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編集部が気になる人に会いに行き、仕事のことからプライベートなことまでじっくりインタビューする「WEEKEND INTERVIEWS」。第6週は、ジェンダーレスモデルとして新たなステージを切り拓く井手上 漠さんにインタビュー!最近のお仕事から悩みの解決法、今後のビジョンに至るまで。素顔が垣間見えるロングインタビューをお届けします。
ジェンダーレスを具現化する
新ブランド「BAAKU」がスタート!
―ここ最近はどんな毎日を送っていますか?
新しいことでいうと、「BAAKU」というブランドを今年の春に立ち上げまして、いまは秋冬の商品たちと毎日向き合っています。この「BAAKU」は、ジェンダーレスであり、アンドロジナスであり、心にフィットするファッションを提案しています。自分自身がジェンダーレスとして生きる上で“ファッションってすごく楽しいもの”って思っているのに、メンズとレディースという境界がありフロアも分かれているのを見て、どこか心から楽しめない部分があるのが寂しいなって感じていました。だから、もっとファッションを自由に、心にフィットするものを「BAAKU」を通して発信していきたいんです。
―そんな漠さんらしい視点でのお洋服作りに注目が集まっています。
ブランドの立ち上げ当初は、どんなものを作ろう、どんなものが形になっていくんだろうってワクワク感のほうが大きかったんですけど、すごく難しい部分も感じています。性別関係なくとはいえ、男性と女性ではやっぱり骨格が違ったり、生まれ持ったものが違う。そんな身体に合わせながら、どう心にフィットさせるか、今までに前例がないチャレンジだからこそ、試行錯誤しながら一歩ずつ作り上げていっています。常に課題に向かっているのも、とても楽しくて、そうして出来上がったものを、たくさんの人に見てもらいたいなっていう気持ちです。「BAAKUスタイルって、自由でカッコいいよね」ってみんなに言ってもらえれば、最高です。
―この秋冬シーズンのおすすめアイテムはありますか?
今回、男女関係なく履けるスカートを提案しています。日本では、スカートって女性のものっていうイメージがまだまだ根強いですが、海外では男性がスカートをおしゃれに着こなすっていうファッションが当たり前に。その差って、制服がある学生時代にスカート=女性のものっていう固定概念が作られてしまうせいで、大人になってもスカートを男性が履くというファッションを楽しめなくなってしまっているのかなって。
じゃあ「BAAKU」で、性別関係なくおしゃれに着こなせるスカートを作って魅力を伝えようっていう気持ちがあって、スカートをたくさん出しています。いきなりスカートには抵抗があるとう人にも手に取ってもらえるようにスカートパンツという風にスカートなんだけど、パンツになっていてスカートが強調されすぎないデザインにアレンジしたりもしています。そんな試行錯誤が楽しいですね。
―忙しい毎日かと思いますが、休日はどんなことをして過ごしていますか?
オフは、自然を見に行きます。今日持ってきたフィルムカメラで自然を写真に収めるのも好きですし、島根県の隠岐島という大自然の中で育ったせいか、自然にできた美しいものに魅力を感じます。その土地の人々、空気、色彩の豊かさ。その全てがマッチしている環境に行くことでリラックスできますね。東京のようなキラキラした街も好きだけど、人生の中での休憩という意味では、私は自然を吸い込まないと本当にだめ。逆にいうと、人間関係とかですごく悩んでいても一回自然を挟めばリセットできますね。
美しい風景を前にして
“涙活”するのも好きなんです。
―自然の雄大さに包まれる感じですか?
そうですね。自分ってちっぽけだな。この悩みってちっぽけだったんだなって素直に思えるんです。たくさん人がいて、たくさん建物がある中にずっと置かれていると、なんでも頑張らなきゃ!頑張らなきゃ!ってモードになりがちですが、地平線の彼方が見渡せて空気が美味しい場所にいると、こんなに世界は広いのになんてちっぽけな悩みで悩んでいたんだろう、悩みすぎてたなって素直に思えるんです。“涙活”をすることもあります。絶対に誰もいないところで、できれば水平線に夕日が沈むシーンをぼーっと見ながら涙活したいですね。映画とかを観て流す涙も好き。なんか泣くと心のデトックスになるというかスッキリするんですよね。
―思いっきり涙を流せる場所、街中だとなかなか見つからないですよね。買い物でストレス発散みたいなモードはないですか?
ストレス発散というわけでないですが、古着屋さんに行くのも好きです。古着って着る派と着ない派に分かれがちだと思うんですけど、元々は私は着ない派だったんです。でも東京に出てきていろんな古着屋さんでいろんな古着に出会う中で少しずつハマっていった感じですね。偶然入った古着屋さんで、元々持っていたトップスとセットアップかと思うようなボトムスと出会うみたいな。ガチャ引く感じにも近いのかな。あと誰かが何年も何十年前に着ていた洋服がこうして価値が違う形で残っているのもストーリーを感じるなあって思って。あとは古着屋さんの独特の匂いも好きですね(笑)。
―意外な掘り出しものとの出会いもありますよね! ほかにはありますか?
