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今日もどこかで、だれかが喋ってる。小説家カツセマサヒコさんの1話完結、オール会話劇!<メンズノンノ2023年8・9月合併号掲載>
「ごめんね?」
「いや、そんな謝られても」
「うん、わかってるんだけど。でも、うん。謝りたくて」
「あー、まあ、うん」
「怒ってる?」
「いや、怒るっていうか。2人が付き合った時点で、もう怒ってたしなあって」
「そうだよね、本当にごめん」
「私、あの時、結構言ったよね?」
「うん。覚えてる。うん、うん」
「怒ったのに、それでも付き合ったわけじゃん?」
「うん、ごめんなさい。ごめん本当」
「それで、さらに、すぐ別れたってさあ」
「うんうん、ごめん。ひどいね、ひどい」
「いや、ひどいっていうか、なんていうか」
「うん、ごめんなさい、ほんとに。引くよね、てか、自分でも引いてる、うん」
「うん、まあ、ねえ」
「うん、うん、わかる」
「え、てか、何ヶ月?」
「何?」
「付き合った期間」
「1ヶ月半、かな。短いよねえ、うん、うん」
「短いでしょー。それ、高校生とかならわかるけど。もう大学卒業した身じゃん」
「うん、うん、大人。大人」
「いや大人かどうかはわかんないけど、まあ、うん。子供じゃないよねえ」
「うん、そう思う。うん」
「1ヶ月半って」
「ごめんね、うん、ごめん」
「いや、そこを謝られてもって思うけど」
「うん、ごめん、うん」
「え、どっちからフったの?」
「あー……トモヤくんから」
「あ、そうなんだ」
「うん、いろいろ、あって」
「そっか」
「うん」
「……」
「いやだよね、ごめんね」
「いや、フラれてんだから、マドカが悪いとは言えないけどさ」
「うん、でもごめん。うん」
「うんー。まあ、付き合った時点で悪いっちゃ悪いか。でも、そんなに早く別れられるとさ、それはそれで、なんか、クるのよ」
「うん、わかる。そうだよね」
「うん。だったら、付き合わないでほしかったなーってなるじゃん」
「うん。そうだよね。ごめん。ごめんね?」
「いやいいんだけど」
「よくないよね、ごめんね」
「なんか、なんつーか」
「うんうん」
「私の記憶とか、思い出があるじゃん。3年間、それなりにきちんと付き合ってたから。トモヤとね?」
「うん、うん」
「それを、こう、黒く塗りつぶされちゃった感じがあるのね、上書きされるっていうかさ」
「うん、私が、トモヤくんと付き合っちゃったからだよね」
「そうだよ。そう。うん」
「うん、わかる、すごくわかる、うん」
「わかる?」
「うん、うん」
「私たち、友達でしょ?」
「うん」
「いろいろトモヤの話もしてきたじゃん」
「うん、うん」
「それで私が別れたと思ったら、マドカが付き合うってさ」
「うん、ごめんね、ごめん」
「あのとき私は止めたのに、止まらなかったから、そこでもうだいぶ冷めたけどね、どっちにも」
「ごめんごめん。ね、そんなこと言わないで? ね?」
「いや無理でしょ、そこは冷めるよ」
「ごめんなさい、うん、ごめん」
「だって、
「んんそんなこと言わないで? ね?」
「いやー、フツウは無理だよ。別に取られたとは思わないけどさあ、上書きされる相手が、まさかの友達ってさあ」
「ごめんなさい。ごめんね」
「しかもさ、トモヤと付き合ったって事実を、私はマドカの口から聞いてないんだよ? それ、結構きついと思わない?」
「思う、すごくひどいと思う、ごめんね」
「それからも全然連絡くれなかったし、私と縁を切ってまでして付き合ったんだなーって思うじゃん。それなのに、たった1ヶ月ちょっとで別れて、別れた途端に『会おうよ』ってどゆこと? ってなるでしょ」
「ごめんごめん、ごめんなさい」
「実際、なんで連絡してきたの? どういう心境なの?」
「いや、ほんとに、うん。ただ謝りたくて。あの時の私は、どうかしてたし、でも、サキちゃんとはやっぱり、友達でいたいって思ったから、その、ごめんなさい、本当に」
「はー」
「こんなの、会いたくなかったよね。ごめんね」
