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今日もどこかで、だれかが喋ってる。小説家カツセマサヒコさんの1話完結、オール会話劇!<メンズノンノ2023年5月号掲載>
「ねー退屈」
「早っ。まだ5分しか
「だって退屈なんだもん」
「まだあと100分あるよ?」
「えー行列苦手って言ったじゃん」
「並ぼうって言ったのそっちだから」
「そうだけどー」
「え、抜ける? まだ5分だし、いいよ?」
「ううん、頑張る」
「えらい。頑張るのはえらい」
「でしょ。ね、なんかしよ」
「なんかって?」
「なんか。遊び」
「遊びぃ?」
「なんかないの?」
「えー、トランプとか?」
「ウケる。トランプ持ってんの?」
「持ってる」
「待ってなんで持ってんの? 面白すぎるんだけど」
「ほら」
「本当に持ってるじゃん! え、ウケる何これ」
「いや、暇になるかなって」
「暇だけどさ。アトラクション並んでるときに二人でトランプやらなくない?」
「うん、すごいでしょ」
「褒めてないんだけど」
「やる?」
「いやー、やらないかなー」
「そうか。残念だな」
「ふふ。他は? なんかないの?」
「ないな」
「引き出しトランプだけか~」
「ごめん少なめで」
「えーなんか、しようよ、あと100分は長いよ」
「あー、じゃあー、しりとり」
「それ最後の手段じゃん。全部やり尽くして、それでも浮かばなかった時にやるやつじゃん」
「ダメか」
「もうちょっとなんか粘ろうよ」
「うん。うーん」
「ないの?」
「そっちは?」
「え?」
「俺ばっかじゃなくて、そっちも考えてよ」
「考えてるよ、考えてる」
「本当かよ。任せきりにしてたじゃん」
「いやこういうのは男子が考えるかなって」
「差別だよそれ。女子も考えようよ」
「えーそういうの苦手」
「お前“おもしろい人が好き”とか言ってつまんないやつボコボコに
「そんなことないから。やめてよ偏見持つの」
「それでボコボコにされてたDKが俺だからな!」
「すごい早口で言うじゃん! 滅茶苦茶トラウマじゃん!」
「“おもしろい人が好き”は本当に人を傷つけるから、マジで法律で禁止したほうがいいよ」
「わかったから。言わないから」
「で、なんかないの?」
「え、なんで逆転してんの。そっちも考えるんだよ? 私も考えるけど」
「おっけおっけ。二人で考えよう。それがいい」
「うんうん」
「あれは? 山手線ゲーム」
「さっきから滅茶苦茶ベタじゃん~」
「あーはいはいはい、そうですか! じゃあやめます! はい、やめた! もうこれ以降そっちが考えてください~どうせベタベタだし俺は何言ってもつまらない男ですよ~あとはそっちで95分楽しめる“おもしろいやつ”をどうぞお考えください~」
「ムカつくキレ方やめてよ」
「俺はムカつくキレ方だけはうまいから」
「そこに自信持ってるの超嫌」
「じゃあ山手線ゲームでOKすればいいじゃん」
「それは嫌。だって私得意じゃないし」
「お前、自分が勝てるゲームじゃなきゃ参加しないタイプの絶対的王女様JKやってただろ」
「そんなJK聞いたことないから」
「ないか」
「ないない」
「じゃああれは?」
「何」
「最後の晩餐ゲーム」
「何それ」
「お、食いついたな」
「知らないやつだから」
「最後の晩餐は何にするか、考えるの」
「うん」
「うん」
「え? 終わり?」
「うん、面白くない?」
「え待って待って。え? 私たち完全にズレてるかも」
「いやいやいや、え、面白いでしょ、最後の晩餐。考えたくない?」
「いや、考えたくないっていうか、絶対盛り上がんないでしょ、それ」
「は? やったことないくせに」
「ないよ、ないない。やったことあんの?」
「あるよ」
