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「いやー、迷う」
「迷うところじゃないんだって」
「なんでよ。そんなにダメ?」
「元カノでしょ?」
「そうだよ」
「もう終わった人でしょ?」
「そういう言い方ないでしょ」
「もう終わった人の誕生日をキッカケに、久々に連絡しようとしてるわけでしょ?」
「まあ、そうだけど」
「セコいわあ」
「セコくないでしょ! 俺は純粋な気持ちで、祝おうとしてるだけよ?」
「何、純粋な気持ちって」
「え? 誕生日がめでたいな~って」
「お前、俺の誕生日に連絡くれなかったじゃん」
「は? インスタ『いいね!』したじゃん」
「ほら見ろ! なんだその温度差!」
「いやいやいや! それとこれは別じゃん。ワケが違うじゃん」
「違わねーのよ! お前は元カノと復縁したくて、その子の誕生日をキッカケに連絡したいだけなのよ!」
「別に復縁したいまで言ってないじゃん!」
「じゃあ何なんだよ」
「いや、なんつの、ワンチャンあればいいなあくらい」
「ほら! それ! 本音だろ、お前!」
「いや、祝いたい気持ちが先だよ? 純粋に、誕生日おめでとう~って」
「もう終わった人から言われて嬉しいかよ、そんなの」
「終わった人って言い方やめて」
「だって、終わった人だろ」
「いや、でもさ、元カノに連絡取るキッカケとか、ほかになくない?」
「え、相手が結婚報告をSNSにあげたときとか」
「それもう手遅れじゃん」
「おめでとう~って言えるぞ」
「そういう意味じゃねえのよ」
「てかそんなに会いたいの?」
「うん。めっちゃ会いたい」
「何年会ってないの?」
「5年」
「5年? もう忘れちまえ」
「いや無理でしょ。5年引き摺ってたら、なおさら忘れられんよ」
「そうは言うけどお前、その間も何人かと付き合ってんじゃん」
「あーーーーー」
「何」
「それとこれは、別っしょ」
「でた。別モノ発言」
「だって別じゃん」
「何が別なのよ。5年の間、何人かと付き合ったんでしょ? その程度ってことじゃん。全然、引き摺ってないじゃん」
「いや、引き摺ってんのよ。お前は分かってない。なーんも分かってない」
「なんで偉そうなんだよ」
「そりゃあ、何人かは間に挟んだよ? でも、その間も忘れてないのよ、その子のことは」
「なんだよそのキモいの」
「キモくないだろ」
「じゃあ5年間で付き合った子たちは、どうなるわけ?」
「それはそれだろ」
「冷たっ! びっくりした。いきなり冷酷じゃん」
「いや、そうじゃなくて、全員大事なんだよ、俺は」
「それはな、全員大事じゃねえってことだよ」
「正論やめてよ」
「いや論破されんなよ」
「あのね、付き合った人は全員大事で、だから5年前の彼女にも、連絡したいわけ」
「向こうはもうとっくに忘れてるかもしれないのに?」
「それ言わないで」
「向こうからしたら、墓の下からゾンビ出てきたようなもんなのに?」
「そこまで言う?」
「だってそうかもじゃん」
「いやー、忘れてないと思うんだけどなあ」
「てかさ、実際、会ってどうすんの?」
「いや、最近どうよ? とか、あれからどうしたよ? みたいな話して、うん、それだけでいい」
「は? もう1回付き合いたい、とかないの」
「いや、向こう、彼氏いるかもしれないし」
「あーそもそもね」
「うん」
「じゃあ、彼氏がいなかったら?」
「そりゃ、付き合えたら嬉しいよ」
「そんな好きなん? 過去にしがみついてるだけじゃなくて?」
「いや、そうかもしんないけど」
「この5年で付き合った人たちとは、どう違うの?」
