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時代を超えて愛され続ける “定番”アイテムには、完成されたデザインとしての魅力が詰まっている。ここでは、そんな永久定番名品のディテールから歴史までを深掘り。森林労働者向けのワークブーツとして誕生し、ヒップホップのアーティストに愛され、今年50周年を迎えたティンバーランドのイエローブーツを徹底解説。
| ティンバーランド / Timberland
1952年にネイサン・シュワルツがサウスボストンのアビントン・シュー・カンパニーを買収。1968年に「インジェクション モールディングテクノロジー」を確立し、1973年に世界初の完全防水レザーブーツを発表する。1978年に会社名をティンバーランドに改名。
1.ティンバーランドの
イエローブーツの歴史
山用のワークブーツとして誕生した
完全防水仕様のイエローブーツ
1973年に誕生し、今年で50周年を迎えたティンバーランドのイエローブーツ。9月22日には世界初のコンセプトストア「ティンバーランド ブティック トウキョウ」が代官山にオープン。90年代以来の一大ブームが巻き起こりそうなムードが、世界中のあちこちに漂っている。
ティンバーランドの創業者はネイサン・シュワーツ。1918年、16歳の頃からマサチューセッツ州ボストンで靴づくりを学び、1952年にサウスボストンにあったアビントン シュー カンパニーの株を2分の1取得。1955年にはすべての株を手に入れ、経営権を手にした。ネイサンはシドニーとハーマン、ふたりの息子を会社の経営に迎える。
ネイサンはアメリカ北東部、ニューイングランドの過酷なアウトドア環境で働く労働者に向けて、ブーツをつくっていた。息子のシドニーが加わってからは、その土地の人々の生活に欠かせない、防水でタフなブーツを生み出すために開発を進めた。
ふたりはブーツに使うヌバックにシリコンを染みこませて防水効果を高める、独自の防水レザーを開発した。1968年には液状の原料を金型に入れてソールを成型するとともに、アッパーの革に圧着する「インジェクション製法」を採用。防水革を使用しても縫い目から水が浸入してしまうという、手縫いのブーツの問題点を解決する。こうして世界初の完全防水レザーブーツの製造に成功した。
ウィートカラー(小麦の色)のヌバックレザー防水ブーツは、森林業者に向けて「ティンバーランド(森林地)」と名づけられ、1973年に発売される。厚いラバーラグソールで足を守り、森林のぬかるみを歩いても水が染みこまないタフなブーツは、ワーカーの間で大ヒット。その見た目から“イエローブーツ”と呼ばれるようになった。
▲1977年のティンバーランドのカタログでは、ボストンにあるアビントン シュー カンパニー時代からの工場の写真を表紙に使用している。
1978年に社名をティンバーランドへ
防水機能の新しい基準を確立したこの画期的なブーツのおかげで、会社は急成長。1978年には社名を「ティンバーランド」と改め、さらに飛躍することになっていく。当時、ワークブーツとして人気を博していたイエローブーツが、ファッションアイテムとして最初に脚光を浴びるのはイタリアだった。
1980年代初頭、イタリア・ミラノではアメリカ文化に影響された富裕層の若者たちのライフスタイルが注目を集めていた。イタリアを象徴する伝統的なスロウフードを否定し、アメリカのカルチャーであるファーストフードを好んだことから、彼らは“パニナリ”と呼ばれた(彼らがイタリアのサンドイッチ、パニーニを好み、ミラノのバー、アル パニーノに集まったことに由来する)。
“パニナリ”はプレッピー風のアメカジに、ヨーロッパのデザイナーブランドなどをミックスして着こなしていた。モンクレールのダウンジャケットにリーバイス®️やアルマーニのジーンズ、そして足もとにはティンバーランドのイエローブーツというスタイルもその典型のひとつ。イタリアでは『PANINARO(パニナロ/パニナリの男子を意味する)』という雑誌も発行されるほどの社会現象だった。
ティンバーランドはイエローブーツの後も1978年にボートシューズ、1988年にユーロハイカーツなど、名品シューズを生み出し、シューズブランドとしての地位を確立。グローバルに支持されるブランドに成長していく。
