▼ 広告枠 : front-page archive singular : header ▼

人生全部が「思い出づくり」なのだ【連載】カツセマサヒコ「トーキョーカンバーセーションズ」最終回

人生全部が「思い出づくり」なのだ【連載】カツセマサヒコ「トーキョーカンバーセーションズ」最終回

▼ 広告枠 : singular : article-top ▼

▼ WPの本文 ▼

今日もどこかで、だれかが喋ってる。小説家カツセマサヒコさんの1話完結、オール会話劇!<メンズノンノ2023年1・2月合併号掲載>

 

「スッゲーいい天気」

「ね。俺、冬が一番好き」

「わかる。俺も」

「夏、長すぎ」

「ほんと。毎年延びてる気がする」

「もう秋とか春、ほぼないよね。日本には夏と冬しかない」

「日本のいいところを挙げてくださいみたいなときにさあ、『四季』もそうだけど、昔はもうちょいあった気がするのに、いま『スポーツ観戦のあとでゴミ拾いする』と『水道水が飲める』くらいしかなくない?」

「それ、ゴミは捨ててるやつが先にいるから拾ってるわけで、実はプラマイゼロだよ」

「うわ、じゃあ日本、水道水しか魅力がないってこと?」

「寂しすぎるねえ」

「えー、富士山は?」

「あーアイツはダメ。世界じゃまるで通用しない」

「なんで富士山に厳しいんだよ」

「海外にはアイツの2倍くらいデカい山がゴロゴロいるから。富士山なんか勝負になんない」

「なに、山のワールドカップの監督とかやってた?」

「ちなみに私、エベレスト以外の海外の山、1個も知らないです」

「マジかよ、それでよく言えたな。ゴドウィン・オースティンは?」

「なんて言った?」

「ゴドウィン・オースティン」

「なんの選手? サッカー?」

「いや、世界で2番目に高い山の名前だよ」

「まじ! 知らない」

「地理で習ったじゃん。別名K2」

「あ、K2は聞いたことある。てか習った? 全然覚えてないんだけど」

「テスト出たじゃん。俺、ヤマ張って当たったの嬉しかったから、覚えてる」

「あ、山だけに?」

「寒いってそれ」

「冬だからな」

「うるさいよ。余計冷えてきた気がするわ」

「ふふ。てか、やっぱりいいな、この道」

「ね。久々だね、あてもなく歩くやつ」

「な。またジャンケンで道、決めるか」

「懐かし! なんだっけ、お前あのとき、メグに片想いしててさ」

「あーうるさいうるさい! 過去、過去!」

「えーなんでよ、すごい奇跡だったじゃん。ジャンケンで進んで行ったところが、片想いの相手の家の前とか」

「いや、確かにすごかったけど」

「お前あの後、結局キングヌー歌ったの?」

「あ、カラオケ?」

「そうそう。練習してたじゃん、ヌー」

「歌わなかった」

「なんで? メグ、聴きたかったんじゃないの?」

「歌おうとしたら、一人でヌーはやめてって言われた」

「ギャハハ! 確かにな!」

「変なこと思い出すなよ。てかお前も、元カノの観葉植物、ぜんぶ枯らしてめっちゃキレられてたよな、そのとき」

「あーやめて、それこそ過去すぎる」

「あと、家に帰る電車の中で、オッサンにめっちゃ絡まれてたりな」

「あ、それは俺じゃなくて、友達ね?」

「あ、そうだっけ?」

「そうそう。えーでも懐かし。あと、あれも好き。お前のバイト先のコンビニの、変な先輩」

「あ、木下さんでしょ?  まじでパンクだったからね、あの人。最後、バ先の金盗んで捕まっちゃったし」

「嘘! マジで?」

「まじまじ。元気かな、木下さん」

「ひゃー、人生いろいろあるね」

「ね。駅からめちゃくちゃ遠いのに『吉祥寺に住んでる』って言い切ろうとしたやつもいたしな」

「彼女のLINEの名前を『佐川急便』にしてたやつとかな」

「いろいろありすぎだな?」

「そりゃそうよ、人の数だけ人生があるよ」

「そうな」

「……」

「……でも、その人生もさ、いつか終わっちゃうし、てか、いつかは全部が終わるじゃん?」

「え、なに。デカい話しようとしてる?」

「うん、エベレスト級のやつ」

「オーケーオーケー、続けて?」

「いや、だからさ、どうせ終わるからって思っちゃうと、なんか、全部投げやりになったり、バッド入りそうになるけど、でも実際、ネガティブになるより、楽しい方がいいじゃん?」

「そりゃあそうだろうね」

「でしょ? てか、なんなら、人生全部がさ、死ぬまでの思い出作りなんだよ、きっと」

「あー、なるほど?」

「俺らも高校のときにさ、卒業旅行したじゃん。あんな感じでさ、やばい! 卒業しちゃう! 楽しいことしよう! って感覚が、人生においても大事なのよ」

「そうね、きっとね」

「うん。全部一緒よ。いつかは全部終わるから、全部その前に、ちゃんと思い出作りしとくんだよ。しんどいことばっかりの人生だったなーって思わないように、楽しいこと見つけて、大充実させなきゃいけねえよ。『リア充乙』とか言ってる場合じゃねーから。虚無ってる時間なんてなさすぎるから」