「そりゃーお前、全然違うよ」
「具体的に」
「なんか、奇跡的っつーか」
「奇跡的?」
「なんか、あ。てか、あれだよ。
「え? あ、前に紹介してくれた子?」
「あ、そうそう! 紹介したじゃん」
「はー、あの子ね! そうか、別れて5年か」
「そうそう。いや、そうなのよ。ね。奇跡的でしょ?」
「どこが?」
「え?」
「幼馴染みってだけでしょ?」
「え、うん。奇跡じゃない?」
「いや、偶然だろ、それは」
「え、冷たっ! お前の方が冷酷やん」
「なんでだよ、それは奇跡じゃなくてただの偶然だろ」
「いやいやいや、幼馴染みが偶然、両思いになることなんてある?」
「あるあるだろ。むしろ王道じゃねえか」
「そうかあ?」
「そんなこと言ったら俺とお前だって、出席番号が前後だっただけで今まで付き合いあるだろ」
「奇跡じゃん」
「軽っ! お前の奇跡、軽っ! 偶然だろ!」
「冷てえ! 全部奇跡でいいじゃんよお」
「いやお前、奇跡ってのはもっとすげー瞬間だろ。窮地をギリギリで救われるとか、少し空を飛べたとか」
「そんなのハイパー奇跡だろ」
「なんだよ、ハイパー奇跡って」
「奇跡の上。ハイパー奇跡」
「勝手に作るなよ」
「えー奇跡じゃんよー幼馴染みー」
「思い出補正で好きなだけだなーそれは」
「いや、それだけじゃないって」
「じゃあ何よ」
「いや、最近、インスタ上がってて」
「おお、その子の?」
「もちろん」
「てかフォローしてんの?」
「え、だめ?」
「キモ」
「待って待って。それは偏見。別れたらフォロー外さなきゃいけないわけじゃないでしょ」
「ああ、それはそうか」
「うんうん。フォローはセーフ」
「OK。フォローはセーフね。で?」
「いや、インスタ見たら、その子、すげー可愛くなってて」
「ほおー」
「うんうん」
「で?」
「え? だから、会いたいなあって」
「は? なんだよそれ。結局、顔かよ」
「うるさいな。いいだろ別に」
「あっさり認めんなよ」
「え、てか、待って」
「今度はどうした」
「……連絡きた」
「は? 誰から」
「元カノ」
「え? どの?」
「例の、幼馴染み」
「はあ? 今?
「いや、ほんと。今」
「え、なんて?」
「『誕生日なんだけど、祝ってくれる人がいない』」
「はあ!?」
「ほら」
「……本当じゃん」
「どゆこと?」
「いやこっちのセリフだわ」
「……え、いけるかなこれ?」
「いけるだろ、これは」
「ヨリ戻せる?」
「かなりの確率でな?」
「マジか」
「マジだな」
「えー?」
「えー? だよ、ほんと! なんだよ、今までのやり取り! 茶番かよ!」
「本当だよ! どんな偶然?」
「いやいや、あのな」
「うん」
「これは偶然じゃなくて、奇跡」
「奇跡? これは奇跡で良い?」
「うん、これは、ハイパー奇跡で良い」
「マジか。ハイパー奇跡、出ちゃったじゃん」
「出ちゃったよ。目撃しちゃったよ」
「いやー、ハイパー奇跡かあ。すげーなあ」
「で、どうすんの?」
「うん。ちょっと、返事考えたいから、今日解散にしていい?」
「冷たっ! 冷酷すぎるだろ!」
カツセマサヒコ
映画化もされた『明け方の若者たち』での衝撃的なデビューから、2作目『夜行秘密』と人気作を生み出す小説家。ぐさりと刺さる人間模様やリアルな感情の描写に若者から熱い支持を集めている。執筆のほか、ラジオ『NIGHT DIVER』(TOKYO FM・毎週木曜28時~)など、多方面で活躍中。
※この会話はフィクションです。
撮影/伊達直人
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