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今日もどこかで、だれかが喋ってる。小説家カツセマサヒコさんの1話完結、オール会話劇!<メンズノンノ2022年7月号掲載>
「いやー、やーばい」
「な、やばいなあ」
「やばすぎるよ、まじ心配」
「それなー」
「しんどいわあ」
「しんどいなあ」
「別にさ、そんなことないってわかってるんだけど、それでもやっぱり、落ちるたびに人格否定された気がしない?」
「するする。すごいする」
「ね。あなたのこれまでの人生は価値がありませんでした~って、言われてる気がしちゃうよね」
「そうなのよな」
「メールやLINEで祈られてもさあ、こっちは死んだわけでもないのにさあ」
「縁起でもないよね、あれ」
「なー」
「うーーん」
「え、ちなみにさ」
「うん」
「面接でどんなこと話してる?」
「ええ? いや、フツーよ、フツー」
「なに、フツーって」
「いや、ほんと、フツー」
「いや、あなたのフツーが、ほかの人からすると特別なものである可能性があるんですよ」
「なに、誰なの?」
「さっきの面接官のまね」
「やめてよ」
「ふへへ。で、何の話してんの?」
「いや、え? ここで言う?」
「うん、知りたい知りたい」
「えー、はっず。いや、フツーに、ゼミとか、バイトのこと?」
「ええ? どんなこと?」
「えー? それ掘り下げる?」
「うんうん、知りたい」
「いやー、俺、副ゼミ長やってるんだけど、コロナでみんなリモートの中で、どうやって結束力を高められるかなーって思って、先生とも話してて」
「うんうん」
「うちのゼミ、テーマが地方創生なのね」
「おお、渋いね」
「じゃあ、地方のさ、うまいものあるじゃん」
「うんうん、あるね」
「それをみんなで頼んで、各自、家で同時に食いながらゼミしようっていうのやったの」
「うわ、なんかダルいな」
「そうなんだよ、ダルいでしょ。ダルいわあ、って空気でたからさ」
「うんうん」
「じゃあ、こっちで全部買って、みんなの家まで運びます、つって」
「え?」
「本当にウーバーイーツとか出前館みたいに、みんなの家、回ったのよ。同期15名と先生の家」
「マジかよやっば!」
「それをね、しかもリアルタイムで配信しててさ、ゼミのみんな、俺が移動してるところずっと観てんの。中にはGoogle マップで実況してるやつとかもいて」
「24時間テレビみたいじゃん」
「そうそう。それ面接官にも言われた」
「それでそれで?」
「いや、めっちゃ大変だったし、何人かは近いところまで取りに来てもらったりもしたんだけどね、結果的になんとか配り終えてさ、そしたらみんなでいただきまーす!って言ったとき、俺もう、画面が輝いて見えて、泣きそうになったのよね」
「わははははは! それ、エピソード強すぎじゃん!」
「でしょ? そうなのよ。これ面接官めっちゃウケてくれる」
「いいなーそういうの。羨うらやましいー」
「ほんとー?」
「だって企業ってそういう話好きそうじゃん? まず、コロナっていうマイナスの状況があって、それをどうにかしようって考えて企画して、それを先生に提案までして、あと、周りを巻き込んでるでしょ? で、実際に足を使ってやり遂げちゃったっていうのがもう、すごい。全部じゃん。自己アピールの要素、全部盛り」
「あははは。いや、これはね、ちょっと自信あった、確かに」
「え、ぶっちゃけ、どんくらい盛ってんの?」
「え? 話?」
「うんうん。え、さすがに少し盛ってるでしょ?」
「あー、まあ、そうなのかな? でも、そういう企画をやったのは、本当。ただ、自転車っぽく聞こえたかもしれないけど、本当は車で移動してる」
「あー、そうなんだ、なるほどね」
「あと、なんなら後輩と3人で配ってた」
「えー! なんだよそれ~」
「感動も3分の1でしょ? いや、でもね、話してるときに“1人で”とは言ってないし、移動手段もわざわざ話してないじゃん? だからウソは言ってないのよ」
「いや、詐欺じゃん、詐欺の手口じゃん」
