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服好きたちの私物のなかでも、とくに思い入れの強い「人生のベストバイ」を教えてもらう連載。ひとつには絞りきれないって? なら、3つ教えてください!
人生のベストバイ、3つ教えて!
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今回の服好きゲストは、mita sneakersでプレスを務める草ヶ谷 駿さん。
1.〈adidas Originals〉の「ラッドランダー ミタ」
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「これは、98年に発売された『バッドランダー』をもとに復刻発売した『ラッドランダー』の、ミタスニーカーズコラボモデルです。復刻ですが、個人的には逆に目新しさを感じています。なんなら、昨今の“近未来的”と謳われるスニーカーよりも。いまの若い世代にも新鮮に映ると思います。また、アスリートを支えるために当時のテクノロジーを集約したシリーズに並ぶモデルでもあって、個人的にも『体感してみたい』って純粋に思ってしまいました」
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「スニーカー好きにもいろいろありますが、僕は、“アップデート版”に惹かれるタイプ。コレクター的な趣味はほとんどなくて、ライフスタイル向けにアレンジされたスペックやギミックに惹かれるんです。インラインモデルからハイプなモデルまで、入社当時は幅広く履いていましたが、そのなかで、スニーカーにはテクノロジーの進化の歴史が詰まっていることに気づいて。このコラボモデルも、そういう意味ですごく興味が湧くんです」
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「履き心地はとても安定感があって、そのためにはある程度の重さも絶対に必要ですが、それも担保されていると感じます。あと、最近はゴアテックス搭載モデルも多く、店頭で探すお客さまも増えていますが、これは撥水加工済みでさらにシュラウド(アッパーのカバー)で覆われているので、街で履くには十分なスペックだと思います」
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「実はこのコラボモデルは、『コンソーシアムカップ』という世界中の限られたリテーラーが競い合うアディダス主宰のデザインコンペの決勝戦用に、ミタスニーカーズがスタンバイさせていたデザインなんです。各ラウンドで勝利したショップが考案したモデルは、実際に発売することができるのですが、ミタスニーカーズは残念ながら1回戦で負けてしまって……」
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「なので本来は世に出せなかったのですが、翌年(2024年)にOGカラーが復刻するストーリーもあって、結果的に発売できることに。90年代初頭のアスレチックシューズに革命をもたらした名シリーズ『エキップメントシリーズ』に位置付けられながら、なおかつプレミアムライン『コンソーシアム』から発売した、特別なコラボモデルになりました」
2.〈PUMA〉の「GV スペシャル」
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「好きなスニーカーブランドって、とくに決めていないんです。最近は休日にビルケンシュトックやノースウェーブを履いたりするし、偏見がないというか。でもプーマは、昔サッカーをやっていた頃によく履いていたのもあって、身近なブランドで、スニーカーにハマるきっかけでもありました」
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「これは、中国のスニーカーショップ・ディールと、ミタスニーカーズによるトリプルコラボレーションモデル。アルゼンチンの名テニスプレイヤーであるギレルモ・ヴィラス氏のシグネチャーモデルでもあって、キャットロゴの下には『G V』のイニシャルが刻印されています」
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「クレイコートを得意とする選手だったということで、その背景をカラーパレットで表現していて。トゥ部分の白いラインは“コートの白線”をモチーフにしています。どのシューズにも元のデザイナーがいるわけですが、そのオリジナルデザインを尊重しつつ、こんな風にいくつもの継ぎ目を飛び越えながら綺麗にプリントを施す、そういう丁寧なものづくりがプーマの特徴のひとつで、僕も好きなポイントです」
3.〈ASICS〉の「ゲルイエッティ」
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「近年のY2Kのトレンドは、アシックスが加速させたイメージが強いんじゃないかと思います。でも、そうした視点からの注目度が高すぎて、『実は過去にこんな独創的なモデルがあったんだ……』と驚くことも。『ゲルイエッティ』は、そうした意味でも個人的に再注目したいモデルです」
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「アシックスのエポックなモデルを日本発信でモダンに再生させるプロジェクトが去年からはじまっていて、そのデザインクリエイターに弊社の国井が選ばれています。『ゲルライト スリー』シリーズに続き、そのプロジェクトの第2弾として復刻されたのがこの『ゲルイエッティ』」
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「もとは、2000年に発売されたトレラン用のアフターシューズ。それを、ストッパー付きシューレースや、抗菌・防臭機能の高い天然コルクのインソールをインストールしたり、シューレースホールの位置を調整したりすることで、靴を脱ぎ履きするタイミングの多い日本の環境に合わせてアップデートしています」
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「当時はフェスに履いていくひとが多かったそうですが、アップデートによって履くシチュエーションがさらに増えるんじゃないかと感じています。これを機にハイカットにチャレンジするひとも増えてくれたら嬉しいですね」
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「どの復刻モデルもそうですが、当時を懐かしむオールドファンに届けて終わりじゃなくて、個人的には、やっぱり新しい世代にも届けたいと思っていて。コラボレーションの意義のひとつも、そこにあるんじゃないかと思います」
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「そのためにも、フィジカルでストーリーを伝えていくことを、僕はいつも大事に考えています。コラボモデルだけが売れるのでは意味はなくて、お客様にはそれを通じてスニーカーに興味を持ってもらって、選択肢を増やしてもらいたい。それを日々心がけながら、いまでも店頭に立っているんです」
Photos: Shintaro Yoshimatsu Composition&Text: Masahiro Kosaka[CORNELL]
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