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服好きたちの私物のなかでも、とくに思い入れの強い「人生のベストバイ」を教えてもらう連載。ひとつには絞りきれないって? なら、3つ教えてください!
人生のベストバイ、3つ教えて!

今回の服好きゲストは、スタイリストの中道康生さん。
1.〈CAYL〉のシェルジャケット

「21歳で上京してから9年半スタイリストアシスタントをやって、最近独立しました。今回紹介する3点は、ちょうど、どれも独立後に買ったもの。三種の神器的な、個人的に必須の3点です」


「このケイルのシェルは、ロケ用のラフな羽織りとしてもよさそうだと思ったもの。仕事道具ですね。実際、まだ肌寒かった2ヶ月前までは、インナーとパンツだけ替えて、本当に毎日これを着て仕事に行っていました」

「シェルジャケットって、ずっと羽織ってても『また同じ服じゃん』って思われにくい洋服なんじゃないかと思います。小学生のときに着ていた“ジャンパー”みたいな感覚。あれも、1着だけを毎日着ていても、違和感なかったじゃないですか。たぶんそういう印象は、みなさんのなかにも無意識的にある気がします」


「流行りもつねにあるし、カッコつけた感じのブランドは避けたくて。ケイルは、韓国ブランドだっていうところも含めて抜けがあるように感じましたし、ロゴの少なさやその位置、袖口のベルクロなんかのディテールに、研ぎ澄まされていない、いなたさがあって、そういう点でも気に入っています」
2.〈HAFFMANS & NEUMEISTER〉の眼鏡

「2ヶ月前にコンティニュエで買った、ハフマンス&ノイマイスターの眼鏡です。上品で馴染みのいいデザインを求めていたので、最初は、リムレスもいいかなと考えていました。でも、ちょっとオシャレすぎるのも気に掛かって、メタルのリム有りを選んだんです」


「昔から、眼鏡は目が悪くなってから買うって決めてたんです。伊達は、絶対に掛けたくなかった。アクセサリーみたいなものがそもそもあまり好きじゃないのですが、とくに眼鏡は、確立された用途があるじゃないですか。だから、伊達ってことは“オシャレのため”ということ。そこにむず痒さを感じるんです」

「それで、一昨年くらいになって目がちょっと悪くなってきたので、ようやく眼鏡を探しはじめたんです。これは、超繊細なデザインで、掛けてるけど掛けてないみたいに、とにかく軽い。そこも、メンタル的に無理のない感じがして、気に入っています」

「天邪鬼的なんですけど、ただ『逆を行きたい』みたいなことでもないんです。一方の考えも、その真逆側の考えも、そして真ん中にある“正解”も、ぜんぶ肯定したうえで、自分はどこをいいと思うか。そうやって生まれる考え方の幅みたいなものが、大事な気がするんです」
3.〈KAKAN〉のニットパーカ

「そういう意味では、新品か古着か、みたいな線引きについても同じ。どちらかがより優れている、っていうような価値観じゃないですね」

「大切なのは、新品のなかでの足し引き、もしくは古着のなかでの足し引きのバランスで、このカカンのニットは、そのバランスが絶妙です」


「ボディはカーハートを元にしてあるそうです。だから、普通にしていたら、いなたくなってしまうはず。でも、綺麗なブルーの色味や、リブなどのちょっとした優しいデザインが、中和していて。デザイナーズブランドの醍醐味が表れていると思います」

「そうしたバランスを大切にするのも含めて、僕は基本的に視覚から入ってくる情報でものを判断することが多いと思います。生産国がどうとか、コンセプトとか、ほとんど知らない。それよりも、“好きで作っているんだな”と感じられることのほうが断然楽しいし、そういう洋服が、仕事抜きに自分が本当に着たいと思えるものなんです」
Photos: Shintaro Yoshimatsu Composition&Text: Masahiro Kosaka[CORNELL]
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