「おお、おお。うん」

「え、引いてる?」

「いや、いつになく真面目だから、どうしたもんかと」

「いやだってよ、お別れじゃんよ、もう」

「あー」

「……」

「え、寂しがってくれてんの?」

「あ、なんだその言い方。ムカつく」

「あははは。えー、だって、なんか」

「なんか」

「今日もしれっと楽しく解散するかと思った」

「いや、俺だってそのつもりだったよ? でも、振り返ってみたら、意外と語りきれねえぞって」

「そりゃね、まあ、付き合いも長いしね」

「そうだよ。それがお前、年明けからもう会えないですよーって言われるとさ、思ったより、きちんと悲しいわ」

「あはは。お前のそういうとこ、好きよ」

「今になって言うことじゃねー」

「あははは、確かに」

「てか、準備は終わったの?」

「あ、引っ越し?」

「そうそう」

「うん。大体は荷物まとめたし、あとは向こうで調達かな」

「そっか」

「うん」

「……いや、マジですげーな」

「何が?」

「だって、海外だぜ? お前が。そんな人生になるとは思ってもなかったよ」

「いや、それは俺が一番意外に思ってるからね? まさかだよ、まさか」

「な、ほんとな。俺らずっとさ、中身のない会話して、ゲラゲラ笑って、そのままでいくんだと思ってた」

「俺も。ずっとそういうのがいいなって思ってたし。それこそ、終わりなんてなくて、ずっと続くと思ってた」

「ね。ほんと。きちんと終わりが来るよ、なんでも」

「しんみりするな~。マジで、終わらないものなんて、1つもないかもね」

「いや、俺らの友情は不滅です! って」

「急にスポ根マンガみたくなっちゃったじゃん」

「あははは。でも、ほんと、なんだろうね、終わらないもの」

「まあ、形あったらいつかは100パー崩れるし、やっぱ無形のなにかじゃね?」

「無形。マジで友情説?」

「友情も、片方死んだ後にはどうなるかわかんない」

「確かになー」

「でもさ、そもそも今の時代なんて、海外でも全然連絡取れるし、SNSとか見てたら近況知れちゃうし、離れてる実感とか、意外とあんまりないかもだよね。そしたら俺たちの関係も別に、終わったってわけじゃないもんな。『終わり』に対して鈍感になってるかもな」

「そうねー。だからあんまり、今回も寂しくないっていうか、不安がないのかも」

「とか言いながら、いきなり音信不通になったりして」

「いや、それもまた、あり得る。人間関係も移りゆくものではある」

「だな。シビアだけど、まあその通りだなー」

「うん。でも、それでもさ」

「うん?」

「たとえば10年会えなかったとしても、再会することになったら、きちんと今日の続きみたいにさ、ニューゲームじゃなくて、コンティニューで始まる関係がいいな」

「それはだいじ。できるだけ、忘れないようにするわ」

「世界で2番目に高い山の名前は忘れても?」

「そんなものより覚えなきゃいけないものが、世の中にはたくさんある」

「そんな胸張って正当化しないでよ」

「あははは」

「じゃあ、いつもの散歩コース、行きますか」

「おう。この道、ぜってー忘れるなよな」

カツセマサヒコ


映画化もされた第1作『明け方の若者たち』での衝撃的なデビューから、第2作『夜行秘密』と人気作を次々に生み出す小説家。ぐさりと刺さる人間模様やリアルな感情の描写が、若者たちから熱い支持を集めている。執筆のみならず、ラジオ『NIGHT DIVER』(TOKYO FM、毎週木曜28時~)など、多方面で活躍中。
最新情報はインスタグラム@katsuse_mからチェックしよう。

※この会話はフィクションです。

撮影/伊達直人

▲ WPの本文 ▲

▼ 広告枠 : singular : article ▼

▼ 広告枠 : singular : article-center ▼

  • HOME
  • LIFESTYLE
  • 人生全部が「思い出づくり」なのだ【連載】カツセマサヒコ「トーキョーカンバーセーションズ」最終回

▼ 広告枠 : singular : article-bottom ▼

RECOMMEND

▼ 広告枠 : front-page archive singular : common-footer-under-cxense-recommend ( trigs ) ▼

FEATURE

▼ 広告枠 : front-page archive singular : common-footer-under-feature ▼

▼ 広告枠 : front-page archive singular : common-footer-under-popin-recommend ▼

MOVIE

MEN’S NON-NO CHANNEL

YouTubeでもっと見る

▼ 広告枠 : front-page archive singular : common-footer-under-movie ▼

REGULAR

連載一覧を見る

▼ 広告枠 : front-page archive singular : common-footer-under-special ▼

▼ 広告枠 : front-page archive singular : fixed-bottom ▼