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服好きたちの私物のなかでも、とくに思い入れの強い「人生のベストバイ」を教えてもらう連載。ひとつには絞りきれないって? なら、3つ教えてください!
人生のベストバイ、3つ教えて!
今回の服好きゲストは、ユナイテッドアローズ&サンズ SALES MASTERの吉岡レオさん。
1.〈STABILIZER GNZ〉のデニムパンツ
「昔は、デニムが本当に嫌いだったんです。暑いし、動きづらいし。そんななか、10年前にこの会社に入って、1本買ってみようかと手に取ったのがスタビライザーでした。ただ、買ってから2年くらいは穿く気になれず……」
「別のあるときネイビーのブレザーを買ったんですが、そのとき先輩が『ブレザーに合わせるなら、やっぱりデニムだよね』みたいなことを言ってて、それで思い出して、我慢して1年間穿き続けたんです。そしたら、めちゃくちゃいい感じに色落ちして、どんどん思い入れが深くなっちゃって。ヘンなところにヒゲが入ってたりするんですけど、それも自分っぽいな、とか」
「それからはスタビライザーのことも好きになって、いろいろ穿いてきました。今日穿いているのも、そのうちの1本。でも、いくら穿き込んでも、この感じには辿り着かないんですよね」
「めちゃくちゃ太っちゃった時期には、ファスナーがだんだん下がってくるのを止めようと、ボタンに引っ掛けて留められるリングを付け足しました。生地のヨレを誤魔化そうと赤い糸で補強したのも、同じ時期ですね。そうやってところどころ補修しながら、楽しんで穿いてます」
2.〈POLO SPORT〉のキャップ
「趣味といえば服なんですけど、旅も好きで。大学時代は、毎年の冬休みにバックパッカーやってました。往復のチケットだけ買って、宿もなにも決めずに飛行機に乗って」
「そうした旅のなかでなにより興味を持ったのはやっぱり服だったんですけど、とくに面白くて共感したのは、いろんな国ごとの、その生活や必要性から生まれたスタイル。たとえばグアテマラのひとたちは、麦わら帽子の下にキャップを被ります。とにかく強い日差しを避けながら、でも、そんななかでもオシャレをしたかったんじゃないか、とか」
「だから僕も、自分の日常生活に馴染むものや、邪魔にならないものを選びたいんです。ショップに立つこの仕事をするうえで、パフォーマンスに支障をきたさないものを選びたい。そういう意味で、デニムはずっと苦手だったんですよね」
「とにかく汗っかきなので、帽子は必須。被ってないと汗がダラダラ落ちてくるので、ほぼ毎日なにかしら被っていて。とくに、ポロのキャップはお気に入りで、高1のときに初めて買ったのをいまだに被っていたりします。なかでも、最近仲間入りしてよく被っているのは、このポロスポーツのキャップ。ブランドが誕生した93年は自分の生まれ年なので、なんとなく愛着があって」
「自分に合う形のキャップはわりと早い段階で見つけましたが、でも最近は、『なんかしっくりこない』みたいな違和感も楽しくて。めちゃくちゃオーバーサイズのニューエラを頭にのっけるとか、アジャスターをあえてマックスまで緩くして被ってみるとか。“なんでも着る精神”というか、ファッションって、やっぱりそういうのが楽しくないですか?」
「合わない違和感をあえて楽しんだり、一方で、デニムを自分にビタビタに合う1本に育てたり。どっちの楽しみもありますけど、いずれにしても、やるなら全力で楽しみたい。洋服に携わっている人間は、本気でその楽しさを伝えないとダメだと思うんです。SNSで映えるものを着たいとか、いいねがたくさんもらえそうだから着たいとか、最近はみんな似たり寄ったりの表現やスタイルになりがちですけど、僕はそういう風にはなりたくないし、この業界をそんな風にしちゃいけないと思っています」
3.〈HERMES〉のスカーフ
「5年前、原宿店の当時の店長から譲ってもらったスカーフです。白地に、好きな赤が入っているところがポイント。なんと言っても、自分の小汚い格好を、さらっとグレードアップしてくれる存在です」
「それに、汗っかきの自分には、冬にウールのマフラーを巻くより、断然シルクの保温性がちょうどよくて。夏も、日除けとして愛用しています」
「レジ袋が有料化されてからしばらく、風呂敷みたいに使ってエコバッグ代わりにしていたら、あるとき破れちゃいました。でも、逆にラッキーって思って(笑)。黄ばんで、穴が空いて、こんなボロボロのエルメスのスカーフなんて、なかなかないですから」
「『このブランドを身に付けてるからどうこう』って、そういうことはあまり思いたくないんですけど、これがエルメスじゃなかったら、ここまで気に入って使っていなかったと思います。破れてラッキーと思えるって謎ですけど、たぶんそれも、エルメスだからなんですよね」
Photos: Shintaro Yoshimatsu Composition&Text: Masahiro Kosaka[CORNELL]
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