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今日もどこかで、だれかが喋ってる。小説家カツセマサヒコさんの1話完結、オール会話劇!<メンズノンノ2023年4月号掲載>
「ねえ本当に久しぶりなんだけど。いつぶりだっけ?」
「前にあれじゃない? アコの結婚式行った以来じゃない?」
「えーウソ、あれいつだっけ。二年ぶり?」
「二年か~なんか全然そんな感じしないね」
「まあインスタとか見てるからね」
「そだね、そだね。そうかも」
「え、どう? 元気してた?」
「えー、まあまあ? てか、見てたでしょ? ストーリー」
「うん、見てた。あはは。てかストーリーほんと面白いよね? いつも笑ってるんだけど」
「あーあれねー。ね。なんであんなことばっかり起きんだろうね?」
「ね、すごいと思う。才能だよ、才能」
「えーもっと他に才能欲しかったよー」
「えーなんでなんで、いいじゃん。あれとかすごかったよ、なんだっけ、ホストのやつ」
「あーホストね! あれやばいでしょ」
「うん、もうドラマじゃんってなった」
「もう最悪だったよー絶望してたからね、私」
「えーそうだったんだ! めっちゃ笑ってたんだけど。ごめん」
「ううんいいのいいの、笑ってほしくてインスタあげてたから」
「プロインスタグラマーじゃん」
「任せて、プロだから」
「てかあんな人、本当にいるの?」
「いるんだよーウソみたいでしょ?」
「なんだっけ、私服、超ダサいんでしょ?」
「そう、超ダサい。上下ピンク」
「え、どゆこと?」
「え。まず、上がピンクのシャツなのね。すっごいビビッドな感じのやつ」
「え、ワイシャツ?」
「そうそうそう。ボタン二個開き」
「二個開き! やば!」
「ね、その下。ペラッペラの白タンクトップ」
「あはははは! いやでも裸よりマシじゃない?」
「まあ、そうね、乳首浮き出てるけどね」
「あははははは! やめてよもう」
「で、上がピンクだからね、下はさ、なんか、落ち着いた色とかでバランス取るじゃん普通」
「うんうん、そうかもね」
「そしたら、下、もっとビビッドなピンクのパツパツ・パーンツ」
「きゃははは! ねえーやめてー」
「いやほんとやめてだよ。これ以上ビビッドなピンクあんの!? みたいな。見たことない」
「きゃはははははは!」
「デートだよ? 横、二人で歩いてみ? もうどんな顔していいかわかんないよ」
「すごいなーそれ初対面でしょ?」
「そうだよーほんとびっくり」
「それさ、事前のやり取りとかでわかんないもんなの? 服の話とかさ」
「いやーしなかったよね。完全にこっちの落ち度だったよ。それ以来、先に確認するようにしたわ」
「えー服どんなの着ますかって?」
「そうそう。どんな服着てます~? 系統合わせよっかな~って」
「あ、うまいねそれ。それはいいね」
「でしょ? もうあれでほんと学んだから」
「しかもその人が、ホストだったんでしょ?」
「そう。てかさあ、ホストってマッチングアプリやらなくない? やる?」
「えー知らないけど。やるとしてもさ、ホストって隠す必要なくない?」
「そうそうそう、まじでそう! せこいの、いちいち」
「ね、ちょっと詐欺みたいだよね。お店の勧誘になるからダメとか、あるのかなあ」
「あーなるほどね? てかね、アイコンももう詐欺だったんだよね」
「え、どんな顔なの?」
「見る?」
「え、写真あるの?」
「あるある、こんなこともあろうかと」
「怖い怖い、なんで持ってんの」
「え、笑えるから」
「えー見たい。どれどれ?」
「待ってね。あー、これだ」
「え、これ? あ、どっち?」
「右に決まってんじゃん」
「まじ! これやば! え、これで来たの?」
「そうだよー。アイコンは全然普通だったのに、詐欺だよもう」
「え、髪型やばくない? 漫画じゃん」
「ね、NARUTOで見たことあるよね」
「あはははは! やばー。てか、なんでホストってわかったの?」
「え、普通に仕事っていうか、職業の話になるじゃん。会う前は濁されてたから、何やってるんですかーって聞いたの。てか、もう第一印象でホストみ
「それ、向こうなんて答えたの?」
「接客業」
