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【鈴鹿央士の偏愛映画喫茶vol.2】若き鬼才ドラン監督の自由で鮮烈な表現力!『マイ・マザー』『Mommy/マミー』

【鈴鹿央士の偏愛映画喫茶vol.2】若き鬼才ドラン監督の自由で鮮烈な表現力!『マイ・マザー』『Mommy/マミー』

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先月から始まった、僕が映画を紹介していく新連載、第1回目はいかがでしたか? 


 今回は、『マイ・マザー』と『Mommy/マミー』の2本を紹介したいと思います。この2作品を撮ったのは、カナダ出身の鬼才、グザヴィエ・ドランという監督です。

(左)『マイ・マザー』(’09)/私物

『Mommy/マミー』(’14)
ブルーレイ:¥5,170/DVD:¥4,180/発売元:ピクチャーズデプト
 (C2014 une filiale de Metafilms inc. / Photo credit : Shayne Laverdiêre

「ヤベェ人」に「スゲ~ッ」となった

 僕とドラン監督作品の出会いは、ドラマで共演した同い年の俳優・倉悠貴に「ヤベェ人を見つけた!!」と教えてもらったことから始まります。勧められて『マイ・マザー』をすぐに観たら、僕も「うわぁ~スゲ~ッ」ってなりました(笑)。

 “顔”のアップなど色々な静止画をバンバン重ねる見せ方や、その表現の仕方、映像の切り取り方に“スゲ~ッ”を連発しました。テロップも、普通は白抜き文字ですよね。まさか赤字で入れるとは、と驚いたり。しかもドランが19歳のときの作品で、監督・脚本(17歳で執筆!)・製作、そして主演も務めたなんて、とても信じられないくらい。

 映画の冒頭は、17歳の主人公・ユベールが独白するモノクロ映像。独白の後、すぐにカラーに切り替わり、ユベールと母親のとても激しい物語が始まります。2人の間で言葉は行き交っているけれど意味がないというか、意思の疎通が出来ていない。ユベールが母親を“アルツハイマーだ!!”と罵倒したり、母親の方も前日と言っていることが180度変わったり。
 僕も17歳頃は、母親に怒られてパッとよく分からないことを言い返してしまったことはあったかもしれない。でも、あんなに母親といがみあったり、激しく言い合ったりしたことはないなぁ…。あの時期(思春期)って、家族に対して愛はあるんだけれど、うまく言葉に出来ないもどかしさがあるのかな。きっとドラン自身が、自分の中でバンッと爆発しそうだったり、爆発するものを欲していたのかな、とも感じたりしました。

 そんな中、寄宿学校に帰るユベールを母親がバス停まで送るシーンがとても印象に残っています。ユベールが“僕が死んだらどうする?”と聞くと、母親が“次の日、私も死ぬ”って返すんです。そのセリフに母親の強い愛を感じたのと同時に、その返し方がオシャレというか粋というか、なんかすごく惹かれました。この母と息子は心の状態がいい時と悪い時、オシャレに見える時とプア感がすごい時、その差が激し過ぎて、観ていて本当に忙しいんです。2人とも感受性が豊か過ぎるというか……。僕、やっぱり繊細な人の物語が好きなのかな、と思います。

 『マイ・マザー』から5年後に撮られた『Mommy/マミー』も、母親と息子スティーブの物語で、似ていると言えば似ています。『Mommy/マミー』のお母さんもエキセントリックで(笑)。しかも『マイ・マザー』の母親役と同じ女優さんなんです。さらに『マイ・マザー』でユベールに理解を示してくれた担任が、『Mommy/マミー』では、スティーブに勉強を教えてくれる休職中の教師の役で出演しています。そんな妙な繋がりもあって、そこにもすごい演出力を感じました。


『Mommy/マミー』は、なんと画面サイズが正方形で始まり、その斬新さにも驚きました。さらにスゴイのが、オアシスの『ワンダーウォール』という曲に乗って、スティーブがスケボーで走って来るのですが、彼が両手を伸ばして画面サイズをわ~っと(通常のスクリーンサイズまで)広げるんですよ。それを観た瞬間「え~っ!!! なんだこれ、スゲ~ッ」となって。両手で正方形を長方形に広げるアイディアは前々からあったらしく、現場で撮影カメラマンさんと、一緒に話し合っていたらしいんです。そういうこともさらにスゴイな、と思いました。

 画面が広がるその瞬間は、少年の世界が広がっていく、少年自身の変化や幸せともリンクしているんです。だから再び正方形に戻ったりもして。いつか僕が映画を撮れるときがきたら、あのシーンはパクリたい(笑)!! 堂々とパクリました、と言っちゃいたいです。正方形から画面比率が変化していくのは新鮮でした。

選曲が最高過ぎて踊ってしまった(笑)

 僕はオアシスも大好きで、だからオアシスが歌う前に咳払いする“ウォッホン”という声を切らずに、そこから使ってくれているのが、もう嬉しくて(笑)!! 音楽の使い方も、この映画で僕が最も好きなところです。セリーヌ・ディオンの『ON NE CHANGE PAS』をかけて3人で踊るシーンでは、家で観ていたのをいいことに、僕も一緒に踊っちゃいましたもん(笑)。選曲が最高なんです!


 母と息子の愛憎というか葛藤と絆みたいな物語も楽しめると思いますが、それ以前に、ドランの“ここでしか味わえない世界観”に触れてみて欲しいんです。僕もまた、ドランの頭の中を覗いてみたいです!

ドランの作品は、“色使い”というか、色彩のセンスもスゴイ。『マイ・マザー』では、ユベールが恋人と、ジャクソン・ポロックみたいに壁に色とりどりのペンキをぶちまけるシーンが大好きで印象に残っています。『Mommy/マミー』でも、食卓のシーンで光の入り方がエゲつなく印象深いシーンが。ドランの中に家族の記憶とかがあるのかな。ちょっとざらざらした感触を残した映像なんですが、温もりが感じられる木のキッチンで、お母さんの顔が真ん中にあって、そこに西日を思わせる強烈なオレンジ色の光が当たっているんです。それがずっと僕の脳裏に残っています。


『マイ・マザー』ありふれた町に暮らす17歳のユベールは、近頃なぜか母親のやることなすこと全てが気に障る。母を愛しながらも、その存在を拒絶したくなる複雑な感情を自分でも持て余していた。2人暮らしの家では言い争いが絶えず、そんな反抗的な息子に手を焼く母は、遂に彼を寄宿学校に入れる決断をする――。09年にカンヌ国際映画祭で鮮烈なデビューを飾ったこの作品で、ドランは“世界を虜にする若き天才”や“恐るべき子供”と呼ばれた。

 

『Mommy/マミー』シングルマザーのダイアンは、矯正施設から退所したばかりの15歳になるADHD(多動性障害)の息子スティーヴと暮らし始める。ところがスティーヴは情緒不安定で、手に負えなくなることが続き、ダイアンは疲れ果ててしまう。そんな折、隣に住む女性カイラと親しく交流するようになり、母と息子の日常は少しずつ落ち着き始めるが――。第67回カンヌ国際映画祭コンペティション部門で審査員特別賞を受賞。


1つドラマがクランクアップし、すでに別のドラマの撮影に入っています。僕自身はまだ撮影日数は少ないのですが、若いキャスト、スタッフが多く集まっていて、とても刺激的な現場です。そして、『かそけきサンカヨウ』(10月15日公開)の初日が迫って来ました。それに向けて頑張ります。

Text:Chizuko Orita

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