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2月21日、プロレスの天才・武藤敬司がついに引退する。この一大イベントを前に、メンズノンノウェブでは読者からの10の質問に答えてもらう形でスペシャル対談が実現! お相手は、プロレスラーの大先輩であり、いまやバラエティ番組やYouTubeなどで名コンビとして登場することも多い長州力さん。急に話題を変えたり、滑舌が悪くてちょっと聞き取れなかったり…。自由奔放な長州さんに振り回されっぱなしではあったものの、二人の関係性がうかがえるようないい話も聞けた。まるで漫才を見ているかのような、愉快なトークショーを前・後編でお届け!
普段はどういった過ごし方をしているのですか? プライベートでお二人は会ったりするのですか?
武藤 ないですよ。仕事だけですよ。
長州 仕事で会ったって話すわけでもないし。話すこともあまりないんだよ、こうやって仕事が重なってくると。メシ食いに行ったりもほとんどない。こいつ、自分で払わないから。
武藤 そんなことないでしょ(笑)。ちょっと縄張りが離れているからね。長州さん、今、熱海に引っ込んじゃっているから。熱海は月にどのぐらい行っているんですか?
長州 半分、半分。
武藤 半分ね。そうだ。さっきも話しましたけど、M-1に出るのどうですか?
――M-1に出るんですか!?
武藤 前から俺は言っているんですよ。だけど、長州さんが…。
長州 こいつ、マジで、いや、さすがにそこまで壊れてねぇだろうなと思っていたけど、壊れてるどころか溶けてるよ。
武藤 いや、バイきんぐの小峠くんと一緒に旅する番組があって、そこで3人でネタをつくってやろうみたいな話になったんですよ。
長州 3人ってどうやるんだよ。
武藤 だったら、小峠くんにネタだけつくってもらって、二人でやってもいいじゃないですか。
長州 だから、ネタってなんだよ。
武藤 ネタってこういう…。
長州 これは日常会話だろ。
武藤 日常会話みたいなやりとりを台本にしてもらってやるんですよ。
長州 いや、台本はムリだ。覚えられない。絶対ムリ。
武藤 長州さん、絶対に覚えられないから、俺が大変なんですよ。
長州 大変ってなんだ。オマエに迷惑かけたか。
武藤 かけてますよ(笑)。
長州 なんだ、コラ。
武藤 TikTokのCM撮影、大変だったじゃないですか(笑)。
長州 あれはしょうがない。やることが多すぎるんだよ。
名コンビのお二人ですが、最初の出会いは覚えていますか?
武藤 俺がぺーぺーで入ってきたときですよね。
長州 そう。
武藤 最初は大先輩だからさ。長州さんに何かものを言いつけられるんだけど、聞き取れないから、「はい?」って聞いて。また聞き取れないから、もう一回「はい?」って聞いたら、怒っちゃって。
長州 オマエ、このやろう(笑)。
――そんな大先輩と今はこんなに仲がよくなって。
長州 仲が特別いいとかじゃなくて、仕事をするようになって会うことが多くなったから言葉数も多くなってきているだけで、お互い特別に意識はしたことないですよ。
武藤 変な話、プロレスのときは全然仲よくなかったですよ。やっぱり派閥も違うし、戦わなきゃならない間柄で、ユニットも違うから全然。今のほうがコミュニケーションは取れてる。
長州 リングを降りてもう何年もたつけど、周りの世界を見ると、みんな一緒だよ。
武藤 そうですか。
長州 うん。同じ会社だったらやっぱり合う人と合わない人がいるでしょう。それと一緒。まったくなんら変わりはない。
――武藤さんの新人時代の思い出って何かありますか?
