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時代を超えて愛され続ける “定番”アイテムには、完成されたデザインとしての魅力が詰まっている。ここでは、そんな永久定番名品のディテールから歴史までを深掘り。ワックスドクロスのアウターで伝統を築いたバブアーが、乗馬用ジャケットとして1980年に発売したビデイル。近年は別注やコラボの多いアウターナンバー1の呼び声も高い。その歴史や人気の秘密に迫る。
| バブアーとは?
1894年にイギリス北東部のサウスシールズで創業。カタログ通信販売で業績を上げ、ワックスドクロスのモーターサイクルジャケットやミリタリーアウターで発展していく。1960年代からカントリーウエアの開発に乗り出し、1980年に乗馬用ジャケットとして「ビデイル」を発売する。
バブアーのビデイルの歴史
乗馬用ジャケットとして誕生し
デイリーな防寒着としてブレイク
ビデイルが誕生したのは1980年だが、バブアーは2019年に125周年を迎えた英国の老舗ブランドだ。その歴史は1894年にイギリス北東部のサウスシールズで、ジョン・バブアーが「J. Barbour & Sons(ジョン バブアー&サンズ)」という店舗をオープンしたのが始まり。
| 1900年代〜10年代
サウスシールズは北海に面した港町で、水夫、漁師、港湾労働者が多かった。ジョンは厳しい寒さや荒波のもとで働く彼らのために、高密度コットンクロスにワックスを染みこませたアウターウエアを開発する。撥水性と防風性を備えたワックスドクロスのアウターは、サウスシールズの労働者にまたたく間に広まった。
20世紀に入ると息子のマルコム・バブアーが経営を引き継ぐ。マルコムは海外への市場拡大を視野に入れ、1908年に通信販売カタログを作成した。通信販売は成功を収め、1917年にはバブアーのビジネスの75%を占めるまでに成長。チリ、南アフリカ、香港など遠い異国からの注文も入り、バブアーの名前が世界に広まっていった。
| 1920年代〜30年代
3代目として1928年に経営を引き継いだマルコムの息子、ダンカン・バブアーは、当時の成長産業だったモーターサイクルに夢中だった。ダンカンは1936年にバイク用アウターとしてワックスドクロスの「インターナショナル スーツ」を世に送り出す。当時のイギリスではバイクのトライアルレースの世界選手権が盛んに開催され、このスーツがバイカーの間でブレイク。英国国際チームもバブアーのスーツを着用するようになっていく。
また1930年代は撥水・防風性を備えたバブアーのワックスドジャケットが、英国軍などの目にも留まり、ミリタリーウエアやユニフォームなども手がけることに。第二次大戦時には、英国潜水艦ウルスラ号の艦長だったジョージ・フィリップス大佐がワックスドクロスの軍服をオーダー。このツナギのようなモデルは「ウルスラ・スーツ」と呼ばれ、潜水艦のユニフォームとして採用された。
| 1960年代〜80年代
こうしてバブアーは機能的な英国アウターとしての地位を確固たるものにしていった。ちなみに1964年に東ドイツで開催された耐久レース「ISDT(インターナショナル シックス デイズ ドライアル)」では、アメリカ代表として出場した俳優のスティーブ・マックイーンが1947年に誕生した「インターナショナル ジャケット」を着用。これがきっかけでオールド バブアーを代表するモデルとして、今に語り継がれることになったのは有名なエピソードだ。
1964年からは4代目のジョン・バブアーが経営を引き継ぎ、経営拡大のために英国貴族階級がたしなむカントリースポーツ向けのアウターの開発に取り組んだ。ジョンは1968年に亡くなるが、妻のマーガレットが意志を受け継ぎ、1980年に軽量なショートライディングジャケット、「ビデイル」を発売する。1983年には「ビューフォート」も発表し、立て続けにヒットを飛ばす。
