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【連載】カツセマサヒコ「トーキョーカンバーセーションズ」第6回/シューカツってマジで何なの?

【連載】カツセマサヒコ「トーキョーカンバーセーションズ」第6回/シューカツってマジで何なの?

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今日もどこかで、だれかが喋ってる。小説家カツセマサヒコさんの1話完結、オール会話劇!<メンズノンノ2022年7月号掲載>

「いやー、やーばい」

「な、やばいなあ」

「やばすぎるよ、まじ心配」

「それなー」

「しんどいわあ」

「しんどいなあ」

「別にさ、そんなことないってわかってるんだけど、それでもやっぱり、落ちるたびに人格否定された気がしない?」

「するする。すごいする」

「ね。あなたのこれまでの人生は価値がありませんでした~って、言われてる気がしちゃうよね」

「そうなのよな」

「メールやLINEで祈られてもさあ、こっちは死んだわけでもないのにさあ」

「縁起でもないよね、あれ」

「なー」

「うーーん」

「え、ちなみにさ」

「うん」

「面接でどんなこと話してる?」

「ええ? いや、フツーよ、フツー」

「なに、フツーって」

「いや、ほんと、フツー」

「いや、あなたのフツーが、ほかの人からすると特別なものである可能性があるんですよ」

「なに、誰なの?」

「さっきの面接官のまね」

「やめてよ」

「ふへへ。で、何の話してんの?」

「いや、え? ここで言う?」

「うん、知りたい知りたい」

「えー、はっず。いや、フツーに、ゼミとか、バイトのこと?」

「ええ? どんなこと?」

「えー? それ掘り下げる?」

「うんうん、知りたい」

「いやー、俺、副ゼミ長やってるんだけど、コロナでみんなリモートの中で、どうやって結束力を高められるかなーって思って、先生とも話してて」

「うんうん」

「うちのゼミ、テーマが地方創生なのね」

「おお、渋いね」

「じゃあ、地方のさ、うまいものあるじゃん」

「うんうん、あるね」

「それをみんなで頼んで、各自、家で同時に食いながらゼミしようっていうのやったの」

「うわ、なんかダルいな」

「そうなんだよ、ダルいでしょ。ダルいわあ、って空気でたからさ」

「うんうん」

「じゃあ、こっちで全部買って、みんなの家まで運びます、つって」

「え?」

「本当にウーバーイーツとか出前館みたいに、みんなの家、回ったのよ。同期15名と先生の家」

「マジかよやっば!」

「それをね、しかもリアルタイムで配信しててさ、ゼミのみんな、俺が移動してるところずっと観てんの。中にはGoogle マップで実況してるやつとかもいて」

「24時間テレビみたいじゃん」

「そうそう。それ面接官にも言われた」

「それでそれで?」

「いや、めっちゃ大変だったし、何人かは近いところまで取りに来てもらったりもしたんだけどね、結果的になんとか配り終えてさ、そしたらみんなでいただきまーす!って言ったとき、俺もう、画面が輝いて見えて、泣きそうになったのよね」

「わははははは! それ、エピソード強すぎじゃん!」

「でしょ? そうなのよ。これ面接官めっちゃウケてくれる」

「いいなーそういうの。羨うらやましいー」

「ほんとー?」

「だって企業ってそういう話好きそうじゃん? まず、コロナっていうマイナスの状況があって、それをどうにかしようって考えて企画して、それを先生に提案までして、あと、周りを巻き込んでるでしょ? で、実際に足を使ってやり遂げちゃったっていうのがもう、すごい。全部じゃん。自己アピールの要素、全部盛り」