「いや、人聞き悪いわ」
「あー、でも、まあ、そうかあ。えー、うまいなあ? え、みんな、そんなふうにやってんの?」
「いや、俺はこれだけど、みんなはどうか全然わからん」
「いや、でも、そうだよ、受かるやつってそういうことやってんだよ。うまいもん」
「いや、でも、俺、まだ内定ゼロよ?」
「いやーそこだよね。どういうこと? 今ので落ちるの? 完璧なのに?」
「いや、ぜんっぜんわからん。もう、何見られてるのか全然わかんないから、最近あきらめかけてる」
「そうだよねえ、そのエピソードで落ちるって、もう何見てんのよ?ってなるよね」
「そうなんだよねー」
「えー、でも、すごかったよ。なんか、俺さあ、面接のとき、ほんと緊張すんの」
「うんうん、俺もするよ」
「いや、でもね、違うと思う。俺もう、言葉が出てこないの」
「うんうん。え、どのくらい?」
「え、もう、すーごい」
「いや、どのくらい?」
「……」
「え?」
「こんくらい」
「マジで!? もう放送事故じゃん」
「そうなの。なんか、頭まっしろになっちゃうの」
「ええー、そうかあ、それはしんどいね」
「そこまでは、なかなかないでしょ?」
「うんー、結構、リアクションはすぐできるかも」
「そうだよね。やっぱ俺、そこらへんがダメなんだなー」
「いや、ダメってことはないでしょ。大丈夫だよ」
「でもほんと、すげー緊張しちゃって。俺、あんま人前には出ないじゃん。こうやって2人のときとかはさ、気にせず喋れるけど、誰かに見られる、とかそういうの、ほんと無理なの、昔っから」
「そっか。そういうところ、あんまり見たことないもんね」
「でしょ? だから、なんかちょっと羨ましい。普通に喋れるようになりたい」
「そうかー」
「うん」
「なんか、すげー悔しいね」
「うん」
「いや、俺、知ってるじゃん。お前のすげーところ、っていうか。面白いし、一緒にいてラクだし、楽しいのよ、俺はね」
「うん」
「でもさ、シューカツってなった途端、なんかいきなり、コミュ力高いやつの勝ちになるじゃん? コミュ力っていうか、プレゼン力?」
「うんうん」
「プレゼン力なんてさー、場数じゃん。好きなやつは何度もやってるし、嫌いなやつは避けてくるものじゃん」
「そうそう。そうなのよ。ほんと」
「俺なんかは嫌いじゃなかったから、たまたま何度かやってたけどさ、やってない人がそれだけで劣ってるように見えたりすんのは、マジで間違ってるよね」
「そうだよね? やっぱおかしいよね?」
「いや、そう考えると、シューカツってマジで謎だな。何なの?ってなる」
「そうだよねえ……。なんか、もっと違う方法で見てほしいんだけど、じゃあどんな見られ方なら受かるのかって言われると、それもわかんないんだよなあ……」
「いやー、本当わかんないよなあ……。俺だって、このまま内定ゼロで、なんとなく話が面白かったやつ、くらいで終わる可能性あるもんなあ」
「えーそれ、寂しすぎる。寂しすぎるし、なんか、お前が内定取れなかったら、俺、絶望しちゃうかも。みんな、そんなにデキるのかって、しんどくなっちゃいそう」
「いやー、でも、すごいやつはすごいから。ね。ほんと、わかんないけど。もう、全部わっかんないわ」
「わっかんないよね。ほんと、シューカツ、謎。謎すぎて、しんどいわ」
「あーー」
「あーー」
「空、青いね」
「ね。ずっとこういう天気がいいね」
カツセマサヒコ
『明け方の若者たち』で衝撃的なデビューを飾り、2作目『夜行秘密』と単行本はもちろん、短編でも次々と人気作を生み出す小説家。軽快だが生々しい会話の表現や、ぐさりと刺さるリアルな感情の描写に熱い支持を集めている。執筆のほか、ラジオ『NIGHT DIVER』(TOKYO FM、毎週土曜26時~)など、多方面で活躍中。インスタグラムは@katsuse_m。新刊・新作情報はSNSをチェック
※この会話はフィクションです。
撮影/伊達直人
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