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今回は、ドキュメンタリー映画『あなた、その川を渡らないで』をご紹介します。普段、あまりドキュメンタリー映画は観ないのですが、1年くらい前に何となく選んで観たら、すごく面白くてよかったんです。
韓国の田舎で暮らす、高齢のお爺ちゃん、お婆ちゃんを追った作品です。“もしかしたら、カメラが回っているから、こういう言動をしているのかな!?”なんて思っちゃったりもするのですが、そうだとしても、幸せそうに暮らしているこの姿は本物だ、と思いました。元気で可愛い2人の様子に観ている僕まで幸せな気分になれました。
『あなた、その川を渡らないで』DVD発売中
価格:¥4,180(本体¥3,800)/発売元:アンプラグド/販売元:ポニーキャニオン
結婚76年カップルの可愛さと深い愛
この2人は、早くに結婚し、お婆ちゃんが14歳の時からずっと一緒に暮らしてきたんです。子供にもたくさん恵まれ、色んなことを経験して。本当に長い間、一緒に過ごしてきた人に対する、思いの深さが伝わって来ました。
2人の日常――例えばご飯を食べるシーンでは、お婆ちゃんが作って、お爺ちゃんに「味見して」と言って食べさせながら、「あなたのために作っているのよ」みたいな会話をしていて、もう“ラブラブじゃん!”って(笑)。
(C)2014 ARGUS FILM ALL RIGHTS RESERVED.
2人にとっての幸せのかたち
お婆ちゃんが「私がもしいなくなったら、どうするのよ!?」ってお爺ちゃんに聞くと、お爺ちゃんは、“僕は料理しないよ。ご飯作って”と素直に甘える。それに対してお婆ちゃんは、「この人が美味しそうに食べるのを見るのが幸せなの」と。今の時代、“夫も手伝え!”と言われてしまいそうですが(笑)、今の社会や世の中がどうあろうと、この2人が幸せなら、そんなことは本当にどうでもいいよな、と思いました。この2人の関係性は、これでとってもステキだな、と。もちろん僕が料理しない、ってことじゃないですよ!
(C)2014 ARGUS FILM ALL RIGHTS RESERVED.
あ、同じことを『Ray/レイ』や『かそけきサンカヨウ』の回でも言ってますね。家族も夫婦もそれぞれの形があって、それでいいじゃないか、と。この2人を観ていたら、今回もまたそんなことを感じました。最近、世の中の同調圧力の強さを感じることも多くて、でも自分の好きなものや個性を、真の意味で尊重できるようになっていければいいなという思いが、色んな作品を観るたびに湧いてくるんです。
見逃せない全身ピンク!
(C)2014 ARGUS FILM ALL RIGHTS RESERVED.
また、2人の衣装がとても可愛いんですよ。チマチョゴリと呼んでいいのかな。2人がピンクや淡い黄色などカラフルなそれをお揃いで着ているのですが、特にお爺ちゃんが全身ピンクで似合っちゃうの、MEN’S NON-NOとしては無視できない(笑)。あれを着こなしちゃうって、お爺ちゃんスゴイと感心しました。そのお揃いの服で、手を繋いで買い物に行ったり、農作業に行ったり。そして寝るときも、お爺ちゃんがお婆ちゃんと手を繋いで寝るんです。
お爺ちゃんが無言で踊っている姿も面白いし、犬の赤ちゃんのエピソードも笑っちゃいました。近くの教会で放し飼いにしている犬が、自分の飼い犬を妊娠させたと怒っていて、生まれた仔犬を全部教会に引き取ってもらうぞ、と息巻いているんですが、いざ生まれてみたら“もうちょっと育ってからでいいよ”って。可愛いから手放したくないんですね(笑)。
お婆ちゃんが膝を痛めて病院に行くときも「無理しないで」と言われたお爺ちゃんが、「自分が行きたいから、行くんだ」と、また手を繋いで一緒に行くんです。でも病院では終始不安そうな冴えない顔。そんな時、目の前を通り過ぎるレントゲン技師さんに驚いて、キョロキョロ二度見する大袈裟な仕草に、“人って、リアルにこういう仕草ってするもんなんだ!”という発見もありました(笑)。
その後、診察が終わって安心したお婆ちゃんが「(注射の時)痛くしないで、ってお医者さんに言ってよ!」とふざけて、お爺ちゃんの顔に笑顔が戻る瞬間も、すごく幸せになりました。
一方、子供や孫が集まっているお婆ちゃんの誕生日に、いきなり長女と長男の喧嘩が始まってしまってしまう、そんな場面もあります。止めようとする人も、本気で間に入って(笑)。うわ、スゴイな、ドキュメンタリーだからこそ観られる瞬間があるんだな、と思いました。
(C)2014 ARGUS FILM ALL RIGHTS RESERVED.