長州 あんまり濃くは覚えてなくて。こいつ、意外と早く海外へ出されたから。
武藤 俺が入ってきてすぐに長州さんたちは1回いなくなっちゃったし。
長州 俺は出たり入ったりするのが好きだもん。
武藤 先輩たちがいなくなったから、本当に居心地がよくなっちゃって。
長州 オマエ、それはいろいろとまだ気づいてないな。これは気遣いなんだ。オマエが外へ出て帰ってくるのに、俺がいたらプレッシャーがかかっただろ。
武藤 そうね。先輩方がいなくなるということは、俺ら下の立場の人間からしてみたら居心地いいからね。それで意外と会社も大切にしてくれるんだよ。だから、本当によかったですよ(笑)。
お互いのことをどう思っていますか? 楽しかった思い出や腹立ったエピソードなどがあれば教えてください。
武藤 さっきも言ったけど、派閥が違うからさ。とにかく長州さんは現場監督で、組織側の人間だから、ほんとに恨まれてたし(笑)。
長州 こいつは「サインしろ」と言ったって、サインしないんだからね。
武藤 なんですか、いきなり(笑)。
長州 契約更改するっていうときに、前もって契約書は渡しているんだけど、このやろうは、最初からまた読みだすんだよ。サインするだけでいいのに。で、泣きだすでしょう。
武藤 泣きませんよ(笑)。
長州 泣きだす。1回で終わらないから。絶対に1回ではサインしない。2回か3回。
武藤 一応もったいぶったほうがね、ちょっとは上がるかもしれないし。駆け引きですよ。
長州 それで、「長州よ、あいつやったか」と。
武藤 今のは、坂口征二さん(アントニオ猪木氏の盟友で、「世界の荒鷲」の異名を持つ名プロレスラー)のマネね。
長州 そしたら、坂口さんが「任せておけ、わしが言うちゃるけん」というのがいつものパターン。
――武藤さんが契約更改のときになかなかサインしないという話は有名ですけど、そういう感じだったんですね(笑)。
長州 そうだよ。
武藤 俺は1回だけ長州さんのところで遊んだのを覚えてますね。
長州 ある?
武藤 たしか青森から函館に行くフェリーの中でセブンポーカーをして。
長州 あぁ、あれはオマエが全部勝ったんだっけ?
武藤 いや、1回だけ。長州さんが2のフォーカードを出して、俺は5のフォーカードを持っていたから、俺が勝ったの。
長州 俺はてっきりブラフかと思ったんだよ。
武藤 そうね、ずっと突っ張ってたから。
長州 しかも、港に着く寸前だったんだよ。腹が立って、オマエのこと追っかけ回したもん。
武藤 あれはうれしかったですね。本当にうれしかった(笑)。
プロレスラー・武藤敬司はどんな選手ですか?
武藤 長州さんからしてみたら、俺なんかすげぇ有能なレスラーだと思うよ。使い勝手のいいね。
長州 ちょっと待った。オマエ、なに言ってんだ。
武藤 いや、ほんとにそうなんだから。
長州 なに、有能?
武藤 使い勝手がよくて有能なレスラーだったと思いますよ。
長州 まぁ、辞める前に壊れなくてよかったよ。でも仕事だから「戦え」と言われたら戦うけど、その中でもこいつは不思議とやりたくないタイプ。
武藤 間が合わないんです。
長州 うん、間が合わない。俺はこいつとやるんだったら、トーストとコーヒーを持ってリングに上がる。それくらい合わないね、まともにやっても。
武藤 長州さんはせっかちなの、せっかち。プロレスが。
――武藤さんは“プロレスの天才”と言われますけど、長州さんはそう思いますか?
長州 だから、そういう言葉をかけるから、こういうタイプになったの。本当だよ、勘違いする。
武藤 いやいや、俺は優良商品だったと思いますよ(笑)。
長州 まぁ、でもセンスがいいんだな。やっぱりセンスのいいやつってスムーズに仕事をこなして、こっちが何も言わなくても言いたいことを理解してやってくれる。そういうのはあったと思う。
武藤 長州さんって、俺たちの用語で言う“トンパチ”というか、そういう破天荒なやつのほうが好きだよね。
長州 オマエ、今、ラクだろう。
武藤 え、なんでですか?
長州 オマエ、こうやって俺に覆いかぶさって仕事ができてラクだろう。俺は浦島太郎のカメじゃないからな。決して竜宮城へ行けるとは思わないほうがいいぞ(笑)。オマエはちょっと小ずるいところがあるから。
武藤 小ずるい?
長州 そうだよ。あるんだよ。
プロレスと人生を共にして、ファンもいろんなレスラーに自分の感情を重ねて観ていると思います。レスラーはケガなどもあり、本当に命懸だと思いますが、だからこそ、その姿に何度も勇気づけられてきました。やる気が出なかったとき、落ち込んだときってどうやって気持ちを切り替えていますか?
