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時代を超えて愛され続ける “定番”アイテムには、完成されたデザインとしての魅力が詰まっている。ここでは、そんな永久定番名品のディテールから歴史までを深掘り。創業から100年以上がたった今も、メイド・イン・フランスを貫くパラブーツは、1960~70年代にはアウトドア靴の製造で名を上げた。その後の倒産の危機を乗り越えてファッションシーンに復活し、シャンボードを生み出したのだった!
パラブーツの「シャンボード」
1908年にフランス南東部でレミー・アレクシス・リシャールが靴工房をスタート。1926年に渡米してラバーブーツの技術を母国・フランスに持ち帰ったレミーは、自社のすべての靴にラバーソールを使用し始める。1927年にパラブーツというブランド名を商標登録。「シャンボード」は1987年に誕生した。
パラブーツ「シャンボード」の歴史
ラバーソールをいち早く取り入れ
ハイブリッドシューズの先駆者に
19世紀後半、フランス南東部アルプス山脈の麓の村イゾーで生まれたレミー・アレクシス・リシャールは、靴用の革の裁断師としてキャリアをスタートする。やがて自分がデザインした靴を売るようになり、1908年には従業員を雇って靴の工房を開設する。1910年にジュエリット・ポンヴェールとの結婚を機に、リシャール・ポンヴェール社を設立。
レザーソールのおしゃれ靴と労働者向けの編み上げ靴、両方を手がけるため、1920年にイゾーに最初の工場を購入した。1922年に労働者向けの編み上げ靴をガリビエ(Galbier)ブランドとして商標登録する。
旅好きのレミーはパリ、ロンドン、アムステルダムなどのトレードショー(展示会)にも出かけるようになり、1926年にはアメリカを訪れる。改革にも積極的だったレミーは、アメリカ人が履いていたラバーブーツに注目し、ラテックスやゴムと呼ばれる新しい素材に可能性を見いだす。
しかしフランスではハイラム・ハッチンソン(現在のハッチンソン インダストリーズの創始者。以後タイヤ産業に転身)が1853年にラバーブーツに着手しており、その分野で第一人者になれないことを理解していたレミーは、革製ソールの代わりにラバーを使用することを思いつく。
試行錯誤の末、鋼鉄の型で加硫する方法を可能にし、以後リシャール・ポンヴェール社のすべてのワークブーツには、ラバーソールが使用されるようになる。
※加硫=生ゴムに硫黄を混ぜ加熱・加圧し弾性を持たすこと
ラバーソールの原料となるアマゾン産のラテックスをブラジルのパラ(Para)港から輸入すること、そしてアメリカで見たブーツが着想源だったことからパラブーツというブランド名を考え、1927年に商標登録する。
1937年に20歳になったレミーの息子、ジュリアン・リシェールが後継者として入社。まもなく第二次世界大戦が勃発するが、原料不足などの苦難を乗り越え、戦後工場を再稼働する。しかし戦争によって発展した化学技術によって、プラスチックソールの安価な靴をつくる工場が次々とつくられ、伝統的な製法を守る靴工場が閉鎖に追いやられるという状況に。
決断を迫られたジュリアンは安価にできる「ソールを貼る」製法を取り入れず、リシャール・ポンヴェール社の伝統の製法、つまりグッドイヤー製法やノルヴェージャン製法によるソールを縫いつける靴づくりを貫く道を選ぶ。自然や狩猟、釣りを愛していたジュリアンは、ヘビーデューティに耐える靴にこだわったのだ。
その結果、丈夫で長く履き続けることができる靴は、農業者、配達人、工員、職人などさまざまな職業の玄人に支持され、会社は存続。ジュリアンは技術者向けの編み上げ靴の製造に着手する。さらに建築家や測量士などの技術者向けに、軽いシューズとしてチロリアンシューズに着想した「モジーン(MORZINE)」を考案。1945年にはワーク向けのモジーンを洗練させた「ミカエル(MICHAEL)」を発売する。
1960年代になるとジュリアンは、当時流行し始めたスポーツ分野にも積極的に参入していく。ガリビエをスキーや登山用のシューズブランドとしてリブランディングすると、アルピニストたちに支持され、登山靴のリーダー的存在に。アメリカ、イタリア、日本への輸出もスタートする。
1970年にはパラシュート競技の世界チャンピオンでもあるフランスチームのために靴を製作。1971年にはポール=エミール・ヴィクトル(フランスの民俗学者・探検家)の南極アデリーランド探検のために特殊なブーツをつくるなど、さまざまスペシャリストに究極のシューズを提供した。
ガリビエが好調でリシャール・ポンヴェール社は順風満帆に見えた。しかし急激な経営拡大に伴って負債を抱える中、1973年にオイルショックが起こると会社は経営難に。ジュリアンは経営の合理化のため国際企業に勤めていた息子、ミッシェル・リシェールを呼び寄せる。1979年には経営のすべてをミッシェルに委ね、改革を推進するが1983年の終わり頃には、破産の申し立てをすることに。
