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音楽や映画を独自の視点で語るPodcast「奇奇怪怪明解事典」でも人気のミュージシャン、TaiTanと玉置周啓。彼らが「ヤバい音楽ドキュメンタリー」の魅力を語り尽くす!
ヤバい音楽ドキュメンタリーってなんだ?
TaiTanさん(Dos Monos)[左]
ジャンルにとらわれない音楽性を持つ3人組ヒップホップグループDos Monosのラッパー。2022年には、volvox incを共同創業し、活動の幅を広げている。
玉置周啓さん(MONO NO AWARE)[右]
ポップで心地よいサウンドと、言葉遊びで想像力を刺激する歌詞が魅力のロックバンド、MONO NO AWAREでギター/ヴォーカルを務める。
カメラは残酷なまでに
現場の空気感を映す
TaiTan 「ヤバい音楽ドキュメンタリー」ね。僕はめちゃくちゃよく観るんだけど、自分たちの領域だからこそPodcastとかでは語りづらいジャンルだよね。
玉置 僕は音楽ドキュメンタリーを観ると眠くなっちゃう(笑)。ファンが観るものだっていう気持ちがあったし。でも、なかにはそうじゃない作品もあって。
TaiTan 「ヤバい」というテーマでいくと『アメリカン・ユートピア』にはくらった。舞台演劇でもあり、ライヴでもあり、映画としても成立してる。まったく新しいひとつの表現として、今観ておくべき時代のマスターピースだと思う。
『アメリカン・ユートピア』
©2020 RadicalMedia Production. All Rights Reserved.
元トーキング・ヘッズのデイヴィッド・バーンと多様なアイデンティティを持った11人の仲間たちが、極限までシンプルな舞台上を動き回り、誰も見たことのないパフォーマンスを繰り広げる。NBCユニバーサル・エンターテイメント/DVD¥5,500
玉置 ドキュメンタリーってリアルさを出すために平気で退屈な映像が入ることがあって、それが苦手なんだよね。そういうのを一切排除して、エンタメに特化することで映像としての強度を保っている。例えば、本番だけじゃなくて明らかに別テイクの映像が差し込まれていたり。
TaiTan 単なるライヴの記録映像じゃなくて、ちゃんと新しいものを提供しているのがすごく面白い。
玉置 同時に「手作り感」みたいなものにも感動した。自分にも手が届きそうな範囲の技術や演出でも、ここまでやれる可能性があるんだって。
TaiTan それはいい話だね。ライヴの進化ってCG演出みたいな技術の話になりがちだけど、この作品はアナログな方向に行ってるのに感動しちゃうっていう。
玉置 バーチャルな技術って一瞬の爆発力はあるけど、すぐに見慣れちゃうんだよね。やっぱりアナログで身体的な表現のほうが感動の持続性がある。
TaiTan 『ザ・ビートルズ:Get Back』は生涯1位の音楽ドキュメンタリーだな。ビートルズの話は第三者がいろいろ語ってきたけど、本人たちは当時の現場で何が起きていたのかを誰も語ろうとしなかった。それをそのまま映像に残してるもんだから、ひっくり返ったね。
『ザ・ビートルズ:Get Back』
©1969 Paul McCartney. Photo by Linda McCartney.
「ザ・ビートルズ」が伝説のラストライヴ「ルーフトップ・コンサート」に至るまでの数日間を記録した映像が、50年の時を超えて蘇(よみがえ)る。メンバーの微妙な関係性など、人間らしい彼らの魅力が満載! ディズニープラスで独占配信中。
玉置 アルバムの曲がまったくできていない中でジョージが曲を作ってくるんだけど、ポールが「すてきだ」としか言わないシーンとか、失礼すぎるでしょ(笑)。気まずい雰囲気をそのまま切り取ってる。
TaiTan 本当にカメラは残酷なまでに現場の空気感を映すよね。会社とか、何かしらのコミュニティを率いたり、そこに属したりしている人は、みんな等しくこの映像にヒヤッとすると思う。
玉置 何かのプロジェクトを進めるにあたって、カリスマ性のある人がいるおかげで完成はするんだけど、その人のせいでチームの和は乱れてるっていうことが平気であるんじゃないかっていうね。
TaiTan 当人たちは、なんでこんなにうまくいかないんだって思ってるんだけど、外から見ると一目瞭然っていう。世界最大の気まずい作品ですよ。
玉置 『スパークス・ブラザーズ』は正直途中で寝ちゃったんだよね。スパークス自体を知らなくて、最初のほうの音楽性に興味が湧かなかったから。でも、寝ている途中で無意識に自分の体が踊りだして目が覚める瞬間があって。目を開けたら僕が寝たシーンから10年くらいたってて、めっちゃ好みの音楽になってたんだよ。プレイリストを聴いてたら気に入る曲が1曲は見つかるじゃん。そんな感じ。
『スパークス・ブラザーズ』
©2021 FOCUS FEATURES LLC. ALL RIGHTS RESERVED
謎に包まれた兄弟バンド「スパークス」。「音楽界の異端児」と呼ばれる彼らはなぜこれほどまでに愛され続けるのか? バンドの盛衰や音楽性の変遷をたどるとともに、豪華アーティストへのインタビューを通じてその魅力をひもとく。全国公開中。
TaiTan 個別の作品というより、キャラクターとか活動全体を通して価値を高めている人たちだよね。活動が長くなればなるほど戦闘力が上がっていくみたいなスタイル。一見するとぽっと出のトリックスターっぽいんだけど、実は長い時間をかけて音楽性を極めてるのも面白い。
玉置 評価がついてこずとも、続けていると実は種子みたいなのがまかれていて、後の世代に影響を与えていたっていう。そのタイム感にはすごく感銘を受けた。即時的な評価とかをあまり気にしなくてもいいのかもしれないって思わせてくれて。長い時間を抽出して映し出すドキュメンタリーならではの深みだと思う。
TaiTan 『ようこそ映画音響の世界へ』は、映画をサウンド面から描くっていう企画の着眼点がめっちゃよかった。
『ようこそ映画音響の世界へ』
©2019 Ain’t Heard Nothin’ Yet Corp. All Rights Reserved.
「映画体験の半分は音だよ」と映画監督のジョージ・ルーカスは語る。映画において重要な役割を果たす劇伴や効果音、声などの「音響」。その歴史を振り返り、知られざる製作の裏側へと迫っていく。キングレコード/DVD¥4,180
玉置 映画館で実際の音を体験できるのは、マグロの解体ショーとかに近い興奮があった。さすがの僕も寝なかったもん。
TaiTan 今後の映画の見方が変わる作品。音が人間の感覚を操作するっていうのはPodcastとも共通する面白さだよね。
「奇奇怪怪明解事典」の2人が、
誌面で紹介しきれなかった作品を語る!
「奇奇怪怪明解事典」
TaiTanと玉置が音楽、映画、お笑いなどの多様なコンテンツと社会現象について独自の視点から語り尽くす大人気Podcast番組。まったく異なる文脈の事柄が、2人の何げない対話を通じて密接に結びついていく。今年の2月にはファン待望の書籍版が発売された。
Photo:Kyouhei Yamamoto Text:Kohei Hara Shunsuke Kamigaito
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