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緊張感と柔軟さ。“夢のような”道のりで35周年を迎えた今田耕司インタビュー

緊張感と柔軟さ。“夢のような”道のりで35周年を迎えた今田耕司インタビュー

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高校を卒業したけれど、特にやりたいことも見つからなかった。そんな矢先、たまたまNSCのことを知り、お笑いの世界に飛び込んだ。デビューは1986年。メンズノンノ創刊と同じ年である。90年代に『ダウンタウンのごっつええ感じ』(フジテレビ系)などの出演を通して全国的な人気を獲得し、今や数多くのレギュラー番組を抱えるほか、『M-1グランプリ』(ABCテレビ・テレビ朝日系)や『オールスター感謝祭』(TBS系)といった生放送の特番を仕切るMCとしても活躍している。「ほんまにラッキーやっただけ」と語るこの人にインタビュー。

今田耕司さん

COMEDIAN

1966年、大阪府生まれ。高校卒業後、NSC大阪校に4期生として入校。86年、京都花月にて劇場デビュー。90年に東京へ進出。現在の主なレギュラー番組に『アナザースカイⅡ』『人生が変わる1分間の深イイ話』(ともに日本テレビ系)、『炎の体育会TV』(TBS系)、『開運!なんでも鑑定団』(テレビ東京系)、『今ちゃんの「実は…」』(ABCテレビ)、『ファミリーヒストリー』(NHK)などがある。芸能界屈指のアローン芸人としても知られ、ひとりぼっちの自宅で唯一の同居人Pepperと謎のコミュニケーションを繰り広げるYouTubeチャンネル「今ちゃんねる。」も人気。

大きな特番に限らず、普段の仕事でも緊張はする

――4月14日から舞台『てれびのおばけ』の幕が上がります。今回は霜降り明星のせいやさんとダブル主演ですが、そもそもこの舞台は今田さんが主演で、放送作家の鈴木おさむさんが作・演出を務めるかたちで2008年に始まり、今回が第7回となります。どういうきっかけでやることになったのですか?

始めたときは年齢的に40歳を過ぎた頃で、ある程度キャリアを積んでくるとそれこそ緊張で逃げ出したくなったりとか、口から心臓が飛び出しそうになるくらいドキドキしたりってことがなかなかないんですよ。「若い頃のあのドキドキとか緊張はもう味わえないのかな」みたいな話をしていたら「だったら、舞台がいいですよ」とすすめられて「おさむくんとやってみたら面白いんじゃないですか」ということで会ったのが始まりですね。今回で7回目になりましたけど、正直言うと「今年はやります」と言われた時点で気が重いです(笑)。もう常に頭のどこかに舞台のことがある状態になっちゃうので。ただ、舞台をやられている方がよく言いますけど、終わったときの達成感とか感動はちょっとほかにはないものがありますね。

――『M-1グランプリ』とか『オールスター感謝祭』の司会でも緊張はしないんですか?

いや、緊張はするんですよ。後輩の芸人からもよく「緊張するんですか?」って聞かれるんですけど、いやいや、当たり前やがなって話で。べつに大きな特番に限らず、普段の仕事でも緊張はしているんです。さすがに若手の頃のあのガチガチした感じではないですけどね。どんなにベテランの人でも多少なりとも緊張していると思いますよ。前にウエンツ(瑛士)が収録の合間に(明石家)さんまさんと立ち話をしていて「さんまさんってもう緊張しないですよね?」と聞いていたことがあって。興味あったから聞き耳を立てていたら「緊張するよ」と言ってはりました。あのさんまさんでも緊張はするんですよ。

――いい意味での緊張感は大事だって言いますしね。

そうなんですよ。緊張するからあかんということでなくて、緊張をどううまくコントロールするかということだと思いますね。ほどよく緊張した状態を保ったまま楽しくできているときはうまくいきますし、ガチガチなときはやっぱりかみ合ってないことが多いですからね。


隠そうが隠すまいがどっちでもええんちゃうかな

――今田さんは1986年がデビュー年ですが、実はメンズノンノも1986年に創刊しているんです。

へぇー。じゃあ、同期じゃないですか。

――そうなんです。今年で35周年になりますが、あらためてここまでの道のりを振り返ってどんな半生だったなと思いますか?

ひと言で言うとしたら、夢のようなというのがいちばんふさわしいかなと思いますね。10代の頃はほんまに悶々(もんもん)としていて、やりたいことも特になかったし、明日も見えないような状況だったのが、なんや知らんけど、突然夢のような道がばーっと目の前に広がったみたいな感じですね。

――やりたいことがなかった人がここまでなっちゃうというのがすごいなって思います。

ほんまにラッキーやっただけです。結局、お笑いとかテレビが好きだったからだと思いますね。小さい頃からテレビを観ることがなによりも楽しみなイベントでしたし、そこに出られるというのはやっぱり夢のようなことでしたから。

――今度の『てれびのおばけ』は、現代と1980年代の2つの時代でテレビをつくる人たちの物語となっています。今は芸能人がYouTubeをやったり、テレビ以外にも活動する場がありますし、昔と比べるといろいろ変わったなと思いますか?

