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2000年にデビューを飾り、以降は数多くの映画やドラマに出演し、その演技と存在感は高く評価され、いまやトップクラスの人気と実力を誇る俳優である。最新作は3月24日に公開される映画『ロストケア』。法の正義に基づいて連続殺人犯を追い詰める検事を演じ、犯人役の松山ケンイチとの互いの信念をかけた対決は早くも話題を集めている。「仕事で悩むことはほとんどないけれど、プライベートは優柔不断」と語るこの人にインタビュー。
長澤まさみさん
ACTOR / MASAMI NAGASAWA
1987年、静岡県生まれ。2000年、第5回「東宝シンデレラ」オーディショングランプリを受賞。同年、俳優デビュー。近年の映画出演作に、『MOTHER マザー』(20年)、『コンフィデンスマンJP プリンセス編』(20年)、『すばらしき世界』(21年)、『マスカレード・ナイト』(21年)、『コンフィデンスマンJP 英雄編』(22年)、『シン・ウルトラマン』(22年)、『百花』(22年)など。3月にWOWOWで放送・配信するコントドラマ『松尾スズキと30分強の女優』に出演。
なにが正しくて、なにが間違っているのか
――最新作の『ロストケア』は、介護をめぐる問題に鋭く切り込み、個人的にもいろいろと考えさせられました。長澤さん自身は、オファーをもらったとき、どういった部分に魅力を感じて引き受けようと思ったんですか?
家族との向き合い方だったり、介護の問題だったり、作品が取り扱っているテーマにまずは興味を持ちましたし、私が演じる大友という人物が、松山ケンイチさん演じる斯波の虜(とりこ)になっていくと言ったらおかしいですけど、彼のペースにどんどんのみ込まれていってしまうさまがすごく印象的で。そういったところにとても魅力を感じて、演じたいなと思いました。
――自らの信念に従って犯行を重ねた斯波と、検事として法の名のもとに斯波を追い詰める大友のやりとりは、本当にスリリングで面白かったです!
大友は法に則(のっと)った正しさに基づいて斯波と向き合うわけですけど、その一方で彼女自身も悩みを抱えているので、斯波の言うことに心が動かされてしまう。なにが正しくて、なにが間違っているのか。倫理観がゆがんでいくなか、斯波の言うことがおかしいわけじゃないというところが、この映画の考えさせられる部分であり、響くところだと思います。
――撮影中の出来事でなにか印象に残っていることはありますか?
綾戸智恵さんが万引をしてしまうおばあちゃんの役で出演されているんですけど、ご本人が本当にユーモアたっぷりの面白い方で、自分のペースで言いくるめようとするあの役の感じとぴったり合っていて、現場でもたくさん笑わせてもらいました。もちろん、斯波と対峙(たいじ)するシーンは印象的でしたけど、それ以外にも、被害者家族に会って斯波のことを聞く場面で、みんなが口をそろえて「いい人だった」と言うところは不思議な気持ち悪さがあって印象に残っています。
――公式サイトなどに掲載されているコメントで、「自分自身の迷いや心の揺れと、役の感情がいい方向にリンクして、いい演技ができました」といった発言をされていました。この作品を通じてなにか変わったこと、成長したことってありますか?
そうですね。成長はいつも感じています。今回は気持ちをぶつけていくシーンが多かったので、どこかで緊張していたりもしたんですけど、松山さんと一緒にこの現場の空気感をつくっていけたというのが面白くて。松山さんも面白いと思ってくれているのも伝わってきたし、お互いに現場を楽しみながらつくっていっている感じはとてもすばらしい経験でした。ただ、二人ともまったくしゃべらなかったんですよ。殺人犯と検事という相反する役どころだったので、現場ではひと言も話さないようにして、緊張感や緊迫感を出せたらいいなと思って取り組んでいたら、本当にしゃべらなかったんです。さすがにぶつかってごめんなさいぐらいは言いましたけど(笑)。
――徹底していたんですね!
そうなんです。そうしたら、最終日に松山さんからお手紙をいただいて、その中にしゃべらないことを強要させちゃったと書いてあったんです。「あ、同じ思いだったんだ」と知って、すごく感動しました。そうやって同じ思いで現場にいられたことが、今回いちばん幸せだったことでした。
どうやったら栄養をたくさん取り入れられるかに興味がある
――長澤さんは、役づくりをするうえで、なにか特別に意識することはあるんですか?
特別にはないですね。普通の生活を送ることがいちばんの勉強だと思うんです。こういうときに自分はこんな感情になるとか、こんな表情になるといったことを知りたくないというか。自分が見たことがある顔を作品の中で見たくないんですよね。だから、本当に特別なことはなにもないです。
――なるほど。では、今回演じた大友は、さまざまな場面で迷いや後悔や葛藤がありました。長澤さん自身は、迷ったときはなにをもとに決断しているんですか?
うーん。どういう状況かにもよりますよね。
――例えば「今日なに食べよう?」とかだと、どうですか?
