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お笑い芸人としてだけでなく、独特の視点とセンスで詠む短歌と俳句が話題の、フルーツポンチの村上健志さんの連載。メンズノンノWEBでしか読めない、季節感あふれる”恋”にまつわる俳句とエッセイ、そしてイラストを隔週でお届けします! 今回は新感覚のリズムの俳句とその向こう側の、ちょっと切ないストーリー。
「あっ、風船。」「猫」「黄色い看板」目に入ったものを、すぐ声にする彼女が可愛くて仕方なかった。鳩もいるよと教えると「鳩はホント怖いからやめて」と僕の後ろに隠れる。怒って膨らませたほっぺたを指で押して、空気を押し出させる時間。歌詞に出てくる一生続けば良いと思う瞬間ってのは、あの事だと思う。彼女が見たものをすぐ声にする度に、もう手をいつだって握れるのに、キスだってしたことあるのに益々好きになった。
「あっ、風船。」「ちっちゃ~い」「新発売」あい変わらず目にしたものを声に出す彼女。僕は「やめてやめて。周りに人いるから」と冷たく言う。ぷーと頬を膨らませているのだろうが、そちらを見ていないので本当のところは分からない。「そういうの可愛いと思ってるの?」と嫌なことを言ってしまう。
可愛くて仕方なかったはずの癖なのにイラついてたまらない。優しくて、いつも味方でいてくれる彼女には怒るところなんかない。それでも傷つけたくて何か違和感を探していたのかもしれない。「見えたものをすぐ声に出す」という、とても愛おしかったその違和感を煩わしいものとして君を傷つけてしまった。別れ話の時に君は涙を流していたけれど、もう「涙」とも「悲しい」とも言わずに分かったとだけ言っていた。
駅前を歩いていると、子供が手を離してしまったのだろう風船が空に上がっていく。「あっ、風船。」と言う声がどこからか聞こえて来て可愛い人がいるな~と思ってしまった。僕は随分と勝手だ。
★Profile/1980年生まれ。茨城県出身。お笑いコンビ”フルーツポンチ”のボケ担当。TV『プレバト!!』(MBS系・毎週木19:00~)での奮闘ぶりが話題に。また、情報サイト『好書好日』の連載をまとめた『フルーツポンチ村上健志の俳句修業』(春陽堂書店)も好評発売中。インスタのアカウントは@mura_kami_kenji,
だが、センスが炸裂するイラストのアカウント@kenji_mura_oekaki,@birthdaychairもぜひフォローを。自身のYouTubeチャンネル『フルーツポンチ村上の俳句の部屋』での俳句実況もチェック!
Haiku & text & illustration : Kenji Murakami
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