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シティ・ポップを愛するあのアーティストは、どんな聴き方をしてきたのか。藤井隆さんに、シティ・ポップの楽しみ方を教えてもらった。
TAKASHI FUJII
藤井 隆さん
1972年、大阪府出身。2000年「ナンダカンダ」で歌手デビュー。SLENDERIE RECORD主宰。今秋発売予定のアルバムより堀込泰行作詞・作曲「ヘッドフォン・ガール -翼が無くても-」が3月9日配信。
大阪の街とウォークマンから流れる
東京の風景が一瞬重なった
当時はそれぞれの楽曲をただポップスとして聴いていたので、「シティ・ポップ」というジャンル分けはしてなかったんですけど…。生まれて初めて行ったコンサートが大貫妙子さんだったのは、今につながる原体験だったと思います。確か15歳のとき、1987年のことです。
実の兄が7つ上で、京都に住んでいたいとこに10コ上のお姉ちゃんと9つ上のお兄ちゃんがいて。少し年の離れたその3人が、僕の体験の中で大きな影響を与えてくれたんです。テレビとか本とか音楽を紹介してくれて、そのなかに大貫妙子さんやEPOさんのレコードもあった。今考えたら別にロックとかアイドル歌謡を聴き始める人もいる年頃だと思うんですけど、小学生のときから当たり前に近くにあったのが、シティ・ポップだったんです。
小学校の低学年くらいのときにウォークマンが発売されたことも重大な出来事でした。それまでは音楽といえばおうちでレコードとかカセットで楽しむものだったのが、外に持ち出して聴けるようになって。今でこそ当たり前ですけど、それって本当はすごいことだと思うんですよ。
松本隆さんが書く詞とかEPOさんの歌詞には、東京の風景やそこに住む大人たちが登場します。そうした歌を、家の近くの公園とか親戚の家に行く車中でウォークマンから流してみるんです。すると、自分の目の前に広がっている世界と、耳から聴こえてくる風景が、全然違うんですけど一瞬重なったり、または重ならなかったりする。歌詞から想像を膨らませながら、自分の住んでいる街に、都会のキラキラした景色を夢見ていました。だから、外で音楽を聴けるようになった時代背景も、シティ・ポップと相性がよかったんだと思います。
EPOさんの「PAY DAY」という楽曲は、子どもの頃に夢見た都会の姿が詰まった1曲です。歌詞の中には、ある女性が土曜日にどこかに遊びに行く情景がつづられているんですけど、その遊び相手は別れた元恋人なんです。明日は日曜日だから夜更かしができると言いながら、おうちには今の彼氏が自分の帰りを待っている…みたいなそういう曲。子どもの頃は歌詞の内容をよく理解してなかったと思うけど(笑)。でもこれこそ、なんだか「シティ」って感じがしませんか? 別れた恋人とたまたまバーで再会して、朝まで楽しんじゃうみたいな。EPOさんの曲には「今つき合ってるのはすごく真面目な彼氏」っていうフレーズがいくつか出てくるんです。真面目で優しいけど、この人は私の過去を知らないっていう移り気な感じで。目の前に好きな人がいるのに、後ろを振り向いて昔好きだった人と会ったりするなんて、そんなことしちゃうの?ってハラハラするじゃないですか。子どもながらにそういうところに惹(ひ)かれていたのかもしれません。
歌詞の登場人物がどこか気まぐれで風見鶏なところは、自分が歌う音楽にも投影されているかもしれないですね。「愛してる」なんて絶対言わない。そういう感情は行間から感じ取ってほしいって感じなのかもしれませんけど、ストレートに「俺の本音を聞いてくれ!」みたいな歌は1曲もないですよね(笑)。そうした「本当のことは言わない」みたいなところが、シティ・ポップであり自分が好きな音楽なんだと思います。
FUJII’S
CITY POP PLAYLIST
▶︎ 子どもの頃に聴いていた曲
EPO「PAY DAY」/
『VITAMIN E・P・O』(1983)収録
ⓒソニー・ミュージックダイレクト
この曲には「夜更かし」とか「夜を明かせば」というフレーズが出てきて。聴きながら「いつか夜が明けるまで起きていたいなぁ」なんてことも思っていました。自分もそういう経験をするようになるのかなって。
▶︎ メンズノンノ読者におすすめしたい曲
池田政典「SHADOW DANCER」/
『QUARTERBACK』(1987)収録
ⓒユニバーサル ミュージック
池田政典さんは俳優であり、歌手でもある方で、すごくかっこいいんです。作詞は敬愛する売野雅勇さんで、街中を疾走する男の姿が描かれていてステキ。これぞシティ・ポップだなって思うのでぜひ聴いてほしいですね。
▶︎ 最近Spotifyで出会った曲
安部恭弘「アイリーン」/
『SLIT』(1984)収録
ⓒユニバーサル ミュージック
「新しい曲に出会いたい!」と思ってSpotifyを始めたんですけど、レコメンドされたのは80年代の曲(笑)。リリース当時は聴けてなかったんですけど、都会的でロマンチックな歌です。出会いをくれたSpotifyに感謝。
▶︎ 2022年にあらためて聴きたい曲
菊池桃子「ガラスの草原」/
『菊池桃子スペシャル・セレクションⅠ』(1993)収録
ⓒバップ
DJのNight Tempoさんがリエディットしたことでも話題の曲。アイドル歌謡曲でありながら都会のことが歌われていて、すばらしいシティ・ポップだと思います。菊池さんがヴォーカルを務めるラ・ムーの楽曲もぜひ。
あわせて聴きたい、藤井さんのアルバム
『ロミオ道行』(2002)
ⓒソニー・ミュージックダイレクト
はっぴいえんどの元メンバーである松本隆が全面プロデュースした藤井隆の1stアルバムは、シティ・ポップの名盤として挙げられることも多い。筒美京平作曲の「絶望グッドバイ」「究極キュート」や、KIRINJIの堀込高樹が作曲した、きらびやかな都会を歌う「未確認飛行体」などの楽曲が収められた本アルバムで、アーティスト人生の華々しいデビューを飾った。
Photos:Takahiro Idenoshita Hair & Make-up:Rika Tsutsui[Cake](for Fujiwara) Stylist:Nobuko Ito(for Fujiwara) Text:Kohei Hara Shunsuke Kamigaito
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