それはもうすごく悩みます(笑)。仕事に関しては全然悩まないんですよ。もちろんお芝居をしていくうえでの悩みはありますけど、仕事でなにか決断していくことに関してはほとんど悩まないです。でも、なに食べようとか、どこ行こうとか、そういうのはすごく優柔不断で。だから、かなりの割合で「これ食べたかったっけ?」みたいなことになっています(笑)。
――意外です! 仕事とプライベートではそんなに違うんですね。
それが自分の性格みたいで、もうそこは気にしないようにしています。たぶんスイッチの切り替えがヘタなんだと思います。仕事終わりに友達と約束してご飯食べに行ったりすることってありますよね。私はそれができなかったんですよ。仕事が終わったら直帰でした。だから、そうやってなにか決めることができる人ってすごいなと思うんですけど、自分はできないので、あるときからもうそれでいいやと思うようになりました。
――ちなみに、最近の重大な決断ってなにかありましたか?
最近はようやく仕事が落ち着いて、そういう意味ではいろいろと決断してきた日々が一段落したという感じですね。とりあえず今はリラックスしています。
――今いちばん興味を持っていることってなんですか?
今は栄養です。栄養にハマっています。
――栄養…ですか?
はい。食べることが大好きで自炊もするんですけど、どうやったら栄養をたくさん取り入れられるかということに今はいちばん興味がありますね(笑)。ただ、本当にざっくりです。ちゃんとやろうとすると疲れちゃうので、どういうふうに取っていくのがいいのかということをいろいろと試しながらやっています。それが楽しいんです。
楽しそうにしていたら、それは人に伝わる
――長澤さんが考える理想の姿というのはなんですか?
理想ですか。やっぱりいつもご機嫌でいたいですね。自分が楽しそうにしていたら、それは人に伝わるというのは、この仕事を通して教わったことでもあるので。もともとそんなに笑顔を振りまくようなタイプの人間ではなかったんです。小さい頃はお母さんの後ろに隠れて、言ってほしいことをこそこそと耳もとで伝えて言ってもらう感じでしたし。人前だと緊張するせいもあって、なんだかいつも怒っているみたいな表情で、よく無愛想だと指摘されていました。でも、この仕事をするようになって笑顔がいいねと褒められることが増えて、変わっていったんです。人間って変われるんだなって思いますね。
――変われますか。
変われます。誰かほかの人を変えようと思ったら、ものすごく大変ですけど、自分が変わるのは簡単です。すぐに始められますし、何事も自分次第ですから。
――メンズノンノ読者が読んだら、すごく励みになると思います!
私、兄がいるんですけど、兄が昔よく買っていたので、メンズノンノは読んでいたんですよ。
――本当ですか!
今だと、鈴鹿央士くんが出ていますよね。
――そうだ! 『ロストケア』で共演していますね。
央士くんとは、いつも会うたびに美容の話をするんですよ(笑)。央士くんって美容男子だから、「最近どんな化粧品がよかった?」とか「それいいよね」とか、そういう話を現場でもずっとしていました。
――では、新しく挑戦してみたいことってなにかあったりするんですか?
あります。甥(おい)っ子がいるんですけど、ギター教室に通っていてどんどん上手になっているんです。私もギターをやっていて、でも全然へなちょこでどんどん追い抜かされていって悔しいので、ギターをもっと頑張りたいです。あと、旅行にも行きたくて、計画を立てています。
――旅先ではけっこうアクティブに動くんですか?
友達と行くときは、本当に「ここ行こう」「あそこ行こう」という感じでいろいろ下調べして動くんですけど、ひとりで行くときは疲れちゃって、わりと宿でぼーっとしていたりすることが多いかもしれないです(笑)。
――お仕事もちょっと落ち着いたということなので、のんびりと行けるといいですね!
そうですね。仕事ではないので、なにかと悩みそうですけど(笑)、心の栄養を蓄えに行こうかなと思っています。そうやって楽しくご機嫌に生きていけたらいいですよね。
「いつもご機嫌でいたいです」
『ロストケア』
3月24日(金)より全国ロードショー
監督:前田 哲
出演:松山ケンイチ、長澤まさみ、鈴鹿央士、坂井真紀、戸田菜穂、峯村リエ、加藤菜津、やす(ずん)、岩谷健司、井上 肇、綾戸智恵、梶原 善、藤田弓子、柄本 明ほか
©2023「ロストケア」製作委員会
配給:日活、東京テアトル
介護士でありながら、42人をあやめた殺人犯・斯波宗典に松山ケンイチ。斯波を裁こうとする検事・大友秀美に長澤まさみ。社会に絶望し、自らの信念に従って犯行を重ねる斯波と、法の名のもとに斯波を追い詰める大友の、互いの正義をかけた緊迫のバトルが繰り広げられる。現代社会に、家族のあり方と人の尊厳の意味を問いかける衝撃作。
ニット¥41,800・中に着たドレスシャツ¥35,200・スカート¥66,000(すべてバウト)/ボウト
Photos:Teppei Hoshida Hair & Make-up:Asami Nemoto Stylist:MIYUKI UESUGI[SENSE OF HUMOUR] Composition & Text:Masayuki Sawada
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