「あははは。いや、これはね、ちょっと自信あった、確かに」

「え、ぶっちゃけ、どんくらい盛ってんの?」

「え? 話?」

「うんうん。え、さすがに少し盛ってるでしょ?」

「あー、まあ、そうなのかな? でも、そういう企画をやったのは、本当。ただ、自転車っぽく聞こえたかもしれないけど、本当は車で移動してる」

「あー、そうなんだ、なるほどね」

「あと、なんなら後輩と3人で配ってた」

「えー! なんだよそれ~」

「感動も3分の1でしょ? いや、でもね、話してるときに“1人で”とは言ってないし、移動手段もわざわざ話してないじゃん? だからウソは言ってないのよ」

「いや、詐欺じゃん、詐欺の手口じゃん」

「いや、人聞き悪いわ」

「あー、でも、まあ、そうかあ。えー、うまいなあ? え、みんな、そんなふうにやってんの?」

「いや、俺はこれだけど、みんなはどうか全然わからん」

「いや、でも、そうだよ、受かるやつってそういうことやってんだよ。うまいもん」

「いや、でも、俺、まだ内定ゼロよ?」

「いやーそこだよね。どういうこと? 今ので落ちるの? 完璧なのに?」

「いや、ぜんっぜんわからん。もう、何見られてるのか全然わかんないから、最近あきらめかけてる」

「そうだよねえ、そのエピソードで落ちるって、もう何見てんのよ?ってなるよね」

「そうなんだよねー」

「えー、でも、すごかったよ。なんか、俺さあ、面接のとき、ほんと緊張すんの」

「うんうん、俺もするよ」

「いや、でもね、違うと思う。俺もう、言葉が出てこないの」

「うんうん。え、どのくらい?」

「え、もう、すーごい」

「いや、どのくらい?」

「……」

「え?」

「こんくらい」

「マジで!? もう放送事故じゃん」

「そうなの。なんか、頭まっしろになっちゃうの」

「ええー、そうかあ、それはしんどいね」

「そこまでは、なかなかないでしょ?」

「うんー、結構、リアクションはすぐできるかも」

「そうだよね。やっぱ俺、そこらへんがダメなんだなー」

「いや、ダメってことはないでしょ。大丈夫だよ」

「でもほんと、すげー緊張しちゃって。俺、あんま人前には出ないじゃん。こうやって2人のときとかはさ、気にせず喋れるけど、誰かに見られる、とかそういうの、ほんと無理なの、昔っから」

「そっか。そういうところ、あんまり見たことないもんね」

「でしょ? だから、なんかちょっと羨ましい。普通に喋れるようになりたい」

「そうかー」

「うん」

「なんか、すげー悔しいね」

「うん」

「いや、俺、知ってるじゃん。お前のすげーところ、っていうか。面白いし、一緒にいてラクだし、楽しいのよ、俺はね」

「うん」

「でもさ、シューカツってなった途端、なんかいきなり、コミュ力高いやつの勝ちになるじゃん? コミュ力っていうか、プレゼン力?」

「うんうん」

「プレゼン力なんてさー、場数じゃん。好きなやつは何度もやってるし、嫌いなやつは避けてくるものじゃん」

「そうそう。そうなのよ。ほんと」

「俺なんかは嫌いじゃなかったから、たまたま何度かやってたけどさ、やってない人がそれだけで劣ってるように見えたりすんのは、マジで間違ってるよね」

「そうだよね? やっぱおかしいよね?」

「いや、そう考えると、シューカツってマジで謎だな。何なの?ってなる」

「そうだよねえ……。なんか、もっと違う方法で見てほしいんだけど、じゃあどんな見られ方なら受かるのかって言われると、それもわかんないんだよなあ……」

「いやー、本当わかんないよなあ……。俺だって、このまま内定ゼロで、なんとなく話が面白かったやつ、くらいで終わる可能性あるもんなあ」

「えーそれ、寂しすぎる。寂しすぎるし、なんか、お前が内定取れなかったら、俺、絶望しちゃうかも。みんな、そんなにデキるのかって、しんどくなっちゃいそう」

「いやー、でも、すごいやつはすごいから。ね。ほんと、わかんないけど。もう、全部わっかんないわ」

「わっかんないよね。ほんと、シューカツ、謎。謎すぎて、しんどいわ」

「あーー」

「あーー」

「空、青いね」

「ね。ずっとこういう天気がいいね」

カツセマサヒコ


『明け方の若者たち』で衝撃的なデビューを飾り、2作目『夜行秘密』と単行本はもちろん、短編でも次々と人気作を生み出す小説家。軽快だが生々しい会話の表現や、ぐさりと刺さるリアルな感情の描写に熱い支持を集めている。執筆のほか、ラジオ『NIGHT DIVER』(TOKYO FM、毎週土曜26時~)など、多方面で活躍中。インスタグラムは@katsuse_m。新刊・新作情報はSNSをチェック

※この会話はフィクションです。

撮影/伊達直人

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