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「あのさ」
「うん」
「今日の飲みって、合コンだったのかな」
「え? どういうこと?」
「いや、俺、合コンって、したことなかったんだよね」
「うん、私もないや」
「でも、今日のアレはさ、合コンじゃない?」
「ふふ、面白いね? その質問」
「いや、気になるじゃん。え、そっちは? 合コンって言われて来たわけじゃないの?」
「ううん、普通に、飲み会って」
「あーそうだよね? 飲み会だよね?」
「うん、飲み会」
「え、じゃあさ、飲み会と合コンの違いは?」
「えー? ふふ。なんだろうね?」
「だって、今日のやつはさ、周りから見たら、100パー合コンだよね?」
「あー、うーん、そうなる、のかなあ?」
「だってだって、男4の、女4で、幹事以外は初めましてってさ、これ完全に合コンじゃない?」
「あー、そっかあ。合コンかあ」
「ね、合コンでしょ?」
「……なんか、嫌だなあ」
「あははは! ね、嫌だけどね」
「アレじゃないかな? 合コンっていうと、出会いを求めてる人同士が集まる、ってイメージじゃない?」
「あー、うん、うん」
「でも、今日のやつはさ、ただ遊びたくて、飲みたくて、集まったわけじゃん?」
「なるほどね? 確かにね?」
「だから、今日は、出会い目的ではないから、合コンではない! ってことで、どうですか?」
「かわいい。とてもいいと思います」
「良かった。私は合コンに行ってない」
「うん。俺も、合コンに行ってない」
「ふふ」
「ふふふ」
「でも、楽しかったよね」
「うんうん! みんなアホで良かった」
「あははは。そうだね。アホだった」
「ショーヤの罰ゲーム最高だった」
「え、なんだっけ」
「ひとりでオードリー2人分のモノマネ」
「あー! あれ笑っちゃった。
「アイツ才能あるよね」
「ね、ショーヤくん本当に面白い」
「ずっとああなんだよ。酒入ると勝手にテンション上がって、自滅すんの」
「ふふ。楽しそうでいいなあ。え、みんな、何
「え、バイト。それ散々言ったじゃん」
「あー、ごめん、酔っ払ってたや」
「いやー絶対に聞いてなかったし、興味なかったでしょー」
「ええ? そんなことないって」
「そうかなあ~。ありさちゃん、こういうノリ嫌いなんだろうなーって思ってたけどな」
「ふふ。あんまり、ああいう場に行かないからね。新鮮だった」
「でしょ? やっぱそうだよね? なんかごめんね?」
「ええ? 謝らないで。楽しかったよ?」
「いやー申し訳なかったなー」
「えー、気にしすぎだよ。本当に楽しかったのに」
「ほんと?」
「ほんと、ほんと」
「そっかあ。てか、ありさちゃんてさ、普段は何してるの?」
「えっ、普段? なにその質問」
「いや、なんか、ありさちゃんって、あんまり会ったことないタイプだからさ」
「え、私のこと、不思議ちゃんだと思ってる?」
「違う違う。ただ、ほかの子とはちょっと違うから」
「えー、変わってるかなあ?」
「うん。なんか、余裕あるって感じする」
「ないよ、ないない。今日もどうしていいかわかんなくて、ずっと挙動不審だったよ」
「えーそんなふうに見えなかったけど」
「ほんとほんと。ずっと緊張してた」
「今も?」
「今は、少し」
「え、今もしてんの!? こんな喋ってんのに!?」
「ふふふ。あんまりないから、こういうこと」
「いやいやいや、あの、全然そんな、気を楽にしていいんで、本当に。ね?」
「あははは、いきなり気使われちゃった」
「えーだって俺に緊張する要素なんてどこにもないでしょ」
「うん、そこまで緊張してるわけじゃないから大丈夫」
「本当に? なんか、2人で歩いてるのが申し訳なくなってくるよ」
「いや、そもそも、この状況がさ」
「え、どゆこと?」
「終電逃して、同じ方向に歩いて帰ってるっていう」
「あ、そういうのも、あまりない感じ?」
「異性とは、ほぼ」
