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海外や若い世代で人気が高まっている「シティ・ポップ」って、いったいどんな音楽なんだろう。洋楽志向のJ-POP? 都会のキラキラした雰囲気? 山下達郎や大滝詠一の音楽のこと? 今こそ聴きたい「シティ・ポップ」の魅力をあらためてひもといていく!
シティ・ポップをひもとく
4つのキーワード
メロディ
非日常的な浮遊感や高揚感を演出
1986オメガトライブ
「君は1000%」(1986)
ⓒバップ
「君は1000%」を例にとるとわかりやすいですが、キラキラしたカッティングギターや音に深みを与えるリヴァーブなどを取り入れた曲が多く、それらが非日常的な浮遊感や高揚感を演出しています。海外では、日本で当時ヒットしたアップテンポの曲よりも、ノスタルジーを感じさせるミドルテンポの曲が好まれる傾向にあります。
アルバムジャケット
視覚的なアイコンを生んだイラストレーターたち
大滝詠一
『A LONG VACATION』(1981)
ⓒTHE NIAGARA ENTERPRISES INC.
山下達郎
『FOR YOU』(1982)
ⓒSony Music Labels Inc.
シティ・ポップを象徴する視覚的なアイコンになっているのが、永井博さんや鈴木英人さんといったイラストレーターを起用したアルバムのジャケットです。『A LONG VACATION』や『FOR YOU』のように、「プール」や「砂浜」「ヤシの木」「スポーツカー」などが印象的に描かれ、都会的な生活と非日常的なリゾートのエッセンスが詰め込まれています。
歌詞
当時の都会的な暮らしを反映
荒井由実「中央フリーウェイ」/
『14番目の月』(1976)収録
ⓒユニバーサル ミュージック
シティ・ポップの歌詞には当時の若者たちの新しいライフスタイルを象徴する「ドライブ」「夜景」「海」などのイメージが多用されています。高速道路から見える風景を歌う「中央フリーウェイ」はその典型例。また松原みきの「真夜中のドア〜stay with me」のように、日本語の中に突然英語が飛び込んでくる歌詞は、海外のリスナーからも人気が高いんです。
70〜80年代のカルチャー
音楽を外に持ち出す文化が流行を後押し
1980年代前半には、景気がよくなったことで、若い人たちでも車を所有できるようになりました。同時に、カセットテープを再生できる携帯音楽プレーヤーやラジカセといったデバイスが普及し、ドライブや電車で音楽を外に持ち出して聴く文化が定着しました。おしゃれで聴き心地のいいシティ・ポップは、そうした新しいライフスタイルのBGMとして受け入れられていった側面があるんです。
シティ・ポップとは…
華やかな都会を歌う
ポップ・ミュージック
再発見され、膨張していく掘りがいのある「いい音楽」
シティ・ポップとはいったいどんな音楽なのか…? そんな疑問に対しては、ひとまずこう答えられます。
「1970年代から80年代の、特に米英のロックやソウルに親しんでいた日本のアーティストや作曲家たちが、その洋楽的なセンスを自分たちのライフスタイルに反映させて作った音楽」。自分たちが聴いているカッコいい洋楽を、歌謡曲や演歌ではない形で昇華したいと思っていた人たちの音楽が、「シティ・ポップ」と呼ばれ一大ムーブメントとなった。これがもともとの意味合いなんですね。
ただ、そこから時を超えて2010年代から現在までに、シティ・ポップはYouTubeやTikTokを通じて欧米やアジアのリスナーに“再発見”され、その言葉が指す音楽の範囲が膨張していきました。2020年末には、松原みきの「真夜中のドア〜stay with me」が、Spotifyのグローバルバイラルチャートで18日連続1位を獲得。昭和時代の音楽が、今世界的に評価されているんです。
海外の人たちは、シティ・ポップを歴史や理屈抜きで「いい音楽」として聴いている側面もあります。ここ2、3年はTikTokなどのバズリや有名アーティストのサンプリングで海外からの新発見が続きっぱなし、みたいな状況になっているんです。明確な定義はないけど、シティ・ポップは包容力があるジャンル。若い世代の人たちにも、この正体不明のワードから広がる音楽の世界を好きなように掘り起こしてほしいですね。
松永良平さん
レコード店勤務の傍ら、雑誌、ウェブを中心に記事執筆を行っている。著書に『ぼくの平成パンツ・ソックス・シューズ・ソングブック』(晶文社)など。
Photos:Takahiro Idenoshita Hair & Make-up:Rika Tsutsui[Cake](for Fujiwara) Stylist:Nobuko Ito(for Fujiwara) Illustrations:Yutaka Nakane Text:Kohei Hara Shunsuke Kamigaito
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