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先日ツアーの合間に香港と台湾へ飛んだ。ニューシングルの発売とツアーの宣伝のためである。ともに何度か訪れている外国である。
香港は随分昔、英国から返還される直前に訪れたことがあったが、一昨年バンドで訪れたときも大きく変わった感じはしなかった。ただ、不夜城と言われているからさぞかし夜中まで街が盛り上がっているのかと思いきや、かなり早い時間帯で店は閉まり、人も出歩いていなかったので思いのほか健康的な印象がついた(夜景はスモッグで見えなかったけど)。台湾は今回で8回目ということでこなれた手応えが自分の中であった。ちょっと地元に帰ってきた感じだ。本当に落ち着くし好きな土地。みんなは沖縄に似ていると言うけど(実際位置は非常に近いしね)、個人的には大阪の熱気や活気に近いものを感じる。
そんなわけで私ひとり+スタッフ数名で向かった。こういう場合、大抵メンバー全員ではなく私ひとりということが多い。現地のインタビュアーから「ひとりで大変じゃない?」「寂しくない?」と(インタビューの冒頭で)聞かれるのだが、「とんでもない。ひとりになれて清々するよ」と冗談めかしながら答える。そうするとインタビュアーは一瞬真顔になる。おそらくこの人たち仲悪いのかな? と勘ぐられているのだろう。それはそれで面白い瞬間だったりもするんだけど。
でも本当にツアーやレコーディングの合間にメンバーから離れて違う作業をするのはある種のリフレッシュ効果がある。部屋の空気を入れ替える程度の、だけれど。そうすることで各メンバーやバンド全体のこと、そして自分自身のことも客観的に見つめ直すことができる。同じ部屋なのに、同じ家具なのに、空気を入れ替える前と後では違って見える、あの感じだ。
メンバーは友人である以上に商売仲間である。仲よしこよしでやっていられるのは学生まで。飯食っていくならアマチュア時代からそう扱うべきだと思っていた。事務所に所属して、ライブにお客さんを集めて、ということになってくると友人である事実を一旦端に追いやらなくてはならない場面が実際多くなった。だから常にお互いに対して厳しくしておかないといけない。
でもやっぱりそこは人間なわけで。つい甘くなるし、甘えてしまう瞬間もあるのだ。そうなったときに一旦離れるという作業は思わぬ効果をもたらしてくれる。なのでこういった機会はうまく活用している。
ひと通りのプロモーションを終え、台北の最終日の夜。バンドマンとしてではなく、ひとりの人間としてのリフレッシュを体験した。珍しく適当にひとりでブラブラと台湾の夜の街へ繰り出したのだ。何か明らかな悪さをしたいというわけではなく、少しだけ浮かれた喧騒の中に混ざってみたいと思い立って。映画『恋する惑星』な雰囲気を味わいたかった(あれは香港が舞台だけど)。夜市を歩いたり、クラブをのぞいてみたり。台湾独特のネオンライトを眺めたり。もちろん現地人という感覚もないんだけどね。川上洋平でも、誰でもない、でも心地いいという不思議な感覚だった。非常にユニークな夜だった。
朝5時頃にホテルに戻って(シラフだから)風呂に入って就寝。次の日の昼に取材があって、終わって気づいたら飛行機に搭乗していた。また普段どおりの日常が始まるんだなーと思いながら飛行機の窓から台北の街を眺めたわけだけど。それは確実に外国だし自分の地元ではないんだけれど、さっきまで自分は確かにそこにいた、存在したんだという事実をかみ締めることができてそれがうれしかった。外国を訪れたときの大きな醍醐味である。
帰りに映画は観なかった。
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