「あるんかーい。どうだった? 盛り上がった?」
「ふつう」
「ふつうじゃん! 盛り上がってないじゃん! あはははは!」
「いや、ふつうでいいだろもはや。そんな盛り上がることになってもしょうがないじゃん」
「なんで急に達観してんの」
「いいからやってみよ。最後の晩餐ゲーム」
「えー怖い怖い。てかどうなったら勝ちなの?」
「いや、勝ちとか、そういうのないから」
「ないの!? ゲームなのに!?」
「あー出た出た。じゃあ
「なんでいちいちムカつく言い方なの」
「最後の晩餐に勝ち負けとかないから」
「最初からそう言えばいいじゃん」
「お前が勝敗にこだわりすぎた資本主義社会に毒されてるって気付かせたかったんだよ」
「さっきからクセが強すぎるって」
「じゃあ、最後の晩餐ゲーム、イエーイ」
「そこは山手線ゲームと同じなんだ」
「なんだかんだ言ってこれが一番テンション上がるから」
「そうかもだけど。オリジナリティないから」
「注文の多い客だな」
「だってわかんないし」
「じゃあ、最後の晩餐で食べたいものは?」
「えー? 最後の晩餐って、本当に最後なの?」
「そうだよ。もうこれ食べたら死にます」
「すごいストイックじゃん。えーむずいなー」
「何にする? 何にする?」
「え、そっちもう決まったの?」
「決まってます」
「えー早い! なになに?」
「それは一緒に言うんだよ」
「あ、そこがゲームなんだ」
「そうそう」
「えーじゃあどうしようかなー。合わせたほうがいいんでしょ?」
「あ、そういうのは、特にいらない」
「え? 一緒なら正解とかじゃないの?」
「いや、最後の晩餐くらい、それぞれ好きなもの食べたいでしょ」
「すごいドライじゃん! 何それ!」
「は? じゃあ貴方は最後の晩餐なのに相手に合わせた結果、自分が食べたいものを食べられなくてもいいんですか?」
「そういう言い方されるとなー」
「じゃあ選ぼう、ぜひ選ぼう」
「えーでも」
「でも?」
「私は好きな人と同じならなんでもいいかも」
「は?」
「私そんなに食べ物にこだわりないし、何を食べるかよりさ、誰と食べるかのほうが大事じゃない?」
「はい、終了~! 終了でーす! このゲーム終了~!」
「なになになに、なんなの!」
「そんっなに格好いい答えがあるかよ。お前の勝ちでいいよ! お前の勝ちで!」
「は? さっき勝ち負けないって言ってたじゃん」
「唯一! もう唯一の勝ち! 他の食べ物は全部負け! 好きな人と食べるが一番! 以上! もういい! 盛り上がらない!」
「なんなの、何にキレてんの」
「だって普通は何か食べ物を言うところじゃん。マジレスしないじゃん」
「だってわかんなかったし、そんなの。え、ちなみに、何食べるの?」
「え、豚骨ラーメン」
「滅茶苦茶こってりじゃん!」
「お前もしも俺と付き合うことになったら、一緒にラーメンだぞ」
「えーそれは行かないかも」
「なんでだよ! なんでもいいって言ったろ!」
「あーなんでもいいけど、なんかもうちょっとおしゃれな感じがいい。最後だし」
「解散! もう解散これ! 終わり! あと50分しりとり!」
「無理無理無理、それは無理ごめん」
カツセマサヒコ
映画化もされた『明け方の若者たち』での衝撃的なデビューから、2作目『夜行秘密』と人気作を生み出す小説家。ぐさりと刺さる人間模様やリアルな感情の描写に若者から熱い支持を集めている。執筆のほか、ラジオ『NIGHT DIVER』(TOKYO FM、毎週木曜28時~)など、多方面で活躍中。
インスタグラムは@katsuse_m。
※この会話はフィクションです。
撮影/伊達直人
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