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18歳のとき、当時つき合っていたカノジョに誘われ、パチンコに。それが借金ロードの始まりだった。なくなれば借り、あれば使い。そんな生活を続け、気づけば1,000万円以上の借金を抱える身となった。だが、当の本人は、これといって悪びれる様子もなく、むしろ面白おかしく借金生活を語る。借金をすることでお金の意味や人とのつき合い方を学んだという、この愛すべきクズ芸人にインタビュー。
岡野陽一さん
COMEDIAN
1981年、福井県生まれ。プロダクション人力舎所属の芸人。京都産業大学外国語学部英米語学科中退。
2008年にお笑いコンビ「巨匠」結成。16年にコンビ解散後、ピン芸人に。「R-1ぐらんぷり2019」ファイナリスト。
現在『矢口真里の火曜The NIGHT』(ABEMA)、『ドランクドラゴンのバカ売れ研究所!』(BS12)にレギュラー出演するほか、『ヤングアニマル』(白泉社)、『クイック・ジャパン ウェブ』にてコラム連載中。
1万5000円を絶対に取り返したくて
――岡野さんといえば、ギャンブル好きとして有名です。ギャンブルでつくった借金が軽く1000万円を超えているそうですが、ハマったきっかけは何だったんですか?
僕、地元が福井県の敦賀市というところで、高校を出て、京都の大学に行ったんですけど、大学に行くまでの間がちょっとあるじゃないですか。その時期が本当にヒマで、当時カノジョがいたんですけど、カノジョから「パチンコ行ってみる?」と誘われて、それで初めてパチンコ屋に行ったんです。ワケもわからない状態でとにかくやってみて、たしか『海物語』だったのかな、あっという間に1万5000円がなくなったんですよね。
――痛いですね。
その当時、時給650円のバイトをしていたんですよ。それで服とか買っていたのに、こんな理不尽に1万5000円失ったのが許せなくて。だって、650円だと23時間は働かないといけないんですよ。絶対に取り返してやると思って。それが始まりですね。
――二度とやらないじゃないんですね。
そこで分かれるんでしょうね。ギャンブルなんてバカらしいと思う人と、取り返したいと思う人と。僕は後者で、いまだに取り返そうと思う旅が続いているわけです(笑)
――そこからパチンコ漬けの日々だったわけですか?
カノジョは東京の大学で、僕は京都の大学だったから、誰も知り合いがいなくて。でも、パチンコはひとりでできるので、授業にも出ずにずっとパチンコ屋に行ってました。もう楽しくてしょうがなくて、4年間ほぼ休みなしで通ってましたね。結局、大学は単位ゼロで辞めちゃいました。
これ以上借りたら首吊らなあかんで
「負けるときは負ける。
人生と同じですよ」
――軍資金はどうしていたんですか?
初めのうちはなくなると親に連絡して、適当なウソをついて借りてました。ただ、それも通用しなくなって、そうしたら京都って学生の街なので、学生ローンがいっぱいあるんですよ。最初は入るのが怖かったけど、入ってみたらめちゃめちゃいい人たちで、簡単に貸してくれるんです。学生証を見せたらいきなり10万円貸してくれて。利息は当時で月3000円ぐらいだったから、それを返していればいくらでもいけるなと思って、そこから学生ローンにハマりました。学生ローンって多くても1社あたり30万円が限度なんですけど、限度額になったら次のお店を紹介してくれるから、そこでまた借りて。利息分だけでもちゃんと返していると、「お前はいい人間だから、もっと貸してやる」と言われるんですよ。
――もっと貸してやるって(笑)。
それで結局150万円ぐらいまで膨らんで。ある日、いつものようになくなったから、「すみません、貸してください」と言いに行ったら、「貸すのは全然いいけど、これ以上借りたら、兄ちゃんたぶん首吊らなあかんで」と言われたんですよ。京都弁で。それが異常に怖くて。そこから超マジメにパチンコをやり出しました。
――やめるんじゃなくて、超マジメにやると(笑)。
はい。それまでは楽しくやっていたんですけど、首吊るのはイヤだなと思って、真剣にパチンコと向き合いました。本を読んで勉強して、開店前から並んで、閉店前に台のデータも全部チェックして。そうしたら1~2年で150万円すべて返したんですよ。
――すごいじゃないですか!
