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服好きたちの私物のなかでも、とくに思い入れの強い「人生のベストバイ」を教えてもらう連載。ひとつには絞りきれないって? なら、3つ教えてください!
人生のベストバイ、3つ教えて!

今回の服好きゲストは、ファッションブランドのPR業をはじめ、さまざまなブランドやプロダクトのプロモーション設計、ビジュアルディレクションなどをおこなう田中遥さん。
1.〈Levis®〉のヴィンテージデニムパンツ

「僕も33になって、毎日バキバキにファッションしていられる歳でもなくて、本当に上質なものを大事に着たいっていう意識が強くなってきました」

「独立してから、ファッション以外にもいろんな業界の仕事をするようになりましたが、そういう“上質ないい服”って、ファッションを知らないひとたちにも共通言語になるんです。いいコートは、誰が見ても、いいコートだってわかる。いいデニムを穿いてると『それ、いいね』って言われる。根本的な良し悪しみたいなところには、そういう意味でも、より敏感になりました」

「このビッグEは、1年前くらいに買いました。色の落ち方とかアタリの出方とか、やっぱり、現行には出せない魅力がありますね。似ているデニムや、現行でもいいデニムはもちろんたくさんあるけど、このムードには勝てないと思う」


「ヴィンテージのデニムは、これまでも、それこそリーバイスの1stから3rdまで買ったりしてきたけど、若い頃ってお金もないから手放すじゃないですか。無理して買っているとどこかでヒズみが生じてくるし、やっと身の丈に合ってきたんじゃないかなって」


「一度リペアに出したんですよ。自称『日本一リペアが上手い』っていう80歳くらいのデニムオタクに。でも、見てわかる通りクソ雑で(笑) ただ、それでもなんとも思わないです。ヴィンテージだからって変にこだわることはないし、頑張って穿く必要はない。ただのデニムなので」
2.〈BLACKBIRD〉のロングコート

「コートって、好きなんです。ファッションをやりはじめの頃には憧れもあったし、着ると大きい面積が隠れるのがシンプルにかっこいい。『コートを着て歩くのっていいよな』って、いまだに思います」

「でも、これぞってモノにはそうそう出合えなくて、そんななか、このブラックバードのコートは“盛り”抜きに人生で一番買ってよかったコートです」


「まず、ファリエロサルティのツイード生地がめちゃくちゃよくて。品がよくて存在感もあって、クラシックな重みも感じられて。対して、裏地は粗野。そのコントラストが絶妙です。僕はドレス側の人間でもないし、かといって、どストリートなわけでもないですが、そういう自分にはちょうどいい塩梅。すべてが詰め込まれているなって思います」

「そんな、自分にとって究極系みたいなコートで、とても気に入っていますが、これもヴィンテージデニムと同じで、扱いは適当。生地には洗いがかかっているので、飯屋に行ってもぐちゃっと丸めて放っておけるし。いい服だからって神経質になるっていうのは、ダサいじゃないですか」
3.〈HERMES〉の「メドール」

「エルメスの、ちょい古めの『メドール』です。普段はロレックスをメインに着けていますが、ちょっとライトなタイミングに着けられる、ファッションっぽい時計が欲しいなと思ってメルカリで買ったもの。限られた時期にしか使われていなかったシルバー925製だったところにも惹かれましたね。アクセサリー感覚です」

「僕は少し感覚が古いのか、男たるもの時計はしておかないと、みたいな気持ちもあるんです。親父もめっちゃ時計が好きで、昔から『時計は着けとけ』って言われてきたのも影響していると思います」

「実際、フリーランスのいまはプライベートと仕事の棲み分けなんてほぼないので、ちゃんと時計をして出かけるとか、クライアントと会うとか、そういうスイッチにもなっている気がします。それに、腕時計って、いまもきっとクラシックの世界では着けますよね。だとすると洋服としては最低限の嗜みになってくる」

「とはいえ、プロダクトとして単純にくすぐられるというか。なんだかんだ言っても、モノとして好きなんでしょうね」

「家具も好きで、よく見たり買ったりしています。ちょっと大袈裟なハナシですが、そこには“文化の継承”みたいな魅力があります。過去に生み出された現存する家具を手に入れたら、その担い手になれるかもしれない。そういう意味でのマスターピース感があります。でもそれは、デニムだって、エルメスだって、数の大小はあれ変わらないですよね」

「また、そうした家具に囲まれていると、いわゆるベーシックとかスタンダードとか、そうしたモノの良さに気づくところもあって、だから洋服もどんどん削ぎ落とされていくというか。足すより引いていくことにより魅力を強く感じるようになってきたのも、だからかもしれないですね」
Photos: Shintaro Yoshimatsu Composition&Text: Masahiro Kosaka[CORNELL]
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