「あ~、まあ、合ってはいるね?」
「でしょ? うまいよね。だから、バーとかですか?って聞いたの。行きたいです~みたいなノリで」
「あはは、ちゃんと社交辞令するの偉いよね」
「うん、全然興味なかったけどね」
「あはははは! それでそれで?」
「いや、濁されたまま。いつかね~みたいな。店の写真見せてって言っても、ないって言われるし」
「えーそうなんだ」
「そうそう。で、なんだろう怪しいな~って思ったんだけど、その日は濁されたままで終わって」
「うんうん」
「別の日ね、たまたま。いや本当に、私ホストクラブとか行ったことないからさ。友達とノリで、ホスクラ体験しておこうよ~って行ったの。そしたらまさかの、ヤツいるじゃん」
「あははははははは! ほんと、やば。持ってるよねえ」
「ね。さすがに今回は持ってんなーって思っちゃった。ほんと恥ずかしかったその時」
「え、ホストやってる時は、さすがに格好いいの?」
「いや、中のシャツ、完全にビビッドピンク」
「きゃははははは! 出た~!」
「すごい経験したよー。でも、そのデートもある意味、楽しかったんだけどね」
「あ、楽しかったんだ?」
「うんうん、なんか宇宙人すぎて。すごいの」
「えーなんで? なにしたの?」
「えー普通に映画観たんだけどさあ。映画デートって、そんなにハズレなくない?」
「ああ、内容つまんなかったとか?」
「じゃないの。作品は良かったの」
「あ、じゃあそのホストが悪かったの?」
「いや、悪いっていうんじゃないんだよ。人それぞれ価値観が違うよな~ってだけの話なの。たとえばさ、映画観るときって、どのへんで観たい?」
「あー、一番後ろとか?」
「だよね、だよね?」
「うんうん。だと思う。まあ真ん中って言われても全然いいけど」
「わかるわかる。そうだよね。私もその感じだったの。そしたらね、ホストがあらかじめ予約してた席、最前列」
「きゃはははは! え、本当に? なんで? 混んでたの?」
「
「あははは! それはすごいわ」
「ね、ちょっと謎だよね? 真ん中から後ろの方にはチラチラお客さんいるんだけど、前の方もう、私たちだけ。私もう、途中から首痛くて仕方なかった」
「きゃははははは!」
「いや、でもそこまではね、価値観の違いだから。まだいいのね。わかるの」
「うんうん、そうだね、悪くないもんね」
「そうそう。でも、その席でね、映画、始まるじゃん。観てるじゃん」
「うんうん」
「そしたら、始まって二十分くらいからね、なんか隣で、ポッて、たまに明るくなるの。あ、ちょっとなんか、光ってるな、みたいな」
「うわ、携帯……?」
「だと思うじゃん」
「うん」
「腕時計のバックライト」
「あははははは! なんか、なんか嫌だ!」
「そう! なんか嫌なの! ケータイよりマシなんだけど、その、ちっさい光! なんかちっさいの!」
「きゃははははは! だめ、ウケる」
「そう私ほんとダメで。なんか、ああ、こういう人類っているんだな~って」
「もう社会勉強だ」
「そうなの。で、私、映画のエンドロールとか最後まで観られないから終わったらすぐに立つんだけどさ」
「え?」
「え?」
「え、待って、エンドロール、最後まで観ないの?」
「え、うん。邪魔じゃない?」
「え、ほんとに? 待って、急にホスト側になった私」
「えマジ? 待って、うそゴメン」
「いやいやいや、価値観だから。それぞれだから。いいんだよ」
「いやほんとごめん。え? エンドロール、観る? 暇じゃない?」
「いや、暇とか、ちょっとわかんない」
「……まじか」
「うん、ごめん、ちょっと、うん。ホスト側だそれは」
カツセマサヒコ
映画化もされたデビュー作『明け方の若者たち』、2作目となる『夜行秘密』と次々に人気作を生み出す小説家。ぐさりと刺さる人間模様やリアルな感情の描写は、若者から熱い支持を集めている。執筆のほか、ラジオ『NIGHT DIVER』(TOKYO FM、毎週木曜28時~)など、多方面で活躍中。
インスタグラムは@katsuse_m。
※この会話はフィクションです。
撮影/伊達直人
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