真剣にやれば勝てるんです。その頃は月に50万~60万円は稼いでいたかな。けど、これが悪かった。自分は150万円ぐらいは真剣にやれば返せる人間なんだと思っちゃって。それで26歳のときに芸人になるんですけど、芸人をやりながらだと真剣にパチンコに向き合えないんですよ。時間もないし、勉強するのも面倒くさくなってきて。そうなるとお金もなくなるから、カード会社から借りるようになって、気づくと借金が300万円ぐらいになってました。それでも月20万円ぐらいは何とか返していたんですが、さすがに回らなくなって、よし今度は知り合いから借りようと。
――知り合いとのお金の貸し借りはトラブルになりがちですけど、大丈夫なんですか?
僕、気づいたんです。お金を貸してくれと頼まれたら、たいていの人はイヤな気持ちになりますよね。だから、貸し借りのやりとりはできるだけ少ないほうがいいんです。3万円を10回借りるのと、30万円を1回借りるのだったら、30万円を1回のほうがやりとりする負担が1回で済むから、絶対にいいんです。なので、僕は債権者さまのことを一番に考えて、ちょこちょこ細かく借りずに、1回でドンと借りるようにしています。そうするとお互い気持ちいいんですよ(笑)。
――貸してくれる人と貸してくれない人の見分け方ってあるんですか?
めちゃめちゃ真剣にお願いしたら、誰でも意外と貸してくれます。ただ、誰にでも借りちゃうから、トラブルになるんです。なので、僕は本当に仲のいい人からしか借りないし、余裕のない人からは借りないようにしています。急に返せと言われても困るじゃないですか。借りる側も貸してくれる人をちゃんと選んだほうがよくて、その人が本当に貸してくれるタイプかどうか、軽く探ってみたほうがいいと思います。僕がよく使うのは、「どうしても散髪に行きたいから、60万円貸してくれないか」ってやつで、これで笑った人は基本借りられますね。けど、お金を貸してくれた途端、急に態度が大きくなる人もいるんですよ。そういう人からは二度と借りてあげないようにしています。
――借りてあげないって(笑)。
そうですよ。1回借りると人間性がわかりますね。イヤなやつはすぐわかります。
自分の思いどおりになんて絶対ならない
――借金があることは当たり前というか、もう全然気にならないんですか?
ないならないに越したことはないですよ。借金を返し終わった先輩の話を聞くと、空の色が違って見えるとか言いますから、その景色を見てみたいなとは思います。
――早く返してラクになりたいという思いはないんですか?
それはないんですよね。べつに借金返すために生きているわけじゃないですし、お互い納得のうえでお金を貸し借りしているだけなので、何も悪いことしてないと思うんですよ。借金していると犯罪者のように言われますけど、僕は全然ぴんと来てなくて、小学生のときの消しゴムの貸し借りみたいな、そんな気持ちなんですよね。ただ、お金はあると使っちゃうから、最近は人にあげるようにしています。
――あげるんですか⁉
はい。あってもギャンブルに使うのがわかっているので、それだったらお金のない若手とかにあげたほうが意味があるんじゃないかなと思って。よくわからないですけど、マザー・テレサの気分ですよ(笑)。
――あるとギャンブルに使っちゃうんですね。
そうなんです。競馬も重要なシーズンに入りましたし。パチンコはやっぱり1日いてもそんなに負けられないんですよ。15万円とか負けたら大変なほうです。でも、競馬っていくらでも負けられますから。この間もスクーターが1台、いや2台買えるぐらい負けました。
――それくらいの金額だったら、もう何とも思わないんですか?
もう慣れました。何とも思わないようになりましたね。最初の頃はいちいち悔しがっていたんですよ。負けた。最悪だ。行かなきゃよかったって。でも、一喜一憂していると疲れて、毎日できないんです。大好きなパチンコを毎日したいじゃないですか。だから、5年目ぐらいからはどんなに勝っても負けても一定の気持ちになりました。
――ある種、悟りの境地みたいなものですね。
そうです。ギャンブルを続けるための努力かもしれないですね。一喜一憂していたら体がもたないですから。そのうち日常生活も感情があんまりなくなりましたね。たまにイラッとすることはあっても、機嫌が悪くなったりとか、怒ったりということはないですね。いたって穏やか。パチンコのおかげです(笑)
――人間が丸くなったんですね。
だって、いくら怒っても出ないものは出ないですから。怒ってよくなるなら怒ればいいけど、絶対にそうならない。自分の思いどおりになんて絶対になりません。それはギャンブルから学びました。怒る理由って、「俺はこんなにやっているのにわかってくれない」とか、そういうことが多いと思うんですけど、そんなの当たり前なんですよ。朝5時に起きて、先頭に並んでも負けるときは負けるんです。人生と同じですよ。パチンコも競馬も本当に人生と同じだなって思います。
Photos:Takahiro Idenoshita Composition & Text:Masayuki Sawada
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