組合と商事裁判所は伝統を貫き、品質の高い靴をつくるリシャール・ポンヴェール社の未来に可能性を見いだし、ミッシェルに経営継続を申し渡す。ミッシェルは当時、利益を上げていたイタリアの靴製造業者の経営方法を参考にしたいと思い、イタリアに渡る。当時イタリアで「時代を超越した真のアイコンブランド」の輸入・販売業者として注目を集めていたWP lavori in corso(WP ラヴォッリ イン コルソ/1982年創業)と交渉する機会を得、同社は1984年からパラブーツの輸入を開始。
1980年代初頭、イタリアではニュートラ(ヨーロッパのテイストを入れたトラッドファッション)ブームが一段落し、スタイリッシュなカジュアル(当時イタリアンカジュアルとして世界を席巻)へとファッションのトレンドが変わり、シューズも“薄いソールのモカシン”から“厚底靴”に熱い視線が注がれた。WP lavori in corsoが「ミカエル」を販売すると、スタイリストたちがピックアップして大ヒット。経営も安定する。
この成果もあって1980年代にはエルメスが「ミカエル」とのコラボレーションモデルを発売し、パラブーツはステータスを上げた。1980年代後半に、B.C.B.G.(ベーセーベージェー/bon chic bon genreの略称でフランスの上流階級の子息子女のシックな着こなし。ヌーベルアイビーともいわれた)がファッションシーンで注目されると、「ミカエル」もその1アイテムにラインナップされた。
モカシンのイメージが定着したパラブーツは、1987年に「シャンボード」を発売。同年、パリ、リヨン、ニースに店舗をオープンし、高級靴として返り咲く。2000年代に経営は4代目に引き継がれ、「メイド・イン・フランス」と「手縫いの靴」を武器に世界に販売網を広げる。日本でも2001年、青山骨董通りにブティックが開店した。
日本では1990年代からセレクトショップでの展開がスタート。ポスト渋カジとして台頭したフレンチアイビーの流行と呼応して、パラブーツにも注目が集まるように。「シャンボード」の本格的ブレイクは2010年代に入ってから。ファッション業界の要人が愛用して、メディアへの登場回数が増え、アッパーの織りネームをなくした「ドレッシーなシャンボード」(通称「ドレシャン」)が登場するなど、話題の絶えない人気靴に。
近年はコラボレーションや別注を通して、若い世代にもファン層を広げている。ドレススタイルのカジュアル化が進む中、カジュアルレザーシューズが再び脚光を浴びているが、「シャンボード」はそんなハイブリッドシューズの先駆けなのだ。
パラブーツ「シャンボード」のディテール
リスワクシーレザーと
ノルヴェージャン製法でつくられる
Uチップシューズの傑作
メイド・イン・フランスで手縫いの製法を貫くことはもちろん、自社でラバーソールを製造するメーカーとしても世界唯一のパラブーツ。ブランドを代表するUチップシューズ「シャンボード」はアウトドアシューズに採用されるノルヴェージャン製法で、手間をかけてつくられる。伝統の職人芸を守り続けるパラブーツは、フランス政府から無形文化財企業(Entreprise du Patrimoine Vivant)の登録を受けているのだ。
Uチップのステッチもしっかりと太めのステッチで入っているのが「シャンボード」の特徴。
ノルヴェージャン製法の特徴でもあるコバの太いステッチ。アッパーにはパラブーツ独自の製法でつくられるリスワクシーレザー(ワックスをたっぷりと染み込ませた撥水性のあるカーフレザー)を使用。クラシックなアウトドアシューズのノウハウを生かしつつ、ドレッシーなルックスに仕上げるのがパラブーツの技なのだ。
ノルヴェージャン製法は、雪による浸水などを防ぐためにノルウェーなど北欧で発達した靴の製法。使用するパーツや縫製など工程も多く、職人の技術が要される。
インソールにはブランドのロゴとともに「Cousu Norvegien Made in France(ノルヴェージャン製法で縫われたフランス製)」の文言が。
天然ラテックスを100%使用し、独自の合成方法でつくられるオリジナルソール。何種類かある中で、「シャンボード」にはソールとヒールが分かれている「パラテックスソール」が採用されている。「RP」という文字はリシャール・ポンヴェール(RICHARD PONTVERT)社の頭文字。
パラブーツ「シャンボード」のカラーバリエーション
「シャンボード」の定番カラーはNOIR(ノワール/黒)、MARRON(マロン/茶色)、CAFÉ(カフェ/こげ茶色)の3色。このほかにシーズンカラーやヌバックなどの素材違いが展開される。
明るくて赤みのある独特のブラウン。今季のトレンドカラー、アーシーカラーと好相性。トラッド感のある色味だから、ブレザーにスラックスのようなアイビースタイルにもおすすめ。
オーセンティックなダークブラウンは、大人っぽさが魅力。グレンチェックなどを取り入れた注目の英国調スタイルにマッチする。バブアーやドリズラーなど王道定番アウターの足もとにもフィット。
NUBUCK GRINGO(ヌバックグリンゴ/こげ茶色のオイルドヌバック)は、定番で展開しているが取り扱いの少ない素材。革の銀面(表皮)を起毛したヌバックにオイルを染み込ませることで、独特の表情に。GRINGOはフランス語で英米人を意味する言葉。ワークブーツ感覚でコーディネートしたい。
最新コラボのパラブーツ「シャンボード」をチェック!