長州 新日本がイケイケのときは年間260試合だからね。体は張ったけど、命懸けてまではやってないよ。
武藤 でも、危険は常につきまとっていますよね。
長州 まぁ、でも、あれだよ。今はSNSの時代で、「オマエ、見たの? 聞いたの? やったの?」っていうことをベラベラとYouTubeとかでしゃべっているやつがいるけど、あれはダメだよ。辞めたからって会社内部のことを言いふらすやつはダメだ。
武藤 あぁ、YouTubeの話をしてるのね。急に話題が変わったから、びっくりしましたよ(笑)。
長州 だから、たまに敬司に言うことがあるんだよ。こいつもわからないやつだから。何でも出たがるから、「敬司、オマエ、あんまり余計なこと言うなよ。あごを回しちゃ絶対ダメだぞ」と。
武藤 “あごを回す”ってわかる?
――あごを回す?
長州 しゃべる。あまり意味のないことをしゃべらないほうがいいよってこと。そのほうが前に進みやすいよと。あごを回すやつっていうのは、結局自分から閉じていってるんだよ。
――なるほど。
長州 少なからず空気が入るぐらいの隙間をつくっておかないと。自分ひとりだけで生きていくわけじゃないし、結婚したりして子どもができたりして、どうやって家族を養っていけるんだってことですよ。敬司、オマエはもう十分遊んだからいいだろう(笑)。
武藤 ちょっと、なに言ってるんですか(笑)。
――武藤さんは、「散々奥さまに迷惑をかけた」と過去にインタビューで話していましたけど。
武藤 迷惑をかけるというか…たしかにつき合いで呼ばれることは多かったけど、プロレスラーって2週間仕事したら3週間休みとかそういう感じで、離れているときもあるけど、帰ってきたらずっと一緒だったりするから、ある意味、家族という部分では新鮮でいられるんですよ。
長州 そういうやつもいるよな。
武藤 だけど、俺、いちばん初めに本当に家族が欲しいと思ったのは、(海外修行中の)アメリカにいるときで、クリスマスになったらみんな家に帰っちゃうんですよ。俺だけ独りぼっちで取り残されて、アメリカってクリスマスだと家族ですごく楽しそうに過ごすじゃない。それがうらやましくてね。俺も早く家族をつくりたいなと思って結婚したの。
長州 単純だな。
武藤 そうですよ。そういうもんですよ。日本でも、巡業から疲れて帰ってきて、夜中に家に着くこともあるんですよ。冬なんか寒くて、部屋が暖まるまで時間がかかったりして、それが独り身だとすごく寂しく感じてね。
長州 安心しろ。俺がいつもそばにいてやるから(笑)。
武藤 イヤですよ(笑)。
武藤敬司
1962年12月23日生まれ、山梨県富士吉田市出身。84年に新日本プロレスに入門。同年10月にデビュー。蝶野正洋、故・橋本真也と「闘魂三銃士」として90年代のプロレスを牽引した。海外ではグレート・ムタとしても活躍。2002年に全日本プロレスに移籍し、代表取締役社長に就任。13年には新団体「WRESTLE-1」を旗揚げ。18年3月に最後のムーンサルトプレスを披露し、両ひざの人工関節手術に踏み切る。20年4月1日のWRESTLE-1活動休止後はプロレスリング・ノアに電撃入団。21年2月、日本武道館でのタイトルマッチでGHCヘビー級王座を奪取、日本プロレス史上3人目となるグランドスラム(メジャー3団体のシングル王座制覇)を達成した。今年2月21日に東京ドームで引退試合を開催する。
長州力
1951年12月3日生まれ、山口県周南市出身。専修大学時代にレスリングでミュンヘン五輪出場の経歴を引っ提げ、73年12月に新日本プロレス入団。翌74年8月8日にデビュー。82年、新日本プロレスに反旗を翻し、藤波辰巳(現・辰爾)との抗争に発展。藤波との一連の闘いは「名勝負数え唄」と称され、日本中が熱狂した。以後、ジャパン・プロレスを設立し、全日本プロレス参戦から新日本へのUターン、復帰後は現場監督として90年代の黄金時代を築き、98年1月4日には引退試合を行った。しかし、2000年7月30日の大仁田厚との電流爆破デスマッチで現役復帰。その後、WJプロレスを旗揚げし、解散後はフリーとなり、2019年6月26日に東京・後楽園ホールで完全引退した。
Photos:Teppei Hoshida Text:Masayuki Sawada
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