「えー、そういうことか。なるほどね?」
「あ、なんか純粋ぶってるとか、そういうわけじゃないんだけど」
「いやいや、うん、大丈夫! わかる。あの、別に俺、そういうつもりとか、ないんで」
「え? どういうつもり?」
「え? あの、お持ち帰り的な?」
「あははは! うん、大丈夫、それはないって信じてる」
「そっか。うん、良かった。あの、本当に人畜無害なので、俺は」
「ふふふ、うん、わかりました」
「うん、ほんとに、うん」
「……夜になっても暑いね」
「ね! マジで熱帯夜だね。ちょっと飲み物とか、買ってかない?」
「うんうん、そうしよ」
「お酒まだ飲む?」
「飲みたいなあ。ビール飲みながら歩きたい」
「まだビールいけんの? お酒は強いんだ?」
「うん、永遠に飲んでいられる」
「そうなの!? 全然そんな感じしなかった」
「
「えー、全然飲んでも良かったのに」
「いやー、引かれるから、ほんと」
「そんなに強いの?」
「うん、たぶん、酔ったことない」
「マジ!? え、逆に今度、飲んでみたいんだけど」
「あ、本当に? 強い?」
「いや、たぶん、そこそこ強いと思う」
「何飲める? 日本酒とかいける?」
「あ、うん、ちょっとは」
「ちょっとかあ」
「え? そんなに飲むの?」
「一升瓶、ひとりであけたことあるんだよねえ」
「一升!? あのでっかいやつ!?」
「家で飲んでると、止まらなくって」
「え、待って、1人暮らしって言ってたよね? 家に一升瓶あんの?」
「あ、うん、ネットで頼んだり」
「待って、ありさちゃんのこと、完全に勘違いしてたわ、俺」
「ええ、怖い。どんなイメージだったの」
「全然もっと、遊んでないかと思ったから」
「いや、え? 遊んでないよ。合ってるよ。ただの酒カスなだけだから」
「あー、そうか、そうか。いや、でも、意外だ。めっちゃ弱いのかと思ってたから」
「あー、猫かぶってたみたくなっちゃったかなあ」
「うん。びっくりしてる」
「あ、待って」
「うん? どしたの?」
「あの」
「はい」
「あそこに、喫煙所が」
「え! タバコ吸うの!?」
「うん、ずっと我慢してた」
「いやいやいやいや、確かに店は禁煙だったけども! ごめん気付かなくて!」
「いやいや、喫煙者なんてもう、絶滅危惧種みたいなものだし」
「いやー、えー、マジでありさちゃんのイメージがこの五分くらいでどんどん変わっていくんだけど!」
「ふふ。別に、隠してたわけじゃないよ?」
「そうだろうけども! ありさちゃん、めっちゃ面白いじゃん!」
「そんなことないよ、恥ずかしいって」
「え、他にないの? 他に」
「ええ? そういうんじゃなくない?」
「いいよ、なんでも。ほら! 言って!」
「えー、えっとさあ」
「あんの!? すごいな。なになに?」
「ちょっと、本当に申し訳ないんだけど」
「うん」
「私、人の顔と名前を覚えるのが本当に苦手でね?」
「おお、おお、いるね、そういう人ね、うん」
「名前、なんだっけ」
「え、誰の?」
「えっと……」
「え! 俺!? マジかよ! 名前知らずに一緒に歩いてたの!? ずっと飲んでたのに!?」
「ごめんごめん、ほんとごめんね。もう、もう覚えるから、うん」
「いやすごいよ、ありさちゃん、マジで最高だって。ちょっと、マジで仲良くなりたいわ、俺」
「あー、うん。えっと、名前聞いてからでいい?」
カツセマサヒコ
映画化もされたデビュー作『明け方の若者たち』、2作目『夜行秘密』と人気作を生み出し続ける小説家。ぐさりと刺さる人間模様やリアルな感情の描写に、若者たちから熱い支持を集めている。執筆のほか、ラジオ『NIGHT DIVER』(TOKYO FM、毎週土曜26時~)など、多方面で活躍中。リアルな近況や新作情報は、インスタグラム@katsuse_mでチェックしよう!
※この会話はフィクションです。
撮影/伊達直人
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