お笑いで表現できることは一緒だと思います。昔に比べるとテレビが攻めにくくなっている時代なのは間違いないですけど、テレビでできないことをYouTubeでやったりできますからね。今はテレビでネタをやるとしたら3分で、M-1でも4分です。もし10分のネタをやろうと思ったら、これまでは劇場ぐらいでしかできなかったのが、YouTubeだったら好きなだけできる。この間、せいやのYouTube(「せいやのイニミニチャンネル」)に出て、僕も好きな金八先生の名シーンをふたりで延々とやったんですけど、あれなんて絶対にテレビではできないと思いますよ(笑)。

――むしろ楽しめるフィールドが広がったという感じなんですね。

はい。昔のテレビのほうが面白かったという人もいますけど、おもろい番組もあれば、おもんない番組もありましたし、それはYouTubeだって同じです。ただ、面白いっていうのは結局は個人の好みで、僕の面白いと誰かの面白いは違うわけですよね。だから、面白いってひとつじゃなくて、いっぱいあるというのは昔から思っていて、笑いのないシリアスなお芝居であっても観終わった後にめちゃくちゃ面白かったと感じることってあるじゃないですか。ワハハって笑うものだけが面白いじゃなくて、ほっこりして面白いとか、過激で面白いとか、いろいろな種類の面白いがあって、それを表現しやすい状況になったなと思いますね。

「面白いってひとつじゃなくて、
いっぱいある」

――今田さんも2020年の4月からYouTubeで「今ちゃんねる。」を始めました。自宅が映ったりして、それまでプライベートは明かさないタイプだと思っていたので、意外でした。

「今ちゃんねる。」のディレクターをやってくれている人が昔からの知り合いで、プライベートの旅行で撮った動画を自分でも編集してみたいと思って、個人的に動画編集のやり方とかを教えてもらっていたんですよ。自粛期間中もウチに教えに来てもらっていて、そのときに僕がPepperとしゃべっているのを彼が撮っていて「こういうのをYouTubeで流しましょうよ」と言われたんです。それまでも吉本から「YouTubeはどうですか?」と聞かれていて、そのときはやる気はなくて断っていたんですけど、自粛期間中がめちゃくちゃ寂しくて(笑)。あと、自分のプライベートを隠そうが隠すまいがどっちでもええんちゃうかなという気になったんですよね。隠すほどのスターでもないやろって。

――いやいや、誰もが知る超大物じゃないですか。

なに言うてんですか。大物なわけありまっかいな(笑)。僕、梶原一騎先生のファンで、『プロレススーパースター列伝』とか大好きだったんですよ。だから、ファンタジーというんですかね。今でこそタイガー・ジェット・シン(昭和を代表する悪役レスラー)が紳士だというのはよく知られてますけど、現役時代は“インドの狂虎”と呼ばれて、本当に新宿の伊勢丹前で夫婦で買い物中だったアントニオ猪木さんを襲撃したりして「こいつ、なにしてんねん。絶対に頭おかしいやろ」って当時は本気で怒ってました。あとになって仕組まれたことだってわかるんですけど、そういう謎とかファンタジーがあったほうが想像が膨らんで好きだったから、何となく自分でもプライベートは見せないほうがいいのかなって思ってたんです。でも、誰もそんなの気にしてないだろうってことにやっと気がつきましたわ(笑)。


興味を持ったならその瞬間から始めればいい

――今田さんは将来的にどういう人になっていたいみたいなイメージはあるんですか?

この取材の前にテレビの収録があって、千鳥にドッキリを仕掛けられたんですよ。自分としては、いつまでたってもそういう存在ではありたいなと思いますね。貫禄がないからあれですけど、僕ももう55歳ですから、やっぱりちょっと考えますよ。これまでと同じ仕事量ではなくなるだろうし、ニーズも変わってくるじゃないですか。ありがたいことに40代から大きな特番とかやらせてもらってきて、でも僕が今やっているようなことは下の世代の子がどんどんやっていくようになると思うんです。代謝は必要ですから。なので、自分が楽しく発信できる場所というのは探していかなあかんなと思いますね。

――そんなオープンな考え方をしているとは思いませんでした。

時代とか環境によって、どんどん変わっていけばいいと思うんです。こだわる部分はこだわったほうがいいですけど、なんでもかんでもこだわっていたら自分の可能性がどんどんなくなっていく気がします。だから、何でもいいと思うんです。YouTubeに対して今までずっと否定的だったとしても、興味を持ったならその瞬間から始めればいいんですよ。自分がやってみたいと思ったらやってみればいいし、誰か背中を押してくれる人がいて、この人が言うならやってみようかなということで始めてもいいと思うんですよね。

――失礼な話ですけど、すごく柔軟ですよね。いわゆる大御所みたいな感じなのかなと勝手に思っていました。

大御所ちゃいますから(笑)。まぁ、でも、昔はインタビューとかでもあまりしゃべらないというか、こういうことを言うのは恥ずかしいと思っていたので、伝わりようがなかったんですけどね。仲よくなった後輩からも「ずっと怖い先輩だと思っていました」って言われますし、それこそ千鳥の大悟にもまんまなことを言われました。自分ではそんな意識ないんですけど。柔軟と言っていいのかわからないですけど、なんでもいいねんもんという気持ちはありますね。だって、19歳で吉本の学校に入るまでなにもなかったですから。この世界に入ってなかったらどうなっていたんやろうって考えると、ほんまに今でもぞっとしますよ(笑)。


『てれびのおばけ』

脚本・演出:鈴木おさむ
出演:今田耕司、せいや(霜降り明星)、藤田 玲、石井杏奈

会期:4月14日(水)~4月18日(日)〈全7公演〉
会場:下北沢・本多劇場

面白いって何なのか? 伝えるって何なのか? テレビの正義って何なのか? 現代と1980年代。2つの時代を通して描くテレビをつくる人の物語――。3年半ぶりとなる今田耕司×鈴木おさむの演劇シリーズ第7弾。テレビに生き続けてきた今田耕司と、テレビだけでなくネットでも面白さを表現するせいや(霜降り明星)のダブル主演の舞台。

Photos:Kyouhei Yamamoto Composition & Text:Masayuki Sawada

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