「いや、会いたかったから、会ってるんだけどさ」
「え、会いたいって思ってくれたの?」
「いや、いい意味じゃないよ。どんな気持ちで誘ったのかなって知りたくて」
「あ、うん、ごめんなさい」
「私だったらそんな無邪気になれないっていうかさあ」
「うん、そうだよね、うんうん」
「仲直りしたいってのも、
「思ってる。思ってるんだけど、うん」
「けど」
「私から動かなかったら、一生離れたままになっちゃうって思ったから」
「うん、まあそうだよね」
「ううん、違うの、そうじゃないの」
「え何……?」
「トモヤくんと、サキちゃんのこと」
「え?」
「トモヤくんとサキちゃんが、もう離れっぱなしになっちゃうのは、ダメだと思ったから」
「ええ? 何? どゆこと?」
「……」
「いや、私とトモヤは、もう別れてんだし、しかも直後にあなたと付き合ってんだから、もう何もないでしょ」
「うん、うん、そう思うと思うんだけど」
「うん?」
「トモヤくん、やっぱりサキちゃんに申し訳ないって言って、私と別れたの」
「……は?」
「それで、私も本当にそうだって思って」
「いや、いやいやいや、え?」
「だから私たちは別れて、それで、これは私からサキちゃんに言いたいなって。友達に戻りたいし、二人がもう一度やり直すためには、私からがいいんじゃないかなって」
「いやいやいや、どゆこと? え?」
「うん、ごめんね、うん、わかるんだけど」
「いや、だって、今更すぎるじゃん、そっちは既にスタートしたんでしょ。今更『やっぱナシ』とか、なくない?」
「うん、そう、そうなんだけど。でも、これは言い訳だけどね、付き合ったってことに変わりないかもだけど、でも、会ったの2回だけなの」
「うん?」
「付き合おうって言ったのもトモヤくんだけど、その次に会ったらもう『別れよう』って言われた日だったの。私も仕事が忙しくて、全然会えなくて。だから、付き合った日と、別れた日の2回しか会ってないの」
「は?」
「うん、うんうん、許せないよねそれでもね」
「いや、それ、付き合ったって言えるの?」
「いや、うーん、私は、どうなんだろう。でも、付き合おうって言ってお互いに了承したから、付き合ってることにはなっちゃうのかなあって」
「いやいやいや……なんか、ちょっと違ったな?」
「え?」
「うん。なんかこう、もっとべったり濃厚な感じかと思ってたな? 付き合いたてでそんなことってあんのかな? 聖人?」
「いや、うん、違うけど。でもだから、デートみたいなこともしてないし、信じてもらえないかもだけど、結局彼氏彼女っぽいことは何もしてないの」
「いやーそれはちょっと、予想外というかなんというか。確かに2人とも奥手なのは知ってたけどね? 確かにね?」
「うん。だから、もう別れたから、やっぱり2人は一緒にいたらどうかなって、うん」
「いやー、でも、うーん」
「私のことは嫌いになっても、2人が戻ればいいかなって」
「急にアイドルみたいなこと言われても」
「そうだよね、うん、ごめんごめん」
「でも、そうかあ……。うーん、ちょっと、整理つかないっていうか、突然すぎるし」
「うん、わかる。そうだよね、うん」
「特にトモヤのことは、簡単には許せないから、すぐにはヨリ戻せないかな……」
「だよね、うん、うん」
「でも、マドカの意図はわかったから、その気持ちは、ありがとって言っとく」
「ううん、全然。ごめんなさい」
「うん、こっちも、ちょっとまだ動揺してるけど、強く言っててごめん、ありがと」
カツセマサヒコ
『明け方の若者たち』での衝撃的なデビューから、2作目『夜行秘密』と人気作を生み出す小説家。ぐさりと刺さる人間模様やリアルな感情の描写に若者から熱い支持を集めている。執筆のほか、ラジオ『NIGHT DIVER』(TOKYO FM、毎週木曜28時~)など、多方面で活躍中。
インスタグラムは@katsuse_m。
※この会話はフィクションです。
撮影/伊達直人
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