滅茶苦茶ロックバラードが聴きたくなっちゃいましたよ。
『ウォールフラワー』(2012・アメリカ)
“「ライ麦畑でつかまえて」の再来”と絶賛され、ベストセラーとなった同名小説を、原作者のスティーヴン・チョボスキーが自ら映画化。学校に馴染めず、憂鬱な学校生活を送る内気なチャーリーは、パーティ会場でも壁の花状態。ところが陽気で自由に振る舞う上級生のパトリックと、率直を絵に描いたような義理の妹サムと知り合ったことで、高校生活は輝き始めるが――。主演は『パーシー・ジャクソンとオリンポスの神々』や『三銃士/王妃の首飾りとダ・ヴィンチの飛行船』のローガン・ラーマン。パトリックに、『ジャスティス・リーグ』シリーズのフラッシュ役で知られるエズラ・ミラー。サムに、『ハリー・ポッター』シリーズの他、『美女と野獣』『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』などのエマ・ワトソン。
最近、植物にハマりかけていて、家に植物を置いて癒されてます。
これから少しずつ、いろんな知識を身につけていければいいなと思う今この頃です!
Text:Chizuko Orita
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