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春、今年もはじまりの季節がやってきた。新しい生活や目標へ、一歩を踏み出す人も多いのでは。憧れのあの人は、僕ら世代のときにいったい何を考え、どう過ごしていたのだろう。悩み多きメンズノンノ読者に、各界で活躍する先輩からエールが届いた!
20代ってヘンな自意識が
あるじゃないですか。
大人になると
それがなんてつまらない
こだわりだったんだろうって
気づくんですよ。
コート¥363,000・ニット¥110,000・パンツ¥121,000・ブーツ¥99,000/ボッテガ・ヴェネタ ジャパン
できないなりにもがき続けていた
――あらためて20代の頃の自分を振り返ると、どのような日々を過ごしていたと思いますか?
「20代は、ひたすらお芝居の日々でしたね。こう言うと何だかカッコよく聞こえますが、自分の場合は他に何もなかったので、できないなりにとにかく頑張ってもがき続けていた感じです。それと、20代の頃はよく怒られていましたね。先輩の誘いに行かなかったり、社長から電話がかかってきても居留守を使ったりとか、今思えばそりゃ怒られるよなって(笑)。まぁ、そもそも自分から役者になりたいと思ってスタートしたわけじゃなく。きっかけは母親だったので、こんな長いこと役者を続けられるとは初めのうちは思ってなかったんですよ。仕事はしていましたが、20代の頃なんてお金なんか全然なかったですし」
――そうやってもがきながらお芝居と向き合う日々の中で、どういうときにやりがいだったり、喜びみたいなものを感じていたんですか?
「僕、基本的に人が好きなので、みんなで同じ目標に向かって何かをつくりあげるという、その行為自体が大好きなんです。だから、現場に行くのは毎回楽しくて。特に若い頃は、仕事なんだけど、3割ぐらいはみんなに会いたいから現場に行っているという感覚でしたね」
20代の自分
「まったく覚えていないんですけど、たぶん20歳そこそこの頃だと思います。今は絶対に着ないファッションですよね(笑)」
――自分の中で大きく変わったなと思えるターニングポイントは何でした?
「何だろう…すべての作品、すべての現場が今の自分をつくってくれていると思ってますが、世間的にもわかりやすい転機といえば『おっさんずラブ』(2016年~)ですね。自分にとってもがつんと価値観が変わるような衝撃を与えてくれた作品でした。でも、その前にも転機となるような作品はたくさんあって。というのも、僕の場合、20代のときにやっている作品数は同世代と比べても群を抜いて多かったんです。そこでは本当にいろいろな人との出会いがありましたし、いい経験をさせてもらいました。だから、ひとつのことがきっかけで劇的に変わるというよりは、そういう出会いの積み重ねが自分の中で大きなものになっているなって思います。やっぱり年齢を重ねるとできることも増えるし、責任も大きくなるし、そうやって少しずつ変わっていった感じですね」
――同年代の役者に対するライバル心とかはなかったんですか?
「正直、嫉妬はありました。20代って年齢だけでいったら大人ですけど、実際はまだまだいろいろなことが足りないから、ものすごく焦るし、いろいろ周りと比べたりしちゃうんですよね。特に僕らの仕事って後から来たやつが一気にどんとスターになったりすることが日常茶飯事で起こるから、そのたびに焦るし、落ち込んだりしたときもありました。でも、あるとき、ネガティブでいることって本当に何もメリットがないなと気づいたんです。自己流のマインドコントロールじゃないですけど、そう思うようになってからはすごくラクになりましたね」
――考え方ひとつで世界は変わるってことですね。
「本当にそうです。それも元をたどれば人との出会いなんですよね。友達だったり、先輩だったり、今の奥さんだったり、いろいろな人たちと出会って、『この人のこういうところはいいな』とか、『この人のこういう考えは見習いたいな』とか、そうやって人のいいところを少しずつ取り入れていったんです。僕は意志が弱いので、自分で自分を変えるのがすごく苦手で。でも、いい人と出会えばいい方向に行くし、悪い人と出会えば悪い方向に行く。明るい人といれば自分も明るくなるし、暗い人といると暗くなる。もちろんすべてがこのとおりになるわけではないですが、基本的にはこういうことだと思うんです」
――いいところは見習って、なりたい自分に近づいていくっていうのはすばらしいと思います。
「20代ってヘンな自意識があるじゃないですか。僕自身もそうだったからわかりますけど、本当に大人になると、なんてつまらないこだわりだったのだろうってことに気づくんです。ただ、それは若さゆえの特権みたいなものだったりもするから、とにかくまだ若いうちは、がむしゃらに走り続けていればいいんじゃないかなって思います。いつか自分で気づくときが来るので」
20代の自分
初めて主演を務めた映画『凍える鏡』(08年)でのひとコマ。「23歳ぐらいのときかな。この衣装は僕の私服なんですよ。懐かしいなぁ」
もし20代に戻れるとしたら
――20代のとき、未来の自分はどうなっていると思っていましたか?
