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服好きたちの私物のなかでも、とくに思い入れの強い「人生のベストバイ」を教えてもらう連載。ひとつには絞りきれないって? なら、3つ教えてください!
人生のベストバイ、3つ教えて!
今回の服好きゲストは、1LDKで商品企画を担当する歌代祐太郎さん。
1.〈FRANK LEDER〉のウールカーディガン
「これを買った4、5年前は、フランクリーダーのことはほとんど知らなかったんです。当時はゴーシャ ラブチンスキーとか、そういうブランドが好きで、むしろ、どちらかというと得意じゃないタイプのブランドだった。でも、とにかく見た目に圧倒されました。パネルの切り替えデザインとか、かなりしっかり詰まったウールの質感とか。『勢いあるな』って思ったんです」
「『ヴィンテージファブリックエディション』っていう、パッケージ感にも惹かれました。シーズンごとのアソートみたいな企画で、もしフランクがこの生地を選んでなければ、僕がハマることもなかったんだろうな、とか。そういう出会いみたいな感覚もうれしくて」
「それまでは、ブランドイメージ先行で買い物をすることがほとんどで、そうやってモノ自体の魅力で買い物したのが、当時の自分にとってはすごく新しくて。そういう選択ができるようになって、よりファッションも楽しくなりました。スタイリングの面でも、こんなにアームホールが細くて丈が長いカーディガンなんて、それまで着たことなかったですし」
「1LDKに入る前は、服飾学校でデザインやパターンを学んでいたんです。だから、細かいディテールにも圧倒されました。たとえば脇腹の内側は袋縫いされています。普通はやらないですね……。こんなに肉厚な生地だし、工場さんにも絶対イヤがられます(笑) コストも掛かるし、着心地はむしろ悪くなってるくらいだと思う」
「でも、どうしても縫い代を見せたくなくて、この仕様でやりたかったんだろうな、って。あえてゴリゴリ縫って仕上げている感じがめちゃくちゃカッコいいし、ちょっとストリートなニオイを感じるというか。そんな風に捉えていたんです」
2.〈adidas × Gosha Rubchinskiy〉のスニーカー
「じつは、ゴーシャ ラブチンスキーとの出会いがきっかけで、僕は洋服を勉強しようと思ったんです。それまではカーハートやシュプリームしか着ないようなタイプだったんですけど、ミラノでのファーストコレクションを観て、衝撃を受けました。それまで知ってたファッションの世界観とはまるで違っていたし、現地の若いスケーターをモデルに起用していたり、『こういうブランドもランウェイとか歩けるんだ。カッケー!』って」
「当時は溶接工をしていて、ファッションやろうなんてまったく考えてなかったんです。一生工場で働いていくんだろうと思っていたくらい。でも、ゴーシャを知ってからは、コッチでは溶接工をしつつ、コッチにはゴーシャがいて、みたいな。必死にお金を貯めて、服飾学校に入りました。人生のターニングポイントでしたね」
「このアディダスとのコラボモデルは、『コパ』っていうスパイクをもとにしたものです。まだサッカー選手のズボンが短かった、ラモスなんかが現役だった頃からあるオーセンティックなモデル。僕もサッカーをやっていたので親近感もありつつ、でも、『こんなモデルを選ぶんだ……!』っていう意外性にやられて。思わずドーバーに並んじゃいました」
「もともと本気のサッカースパイクなのを、スエード使いや、シームレスな雰囲気とか、エンボス加工でのロゴの表現とか、薄いガムソールを履かせていたりとか、そうやってカジュアルに、でも匿名性高くデザインしてるのがめちゃくちゃカッコいいなと思います」
3.〈Comme des Garçons〉のスーツ
「晴れて専門学校に入って、コム デ ギャルソンに出会ったんです。ギャルソンのことも当時は知らなくて、でも、そもそもゴーシャは川久保 玲が目をつけてドーバーに入れたらしい、なんて聞いて、そこで繋がったというか。自分のなかで答え合わせもできた。ゴーシャって、ギャルソンみたいなブランドからもフィーチャーされる存在で、でも“あの感じ”なんだって。ゴーシャのこともさらに好きになったりして」
「そこから2年間は、ひたすらモード服を掘っていました。で、バスキアがギャルソンのランウェイを裸足で歩いたシーズンがあって、そのイメージにまたやられてしまいました。『僕もバスキアになりたい』って思って買ったのが、この古着のセットアップ(笑)。セットアップを買ったのも、それが初めてでした」
「ジャケットは、かなり位置が低めの2ボタンで、肩パッドもしっかり入っていて、ボリュームがトップに寄っています。それはギャルソンのデザインの特徴でもあると思うんですけど、違和感があって、でも当時の僕にとって、それがイコール特別感だったりしました」
「パンツは、クリース入りの2タック。とくに気に入っているのはふくらはぎのラインで、インポートのいわゆるオーセンティックなスラックスの場合、ここは膨らんで落ちるのが通常なんです。でも、このパンツは真っ直ぐに綺麗なラインを描いていて、それが日本人の体型にもしっくりくるんだと思います」
「セットアップではありますが、日常でよく着てきたのは圧倒的にパンツ単体です。それこそ、アディダス×ゴーシャのスニーカーとの合わせは、スタイリング的にも、自分のなかでの文脈的にもしっくりきて。デイリーな洋服でも、そういう高揚感って、やっぱり大事なんですよね」
Photos: Shintaro Yoshimatsu Composition&Text: Masahiro Kosaka[CORNELL]
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