大人っぽいアレンジに心が動く!
セレクトショップの別注だけでなく、ファッションブランドとのコラボレーションも近年増えている。カラーを変えるだけでなく、素材やディテールをアレンジするパターンも多く、鮮度の高いシューズに。
Paraboot × LANVIN COLLECTION
ガラス加工レザーでフォーマルなルックス
パラテックスソールなどオリジナルのスペックはそのまま、アッパーをグロスレザー(ガラス加工の光沢レザー)に。インソールとライニングはダークグレーでカジュアル感を抑え、エレガントなシューズに仕上げた。ドレッシーなスーツからモードカジュアルまで、着こなしにモダンな印象を添えてくれる。モードに履ける「シャンボード」として要チェック。
Paraboot × BEAUTY&YOUTH
ステッチまでネイビーのワントーンに
昨年のCHIMEY(シメイ)に続く、ビューティ&ユースらしいネイビー別注。アッパーのレザーはもちろん、通常は白で目立つソールパートのステッチもネイビーに変更して、統一感のあるルックスに。黒に近いダークネイビーでワントーンだから、かっちり感のあるスタイルにもマッチする。カジュアルな着こなしを大人っぽく格上げしてくれる頼れる相棒。
問い合わせ先
パラブーツ 青山店
TEL:03-5766-6688
ビューティ&ユース 丸の内店
TEL:03-6212-1500
ランバン コレクション 表参道店
TEL:03-3486-5858
みんなのパラブーツ「シャンボード」
コーディネート
田中駿也さん/ビューティ&ユース プレス
「この『シャンボード』は別注カラーのネイビーに心が動きました! もともとネイビー好きですが、ネイビーの靴って意外と少ないんです。しかも鮮度の下がらないパラブーツの永久定番ということで食指が動きました! きょうは『シャンボード』のネイビーが目立つように、スティーブン アランの白パンツとコーディネート。トップスはビューティ&ユースのニットポロシャツでクリーンにまとめました」
「実際に履いてみると履き心地もよくて、ファンが多い理由がわかりました。ほかの永久定番と同様に、自分の生活の一部になりそうです」
林 陽亮さん/ソフ 阪急メンズ東京 スタッフ
「父から譲り受けた『シャンボード』をずっと愛用していました。癖のない王道のUチップシューズはどんな服にも合わせやすいとわかっていたので、ソフネットのコラボが今年7月に出たタイミングで、迷わず購入。ソフネットのロングジャケットのセットアップとコラボ『シャンボード』のコーディネートは、秋らしいベージュの色味を黒のチェックシャツと『シャンボード』で締めました。クロップド丈のパンツも永久定番シューズを合わせると、オーセンティックなムードが添えられて、大人っぽく見えます」
「ソフネットのコラボはアッパーのレザーをカウレザーに変更して、ミッドソールを5mmほど厚く、アウトソールはMARCHE SOLE(マルシェソール/ヒールとソール一体型で『ミカエル』などに採用)に変更と、さりげないアレンジが魅力です。父のように、僕もこの『シャンボード』を大事に履き続けたいと思います」
Photos:Erina Takahashi(still) Stylist:Takumi Urisaka Composition & Text:Hisami Kotakemori
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僕らの永久定番名品ファイル