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服好きたちの私物のなかでも、とくに思い入れの強い「人生のベストバイ」を教えてもらう連載。ひとつには絞りきれないって? なら、3つ教えてください!
人生のベストバイ、3つ教えて!
今回の服好きゲストは、スタイリストの佐藤弘樹さん。
1.〈Ernest W. Baker〉のウエスタンジャケット
「スタイリストアシスタントをはじめた20歳の頃、古着に目覚めて、なかでも70年代の洋服やスタイルが好きになりました。いまでこそトレンドのど真ん中ですが、その頃はフレアパンツをメンズが穿くことすら珍しいなか、僕はフレアパンツを何本も買うようになって、いまではすっかり自分のスタイルになっています」
「70年代当時のフレアパンツを着るとはいえ、スタイルとしてクラシカルになりたいわけではないので、そういうとき、アーネストダブルベイカーのジャケットを着ると、ものすごくバランスがいいんです。古着にハマりはじめた直後に出合ってから、とにかく好きなブランドになりました」
「たしか5年前に買ったジャケットで、それから毎年、つねに一軍にいます。今年ももちろんそうですね。ショートでコンパクトなボディですが、でも全体のサイズ感が小さいっていうわけでもなくて、長い袖やロングポイントの襟、余計なポケットをつけずシルエット重視のデザインにしているところとか、ソリッドさや品があります」
「仕事抜きに、こと自分の着る服に関していうと、いま軸にしている70年代のスタイルみたいに、世間のトレンドを気にせず、ただ自分が好きなものを変わらず着続けてきました。とはいえはじめは、ひとつ自分にハマるものが欲しかったというのもあるかもしれません。アシスタントの頃は、まず『覚えてもらう』っていうのが、すごく大事だったりしますから」
「こういう格好をしていると、撮影で何度も会う先輩方が、触れてくれたりするんですよね。『お、まだやってるね〜』とかって。このキャスケットもそうだし、あと、岩場のロケだろうと革靴を貫く、とかもそうだし。ネタ的にやってたところもありますけど、でもそういう経験を通して、自分の軸を持つっていうのが、いつもファッションをポジティブに捉えさせてくれています」
2.〈EYEVAN〉のクラウンパント
「いろいろ持っている眼鏡やサングラスですが、『毎日つけられるもの』を、ずっとぼんやり探していました。メタルフレームのものは一時期好きでよく買っていたんですけど、いつもつけているアクセサリーもすべてシルバーなので、そこに眼鏡まで合わせてしまうと、ちょっとやりすぎな感じがして。素直に、自然に、毎日掛けたいと思えるものがよかったんです」
「アイヴァンは、師匠の仕事でルックを手伝っていたブランドで、その頃から大好きでした。独立してからも、撮影用にアイウェアをリースしたいときは、大体アイヴァンを選んでいます。この『ルビン』は、新宿のお店にふらっと立ち寄ったときに見かけて、すぐに気に入りました」
「やわらかでシャープなクラウンパント型、先まで太めになっているテンプル、べっ甲まで主張しないけど同じブラウン系のクリアカラー、といった絶妙なバランスに惹かれました。ブランドならではの芯金の細工も、やっぱりカッコいいですよね。そのゴールドが、シルバーのアクセサリーとも合う気がします。いま、リングを金銀のコンビでつけるのが流行っていますが、これくらいの合わせなら、僕にもちょうどいいなって。こんなに自分に馴染むとは思っていませんでしたが、とにかく、買ってから本当に毎日つけている眼鏡です」
3.古着のロングコート
「アシスタント時代、師匠のブランドルックの撮影仕事で、年に2回ロンドンへ連れていってもらっていました。撮影予備日があったので、スムーズに撮影が終われば、丸一日はフリー。何回目かの出張から、『古着好きなんだよな? 行ってこいよ』って、時間をいただけるようになったんです。その最初のときに買ったのが、このコートでした」
「バカでかいスタイリストバッグを担いで、バイヤーばりに(当然、本職のバイヤーには比べられませんが)、いろいろな古着屋を回りました。朝イチに宿を出て、ちょっと離れたところまでひとりで電車に乗って行くだけでも、本当に楽しかったんですよね」
「そうして、ある古着屋で見つけたこのコートは、おそらく80年代のもの。その年代ならではの感じと、それでいて現行のブランドがつくっていてもおかしくないようなモダンさとが混在していて、そこにとにかくビビッときました。長い毛足も特徴で、その奥にチェックも見えるユニークな生地。裏地にも気品があります」
「こうした類のコートは当時すでに3着くらい持っていましたが、これは、そのなかで一線を画していたというか。アーネストダブルベイカーの話にもつながりますが、自分は結局、大きく枠を外れるより、自分の軸のなかでいろんな選択肢を持つ方が性に合っているんだと思います。このコートも、いつものフレアパンツにすんなり合わせられるけど、でもどこか目新しく見える。だから、きっとこれからも長く着るだろうと思います」
Photos: ITCHY Composition&Text: Masahiro Kosaka[CORNELL]
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