カントリーウエアに着手して以来、ワックスドコットンの機能性にセージグリーン×チェック裏地の品格のあるデザインが王室に認められ、バブアーはロイヤルワラント(王室ご用達の認証)を獲得する。1974年にエジンバラ公フィリップ殿下から、1982年にはエリザベス女王、1987年にもチャールズ皇太子(当時)と3つのロイヤルワラントを授かり、英国を代表するブランドに。
ビデイルは1980年代初頭の日本でも、アウトドアショップなどで販売されていた。当時の日本はアイビーやアメカジの流れが強く、紺ブレ×シエラデザインのマウンテンパーカというスタイルが流行していたが、英国好きのお洒落な大人たちはツイードジャケットにバブアーのビデイルを着用した。
| 1990年代〜2010年代
1994年にバブアーは創立100周年を迎え、2001年にはビデイルの生みの親、マーガレット・バブアーが栄誉者として大英帝国勲章を授かる。その後もバブアーは機能とデザイン、両方の側面から評価されグローバルに成長し続ける。
2007年6月に開催されたイギリスを代表する音楽フェス「グラストンベリー・フェスティバル」では、大雨にも見舞われる中、アークティック・モンキーズをはじめ、多くの出演アーティストがバブアーを着用。ファッション以外のシーンでもバブアーは存在感を増していく。
2010年代にピッティ・ウォモなど海外のファッション展示会のスナップがメディアを賑わせるようになると、海外でのバブアー人気の高さが日本にもダイレクトに伝わるように。トラッド回帰のトレンドと相まって、ブランドやセレクトショップのコラボや別注が盛んになっていく。若者の間では「バブアー女子」という言葉もささやかれ、古着のバブアー熱も高まっている。「バブアーの御三家(ビデイル・ビューフォート・スペイを示す)」と言われるロングセラーモデルの中でも、不動の人気ナンバー1はビデイルだ。
バブアーのビデイルのディテール解説
ライディングジャケットならではの
機能的ディテールがビデイルの魅力
ワックスドコットンのボディにコーデュロイ襟とチェック裏地がアイコンの乗馬用ジャケット。イギリス中央にあるヨークシャー・デイルズ国立公園への玄関口にある田舎町、Bedale(ビデイル)にちなんで名づけられた。
〈SAGE〉
誰もが思い描くビデイルの王道カラー、セージグリーン×ブラウンコーデュロイ襟。1989年から1990年にかけて、胸フラップポケットをハンドウォーマーポケットに変えてからは大きな変更点はない。
馬に乗ったときに裾さばきがよいように、サイドベンツになっている。スクーターなどに乗るときにも、このディテールはありがたい。
襟元にロイヤルワラント付きのバブアーネーム、その下にBEDALEのモデル名が。※現在はロイヤルワラントは2つになっている。
[上]ビデイルには防風・防寒のためのディテールが満載だ。ライニング(別売り)を取り付けるためのボタンタブがネックに(内側には取り付け用のジッパーも)。
[下]襟後ろにはフード(別売り)を取り付けるための、脱着用ボタンがあしらわれている。
襟を立ててチンストラップのボタンを留めると、このようなスタンドカラーになり、襟元から侵入する風をシャットアウトできる。
バブアーを象徴する大振りのリング型2WAYジッパー。リング型のプルは手袋をしたままでもジッパーの開閉がしやすいようこの形状に。
[上]ハンドウォーマーポケットの中には起毛裏地があしらわれ、あたたかい。
[下]腰には大きなベローズポケット(マチ付きポケット)。底には水抜き用の穴が開いている。
[上]袖口はインナーカフ仕様でリブ袖が風をシャットアウトしてあたたかい。
[下]サイドベンツ部分はボタン留めされていて、普段はボタンを留めて、スクーターなどに乗るときは開けてと調整できる。
バブアーのジャケットの裏にはタータンチェックが採用されている。ビデイルのセージの裏地はグリーン系のAncient(エンシェント)パターン。
ビデイルのフィットのバリエーション
インラインにはスリムフィットと
オーバーサイズフィットが存在する
現在は欧米だけでなく、アジアを含め全国55か国以上で販売されているビデイル。日本からのリクエストで、より日本人のスタイルに合うようにシルエットを調整したスリムフィット〈SL BEDALE〉が2016年に登場した。ビッグシルエットブームの際にはオーバーサイズフィット〈OS BEDALE〉も誕生。現在はどちらもグローバルで展開されている。