「20代のときは、それこそ30代になったらもうちょっとしっかりしていると思っていましたね。ヒゲなんか生やして、ダンディで渋い役とかやっているイメージはありましたが、現実は全然そんなことになってない(笑)。ただ、20代の頃に思い描いていた未来の自分と、30歳になったときに思い描いていた自分と、2~3年前に思い描いていた自分って全部違うから、結局なるようにしかならないというか、別に20代の頃に思い描いていた自分になることが正しいわけでもないので、しょうがないですよね。落ち着くところに落ち着いているのかなと思います」
――今、仕事に対するモチベーションはどういう感じですか?
「モチベーションはすごく高いですね。今は現場に入っていないから何とも言えないですけど、とにかくすごく面白い作品をつくりたいなと思うし、みんなに面白い作品を観てもらいたいと思っています。作品に関わっている人も、それを観てくれる人も、みんなひたすら幸せになってくれたら最高ですよね」
20代の自分
「これは映画『図書館戦争』(13年)の宣伝を兼ねて岡田准一くんたちと一緒に『VS嵐』に出演させていただいたときですね。楽しかったです」
――これからやってみたいこと、挑戦したいことがあれば教えてください。
「漠然とですが、いろいろなことができたらいいなと思っています。お芝居絡みでいったら、何かプロデュースしてみるとか、何か劇団を立ち上げてみるとか、何か演出してみるとか。別にそうしたいということじゃなくて、それくらいのことができるようになっていたらいいですよね。自分的に楽しく、思いが共有できる仲間といろいろなことができればいいなと思っています」
――もしタイムマシンがあって、20代に戻れるとしたら戻りたいですか?
「戻りたいと思わないです。唯一あるとしたら結婚するときに戻って、ちゃんと奥さんにプロポーズしようかなって。いまだに言われるんです。プロポーズの言葉がなかったから、当時の話になるたびに毎回違うプロポーズの言葉を考えて、『あのとき、こうだったよね』って勝手に思い出話をつくるのが夫婦のネタみたいになっていて(笑)。何となく一緒になったので、それを後悔しているわけではまったくないですが、何か記憶に残るプロポーズでもしておけばよかったかなとは思います。皆さんはぜひ(笑)」
最新主演作は『女子高生に殺されたい』(4月公開)。田中さんは女子高生に殺されたいというゆがんだ欲望をかなえるために高校教師になった男・東山春人を演じる。
Kei Tanaka
田中 圭 / 俳優_37歳
1984年、東京都出身。2003年のドラマ『WATER BOYS』で注目を集め、18年の主演ドラマ『おっさんずラブ』で大ブレイクし、大きな話題を呼んだ。主な主演作に『劇場版 おっさんずラブ 〜LOVE or DEAD〜』(19年)、『ヒノマルソウル~舞台裏の英雄たち~』『総理の夫』『あなたの番です 劇場版』(すべて21年)など。
Information
主演映画『女子高生に殺されたい』は4月1日公開。原作は古屋兎丸の同名漫画。出演:田中 圭、南 沙良、河合優実、莉子、茅島みずき、細田佳央太ほか。監督・脚本:城定秀夫。
Photo:Arata Suzuki[go relax E more] Hair & Make-up:Emi Hanamura[MARVEE] Stylist:Takashi Yamamoto[style³] Interview & Text:Masayuki Sawada
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