あとは絵を描くのも好きです!学生時代、授業中とかうるさいタイプだったんですけど、唯一ずっと黙っていられるのが美術の時間。なんかこう、誰にも邪魔されたくないというか、誰かが騒いでいても耳に入ってこず、一人の世界に入り込めるのが美術の時間でした。描いた絵がすごく上手だと褒めてもらえたのも嬉しかったです。絵を描くのに心奪われてる時って何も考えてない時間で、それがめっちゃ好きなんですよね。この前、初めて油絵に挑戦しましたが、とても難しかったです。昔から馴染み深い水彩画が好きですね。基本1日で描き終わらせたいタイプなので、描き始めたら本当にずっと描いています(笑)。
―ゾーンに入ったらずっと描いてる感じなんですね。
なんかいいこと言ってる風ですけど、作品を残すってことに最近ものすごく魅力を感じています。上京してから美術館やギャラリーに足を運ぶことが増えたんですけど、今まで知らなかった世界に足を踏み入れた時、他では味わえない刺激が得られるのが好きです。作品一つひとつにメッセージが込められていて、一見するとただ真っ白な絵だと思っても、全然違うメッセージやストーリーが秘められていたりして、そういった作品に触れていくいうちに自分も何か作品を残せたらいいなって。どんなに下手でも、認められなくても、誰にも評価されなくても、それがいつか作品と呼ばれるものになれば、なんてこっそり願いながら絵を描いています。
綺麗になりたい気持ちは男女一緒!
悩んだ時はシャワーで洗い流す。
―悩みとか頭が凝り固まった時の解決法、何かありますか?
先ほどの答えに重複しますが自然に身を置くというのと、日常での私の悩みの解決方法はすごく独特で「シャワーを頭から浴びる」ですね。思いっきり土砂降りの日に雨にびしょ濡れになりたい時ってありませんか? 必死にならないと出ない汗も、感情が高ぶったり興奮しないと出ない涙も、雨とかシャワーを頭からかぶると水と一緒に流した気持ちになれるから、すごく気持ちがリセットされるんですよ。例えば明日は大事な仕事があって、ああしよう、こうしようとか色々悩んでいても、シャワーを浴びながら考えると、一気に悪いものが出た感じがしてスッキリするんです。
なんか私、メンタル強い人って思われていることがありますが、もちろん人間なのでメンタルが弱い時も多いですし、なんなら悩みだってすごく多いんです。無駄に敏感すぎて、本当にちょっとの刺激で心がやられてしまうこともたくさんありますけど、シャワーで洗い落としてどうにか生きてる。大人になったら、お酒を飲んで忘れるとかもできるかもしれませんが、まだ飲めない年齢なので(笑)。
―来年、成人式を迎える二十歳ですね!なにかビジョンや挑戦したいことはありますか?
芸能界に入るずっと前、それこそ小学四年生ぐらいの時から美容のお仕事をしたいっていう夢があったんですけど、それもカタチにしていきたいなって。自分が生まれ持った性が男性である中で、どうやって中性的に見せよう、どう美しくなろうっていうのをずっと研究してきました。私が小学生の頃は「男が美容かよ」とか「男がメイクかよ」って、男性が美しくなることに対して認知されない時期があって、そんな先入観を変えていきたいっていう気持ちがずっとあります。
美しいものは誰でも好きなはずだし、否定されるものでもないし。もっと美しくなるてことに尊重の心を込めようよっていうのは美容を通して伝えたいですね。いつかは「BAAKU」のように、もっとジェンダーレスに美容を楽しめる方法を広めるようなお仕事にも携わっていきたいです。
井手上 漠 BAKU IDEGAMI
2003年1月20日生まれ。第31 回ジュノン・スーパーボーイ・コンテストにて「DDセルフプロデュース賞」を受賞。2019年「行列のできる法律相談所」や、サカナクションのミュージックビデオ「モス」等に出演。同年「第36回ベストジーニスト2019」次世代部門賞を受賞し、2020・2021年と「マイナビ東京ガールズコレクション」に立て続けに出場。2021年4月には初のフォトエッセイ「normal?」を発売した。常に自然体で自分らしくを標榜し、容姿のみならずそのアイデンティティにも多くの支持を集めている。
サンリオの人気キャラクター「シナモロール」のデビュー20周年を記念して2022年10月8日(土)〜10月30日(土)まで開催される『好きを着る。ファッションウィークHARAJUKU GENDERLESS & FREE FASHION WEEK』のゲストアンバサダーに就任。シナモンとコラボレーションしたキービジュアルも話題に。
Photos : Akira Hair&Make-up : Emi Ojima Styling:Hideo Suzue(H.) Interview & Text:Kohji Ogata
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