1980年代後半からヒップホップシーンへ
一方アメリカでは、1980年代後半にニューヨークの一大カルチャーとして急成長を遂げたヒップホップシーンで、イエローブーツがアディダスやナイキのスニーカーと並んで支持されるようになっていった。
1990年代に入ると西海外ではギャングスタ系ヒップホップが台頭し、プリズンスタイルと呼ばれるジーンズの腰ばきに、イエローブーツを合わせるファッションが大流行。また東海岸がスポーツやアウトドアブランドを好んだのに対して、西海岸ではディッキーズやベンデイビス、カーハートなど老舗ワークブランドのアイテムにティンバーランドのイエローブーツを合わせるのもステータスとして広まった。
▲Notorious B.I.G.ことビギーの太いジーンズにイエローブーツという象徴的スタイル。ヒップホップのレジェンドによってティンバーランドがファッションシーンに定着していく。ビギーはファッション感度が高かったことでも有名で、マフィア風スタイルやCOOGI(クージー)のニットをヒップホップシーンで流行させた。
西海岸の勢いに押されかけていた90年代のNYだが、ヒップホップ界にThe Notorious B.I.G(ノトーリアスビギー)、Wu-Tang Clan(ウータン・クラン)、Nas(ナズ)、2pac(2パック)、Das EFX(ダス・エフェックス/イエローブーツを履いた『REAL HIP HOP』のジャケットが有名)などスターラッパーが数多く誕生し、“イーストコースト ルネッサンス”が巻き起こる。彼らがイエローブーツを愛用したことで、ティンバーランドの人気はさらに上がった。
日本での流行はいつから?
1990年代は日本でも渋カジという独自のストリートファッションが生まれ(渋カジではティンバーランドの3アイラグボートシューズが大ブレイク)、それをきっかけに海外のストリートカルチャーも脚光を浴びて、巷にはバイカー、スケーターなどさまざまなスタイルが溢れた。ヒップホップファッションもティーンネイジャーを中心に浸透しはじめ、日本のヒップホップ・アーティストが海外のアーティストを真似してティンバーランドのイエローブーツを履き、その存在を広めていく。
90年代後半にはエミネムが登場し、さらにヒップホップファッション熱が日本でも高まった。2002年に映画『8Mile(エイトマイル)』でエミネムがイエローブーツを着用していたことで、ヒップホップファン以外にも広まっていくことに。
1998年からはコラボレーションに着手
ちなみにティンバーランドは1998年からコラボレーションにも着手。初コラボの相手はNYの有名なシューズショプ、David Z.(デビッド ジー)のオーナー、デビッド・ザケンだった。David Z.はKith(キース)のロニー・フィーグがキャリアをスタートさせたショップとして有名。
2000年代以降はコラボレーションが加速し、ステューシー、シュプリームといったストリートブランドはもちろん、ハイブランドともコラボレーションを展開。中でも特筆すべきは2015年のファレル・ウィリアムスのBee Line(ビーライン/Billionaire Boys Club[ビリオネア・ボーイズ・クラブ]のラジュグアリーライン)とのサステナブルな取り組みだ。
イエローブーツを愛用していたファレルは、環境保護活動に積極的なことでも知られる。そこで早くからサステナブルに取り組んでいたティンバーランドと、責任を持って調達された素材を使用するなど、環境に配慮されたアイテムを世に送り出し、その後も継続的にコラボレーションを展開していくことに。
2000年代以降はSDGsの取り組みも積極的に
2000年代以降はリサイクル素材を使うなどのSDGsな取り組みはもちろん、ティンバーランドは緑化活動も積極的に行っている。すでに1200万本弱を植林し、2025年までにさらに5000万本の木を植えることを公約。また2030年までには100%循環型デザインにすることを目標に掲げている。
50周年を迎え、新プロジェクトが開始