〈SL BEDALE〉
ジャケット¥59,400/バブアー パートナーズ ジャパン
デザインやディテールはすべてレギュラーのビデイルと同様で、シルエットだけを細くしたスリムフィットビデイル。
〈OS BEDALE〉
見るからに大きめなオーバーサイズフィットビデイル。こちらはディテールのいくつかが、レギュラーフィットと異なる。
[上]ネックループ部分に、裏地を取り付けるためのボタンタブがない。
[下]袖口もインナーカフがなく、袖口の空き具合をドットボタンで調整する仕様に。
| サイズ比較
スリムフィットとレギュラー
同じサイズ38のスリムフィット(上)とレギュラーフィット(下)を重ねてみた。レギュラーフィットのほうが身幅が細く、着丈は長め。袖も長めと、単純に各所を均一にサイズダウンするのでなく、ベストなシルエットに見えるように微調整している。
オーバーサイズフィットとレギュラー
同じくサイズ38のレギュラーフィット(上)とオーバーサイズフィット(下)を重ねて比較。こちらは着丈や袖丈は同じで、どちらも幅が広くなっている。スリム同様に、バランスで各所を調整している点が秀逸だ。
ビデイルのカラーバリエーション
セージとネイビーのオリジナルカラー
以外にもカラバリをラインナップ
1980年の発売当初はセージとネイビーの2色展開だったが、1995年にラスティック(赤茶色)とブラックが追加され、現在はバーク(茶色)を加えた全5色を展開する。
〈NAVY〉
セージと並ぶオリジナルカラーのネイビー。コーデュロイ襟はボディと同色のネイビーで、裏地のタータンチェックはDress(ドレス)。アメリカントラッド系のスタイルと好相性。リジッドデニムとのワントーンもスタイリッシュにまとまる。
〈BLACK〉
1995年に追加されたブラック。コーデュロイ襟はブラックで、裏地のタータンチェックはModern(モダン)。モード系よりコンテンポラリーなファッションと親和性が高い。
ビデイルの2023最新別注&コラボを
チェック!
ノンワックスドクロスを使用して
初心者にも着やすくアップデート
ワックスドコットンがオリジナルバブアーの魅力だが、ケアが必須なのも事実。セレクトショップのコラボや別注では、ノンワックス素材での展開がメインだから、初心者でも手に取りやすい。
1.Barbour × BEAMS PLUS
ノンワックス「2レイヤー」素材を使用
毎シーズン、ビデイルコラボを展開するビームス プラスは、大好評の「2レイヤー」で別注。この新素材は、撥水・透湿・防風機能を備えているのが特徴。縫製にもシームテープを用いて、止水仕様で仕上げている。ビデイルの基本ディテールは踏襲しつつ、ジャケットの上から羽織ることを想定して着丈を2㎝長めにしている。
2.Barbour × BEAUTY&YOUTH
テック素材とブラックでモダンにアレンジ
バブアーのブラックカラーコラボに定評のあるビューティー&ユース。今年はビデイルをナイロン100%のグログラン素材表地とブラウン系の千鳥格子裏地で別注。内側にポリウレタンフィルムを張ることで、透湿撥水性をプラスしているのもポイントだ。衿のコーデュロイも細畝を選ぶなど、随所にモダンなアレンジが施されている。ちなみに今年はベージュのカラーバリエーションもラインナップ。
3.Barbour × FREAK’S STORE
ノンオイル&ビッグシルエットでカジュアルに
べたつき感のないピーチスキンで別注したビッグシルエットのビデイル。袖口のドットボタン仕様など、オーバーサイズフィットのビデイルを踏襲している。色味もダークトーンのセージグリーンでブリティッシュ感をキープ。茶色のコーデュロイ襟にAncientタータンチェックで、オリジナルに近いルックス。クラシックな雰囲気も楽しみたい人におすすめ。
4.Barbour × ADAM ET ROPÉ
人気のリバーシブル仕様が今年はビデイルで