お爺ちゃんが重い鏡を強引に自分で掛けようとするけれどできなくて、不機嫌になってしまったり。子供たちが掛けてくれるのですが、その鏡に映るのは、後ろの方にポツンと座っているお爺ちゃんの姿(笑)。そういう何気ないシーンも、とにかくすべてがよかったです。
ドキュメンタリーだから伝わる思い、文化…すべてが面白い!
映し出されるのは、人生――愛、家族、夫婦、そして“死”というものに向き合うこと――。これから僕ら世代が、両親の介護をしなければならない日もいつかは来る。そういうことを自然と考えさせてくれる作品でもありました。また、色んな韓国の文化――お正月にお爺ちゃんお婆ちゃんのところに遊びに来て、礼儀正しくちゃんとした挨拶をするとか、やっぱりキムチを食べるんだなとか、お墓ってああやって作るのかとか、色々な“へぇ~”がありました。映画で、自国とは違う文化に、“へぇ~”とたくさん思えるのも、すごくいいことだし大事だと思います。
フィクションと違って、ドキュメンタリーは一人ひとりが主役として、自分の人生を生きている姿が映っている。リアルな生活を切り取るからこそ、本物が見られるし、知ること、感じること、考えることにおいても、フィクションとは、また違う受け取り方ができるんだな、と知りました。
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お婆ちゃんが「あの人が逝った後に、私が逝くし、その後に犬が逝くし……」と、“死”を当たり前のこととして既に受け入れているように言うシーンがあります。これだけの年月を生きてきて、“いい人生だった”と思える人たちだからこそ、あんな風に在るんだろうな、と。お爺ちゃんも「花と人間は一緒だ」的なことを言うんです。悲しいこととしてではなく、死を自然なこととして受け入れている。あぁ、人間だな、と思いました。
それぞれにとっての“幸せ”を大切にしたい
僕も、手を繋いで歩くようなお爺ちゃんお婆ちゃんになりたいです。例えば手を繋いで寝ている姿や、一緒にご飯を食べている姿、草を刈って一緒に燃やしている姿など、他人からしたら小さな幸せに見えるかもしれない。でも、2人にとっては、それが大きな幸せなんだ、と思うから。
(C)2014 ARGUS FILM ALL RIGHTS RESERVED.
僕は今、きらびやかだと自分も想像していた世界で仕事をしていて、確かにキラキラしたところだし、もちろん楽しいけれど、それが幸せとは直結しない、と感じてもいます。お芝居をしていてまだまだ満足感や達成感もなければ、完璧に出来たと思える瞬間もない。もちろん褒めていただいたり、賞をいただいたりして、“幸せ”と思うこともあるけれど、それは人の目に見えている大きな幸せ。でも、自分が“幸せだなぁ”と思えるもの――例えば、いい音楽に出会ったとき、お香を焚いてコーヒーを飲んでいる時間、とってもお天気で雲の流れがよく見える朝、僕はそれだけで幸せを感じるんです。幸せも、人それぞれ。色んな幸せがあるのだから、自分の幸せをちゃんと見つけて、大切にしていかないとな、と本作を観て思いました。
後半、お爺ちゃんが、ほぼ寝たきりになってしまう場面があります。子供たちがちょくちょく見舞いに帰って来るのですが、病床のお爺ちゃんに娘さんが「食べて元気になって」と言っている後ろで、お婆ちゃんが目に手を当てて静かに泣いているんです。その画――寝ているお爺ちゃん、娘、斜め後ろにお婆ちゃんという並びの構図が、なんかリアル過ぎてグサッと来て。多分、そこから撮るしかなかったんでしょうが、なかなか見たことのない構図に、ドキュメンタリーだからこその、作り込まれていない画のリアルさを感じました。
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『あなた、その川を渡らないで』
2014年/韓国/86分/監督・撮影:チン・モヨン
周りに家のない韓国の田舎で、結婚76年を迎える98歳のチョ・ビョンマンと89歳のカン・ゲヨル夫婦は、2匹の犬を飼いながら、仲睦まじく暮らしている。少しずつ弱っていく身体を互いに心配し合いながら、お揃いの服に身を包み、手を繋いで出かけては、草を刈ったり、川に行ったり、買い物に行ったり。しかし次第に年上のおじいちゃんが咳込んで寝たきりになるようになってしまう。第21回ロサンゼルス映画祭最優秀ドキュメンタリー作品賞ほか、多数受賞。
年末にかけて『ドラゴン桜』と『MIU404』の一挙放送があります! 『この初恋はフィクションです』の放送が終わって、YouTubeで全話配信されていつでも観られるようになったので僕も見返したりします!
日々色んなことに悩んでますが、ポジティブでいられているので幸せだなぁと感じるこの頃です。
Text:Chizuko Orita
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