2023年にティンバーランドはブランド誕生50周年を迎え、次の50年、そしてその先の未来を見据えて「FUTURE 73(フューチャー 73)」というプロジェクトをスタートした。ストリートシーンを牽引する6名のデザイナーやアーティストを“Future Makers-未来を紡ぐ冒険者たち-”として招聘し、再構築されたイエローブーツを発表。
携わったデザイナーたちは、過去にイエローブーツと出会い、魅了された経験を持つ。彼らはそれぞれの思いを持って、イノベーティブなイエローブーツをつくりあげた。ティンバーランドのイエローブーツはさまざまなカルチャーのアイコンとして、これからもその実用性ととともにファッションシーンで生き続けていくに違いない。
2.ティンバーランドのイエローブーツの
ディテール解説
1973年に完全防水レザーブーツとして登場し快適な履き心地のために進化を続ける
ティンバーランドのブランドのもと、イエローブーツが誕生したのは1973年。初代のイエローブーツは歴史パートでも説明した通り、8インチと現在のものより高かった。1976年に6インチとなり、現在までそのデザインを継承している。
〈6インチ プレミアム ウォータープルーフ ブーツ – ウィート〉
ブーツ(ティンバーランド)¥28,600/VF ジャパン
1976年に現在のイエローブーツが誕生
6インチになったことでハイカットのスニーカーのような感覚で履けるようになったのも、ストリートでブレイクした要因。アーモンド型トウのシュッとしたフォルムが特徴だ。
タンが長めで、アンクル部分から飛び出しているのが6インチブーツの特徴。衝撃を吸収して促進力に変えてくれるアンチファティーグ機能の中敷きを採用している。ヒール外側部分にアイコンの“TREE”ロゴの型押しが。
ソールには耐久性に優れたサステナブルなナチュラルラバーを採用。管理されたゴム農園から原料を調達することで、熱帯雨林の不要な伐採を削減。また現地の労働者や地域社会の健全な生活の保護を促進している。
足をドライに保つ、ウォータープルーフレザーを使用。ソール部分に縫い目があるように見えるのは装飾で、実際には「インジェクション製法」によってアッパーとソールが圧着されている。
頑丈な真鍮アイレットとタスラン®レース(撚りをかけずに圧縮した空気をフィラメントに吹きかけて結束させる特殊加工)を採用。堅牢な4本ステッチは、シームシールド構造で水が入り混むのを防止。
履き口はパッド入りで、足首を心地よくホールドしてくれる。またインナーにはプリマロフト®インシュレーションが施されており、保温性に優れている。
3.定番カラーとシーズンカラーを展開
定番のブラック・ブラウンのほか
トレンド感のあるシーズンカラーにも注目
6インチ プレミアム ウォータープルーフ ブーツは、イエローのほかアイコン(定番)としてブラック、ブラウンを常時ラインナップしている。ファッション感度の高い、シーズンカラーも要チェック。
〈6インチ プレミアム ウォータープルーフ ブーツ – ブラック〉
ミニマルでモード感のあるオールブラック
ブラックはアッパーのレザーだけでなく、アイレットやソールまでブラックというのがスタイリッシュ。アーティストの中にはブラック愛用者も多く、トラッドやモードなスタイリングにもマッチする。
〈6インチ プレミアム ウォータープルーフ
ブーツ – ブラウン〉
タフでクラシックな印象のブラウン
ダークブラウンも定番色。アイレットやソールはモノトーンで、オーセンティックな渋いルックス。ワーク系のアイテムと相性がよく、ストリートスタイルを大人っぽくまとめたい人はこちら。
〈6インチ プレミアム ウォータープルーフ
ブーツ – ダークグリーン〉
モードなパウダーカラーをワントーンで
ここ数年、流行カラーとして熱いグリーン。モードのトレンドでもあるパウダーカラーでワントーンにしているのがハイプ。秋冬注目のホワイトパンツに合わせれば、モード感のあるコーディネートが完成。
〈6インチ プレミアム ウォータープルーフ
ブーツ – オレンジ〉
Y2Kなスタイリングの仕上げにおすすめ
アッパーはアイレットやシューレース、アンクルパッドもオレンジのワントーン。ソールだけナチュラルラバーのカラーを活かしたトーン・オン・トーンが上品だ。イエローブーツのような感覚で合わせやすく、イエローブーツよりもポップに仕上がるのが特徴。
4.最新コラボレーションをチェック!