ここ数年、バブアーをリバーシブル仕様で別注し、ヒットを飛ばしているアダム エ ロペ。今年はビデイルをセレクト。表面は撥水・防風性を備えたマット2レイヤーポリエステルコットン素材。デザイン的には襟のチンウォーマーや袖のインナーリブをなくして、よりミニマルなルックスに。
リバーシブル面はバブアーのハウスチェックのひとつ、ブラウン系のタータンチェックMuted(ミューテッド)。衿部分のコーデュロイがアクセントになり、違った雰囲気のチェックアウターとして楽しめる。
5.Barbour × JOURNAL STANDARD
オールドビデイルにクレイジーパターン裏地
ジャーナル スタンダードは今季、1980年当時の両胸フラップポケットスタイルのオールドビデイルで復刻別注した。ビジネススタイルのコートとしても活用できるように、着丈も長くしている。カラーも今のファッションに合せやすいグレーをピックアップすることで、幅広いスタイルに合せられる一着に。
クレイジーパターンの別注を多く展開する今季のジャーナル スタンダード。ビデイルの裏地もハウスチェック3種類の組み合わせになっている。見えない部分に遊び心を添えることで、脱いだときにもスタイリッシュに見えるのがこだわり。
問い合わせ先
ジャーナルスタンダード 表参道 TEL:03-6434-1097
ジュンカスタマーセンター TEL:0120-298-133
バブアー パートナーズ ジャパン TEL:03-6380-9170
ビューティ&ユース ユナイテッドアローズ 丸の内店 TEL:03-6212-1500
ビームス公式オンラインショップ www.beams.co.jp
フリークス ストア渋谷 TEL:03-6415-7728
みんなのバブアーの
ビデイルコーディネート
最後は人気セレクトショップのスタッフなどバブアーのビデイル愛用者による正解着こなしをお届け。オシャレな人はどんなモデルを選んで、どう着こなしているか。ぜひチェックを!
ビデイルの正解着こなし①
佐藤亮介さん
/ビームス プラス 原宿 ショップスタッフ
「昨年、ビームス プラス別注のビデイルを買いました。セージグリーンが王道カラーですが、モダンな印象のブラックをチョイス。シャンブレーシャツとデニムパンツにラッセルモカシンズ×ビームス プラスの編み上げブーツというアメリカ寄りのワークスタイルに、アーガイルのカーディガンと英国ムードのクラシックなアウターを羽織ることでハイブリッドにコーディネートしています」
「おしゃれ好きなら誰もが知っているバブアー。流行に左右されない伝統的なものづくりのスタイルにも惹かれます。イギリス王室にも認められた”ロイヤルワラント”の称号も心惹かれる部分。このビデイルは2層構造による耐水性を高めた素材で、着やすいところがいいんですよね。ゆったりしたクラシックフィットだから、厚手のインナーを着てもストレスフリーです」
ビデイルの正解着こなし②
田夛英照さん/アダム エ ロペ プレス
「ミドル丈のアウターを持っていなかったので、バブアーのビデイルに興味を持ちました。都市生活で着やすいノンワックスの2レイヤー素材という点、さらにチェック裏地でも着られる2WAY仕様に惹かれて購入。ブルックス ブラザーズ フォー ワイルド ライフ テイラーのBDシャツと黒のスラックスのシンプルなコーディネートも、このビデイルを羽織ると上品なムードが添えられます。足元はレザーシューズですが、クロッグタイプにして抜け感を入れています」
「イギリスで100年以上続く由緒あるバブアー。根底には英国紳士のクラシックムードが流れているのがいちばんの魅力だと思います。時代や世代を超えた愛されるものが永久定番だと思うので、40年選手のビデイルはまさにそれ。オリジナルもよいですが、別注はモダンにアレンジされていて、そこがまた響くポイントになっています」
Photos:Erina Takahashi(still) Stylist:Takumi Urisaka Composition & Text:Hisami Kotakemori
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