50周年記念『フューチャー73』の最新作と
eye JUNYA WATANABE MANの
初コラボを紹介
別注やコラボも多いティンバーランドのイエローブーツ。ここでは50周年記念のプロジェクト『フューチャー73』から発売済みの2モデルと、eye JUNYA WATANABE MANの初コラボを取り上げる。
〈フューチャー73 6インチブーツ〉Edison Chen
中国の格言と虎の模様をデザインに
香港発のストリートブランド、Clot の創設者兼クリエイティブ ディレクターとして活躍するエディソン・チェン。「アーバン・ニンジャ」をコンセプトに、中国の伝統からインスピレーションを得てデザインに落とし込んだ。
[上]イエローブーツのフォルムはそのまま、アッパーを一周するように中国の格言を刺しゅうであしらい、フット部分とタンには虎柄を型押しプリント。アッパーとソールの間にはウェルトをあしらいステッチを入れている。
[下]ソールのヒール部分にはターコイズのスタッズをラッキーチャーム的にあしらっている。
〈フューチャー73 6インチブーツ〉Samuel Ross
イエローブーツをドレッシーにアレンジ
オフ-ホワイトでヴァージル アブローの右腕として経験を積んだ、イギリス人デザイナー、サミュエル・ロス。2015年にア コールド ウォールを立ち上げ、翌年には「LVMHプライズ」ファイナリストにも選出されている。ワークウエアをハイエンドな視点からモードに昇華するのが得意。このブーツもイエローブーツのフォルムはそのまま、シューレースをなくしてミニマル表情に。
[上]アイレットを1列だけ残して内側にファスナーをあしらった、着脱しやすいデザイン。アッパーをスムースレザーに、アンクルパッドをヌバックに反転している。
[下]透明なラグが付いたアウトソールにも、フューチャリスティックな雰囲気が。
〈eye JUNYA WATANABE MAN×Timberland
6インチブーツ〉
ラバートウキャップが印象的
イエローブーツが生誕50周年を迎えた記念すべき年に初コラボが実現。オールブラックモデルをベースに、アイレットをアンティーク調の真鍮に変え、トウとヒールにはプロテクターのようなラバーをあしらった。サステナブルな素材ならではの、紙吹雪を散らしたようなラバーがあたたかみを添えている。
[上]アンティーク調のアイレットの先端には、eyeのプリントロゴが。
[下]アッパーには“TREE”マークがない代わりに、ヒール部分のラバーにTimberlandの文字ととともに型押しで配されている。
問い合わせ先
VF ジャパン TEL:0120-953-844
コム デ ギャルソン TEL:03-3486-7611
5.みんなのティンバーランド
「イエローブーツ」コーディネート
おしゃれな人たちがイエローブーツをどんなコーディネートで履いているか? スナップとコメントでお届け!
イエローブーツの正解着こなし①
西川碧輝さん/
ビューティー&ユース セールスパーソン
「90’sのヒップホップシーンが好きで、アメリカのテレビドラマ『ウータン・クラン:アメリカン・サーガ』を見てRZAに影響され、昨年12月にイエローブーツを買いました。きょうはイエローブーツと古着のミリタリーパンツという王道の合わせ。ビューティー&ユースのニットはボトムと同系のベージュ系で統一して、ストリートに振りすぎないコーディネートに。オークリーのアイウエアでトレンド感を上げています」
「中学生の頃にティンバーランドのイエローブーツが流行していた記憶があります。そんな時代を超えて、今なおファッションとして取り入れたくなるってスゴイことですよね。トレンドに流されず、本当に長く愛用できるブーツなんだと思います。雨の日も気にせずガシガシ履けて、無骨で男らしいカッコよさがあって、すごくいいんですよね」
イエローブーツの正解着こなし②
橋本 奎さん/4K PR
「自分のスタイルのベースにはストリートカルチャーがあるので、カルチャーと密接な関係があるティンバーランドをとてもリスペクトしています。リーバイス®×ERLのダメージデニムと韓国の注目ブランド、カーキスのスウェットとイエローブーツのコーディネートは、古着のイエローTをチラ見せしているのがポイント。ステューシーのキャップの逆かぶりで90’sな空気感を演出してみました」
「ずっと愛用していたイエローブーツがボロボロになってしまたので、去年の秋に買い直しました。イエローブーツは常に持っていたい一足。コラボやシーズンカラーもいろいろありますが、やはりオリジナルのこの色がいちばん好きです」
Photos:Erina Takahashi(still) Stylist:Takumi Urisaka Composition & Text:Hisami Kotakemori
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