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時代を超えて愛され続ける “定番”アイテムには、完成されたデザインとしての魅力が詰まっている。ここでは、そんな永久定番名品のディテールから歴史までを深掘り。タフなデジタルウオッチとして、世界中にファンを持つG-SHOCK。この時計がどれだけエポックメイキングだったか? 開発秘話から、アメリカで火がつき逆輸入的に日本でヒットした、興味深いエピソードまでをお届け!
カシオのG-SHOCK
1946年に東京都三鷹市に創業した樫尾製作所が、1957年にカシオ計算機株式会社に発展。1970年代に電卓で業界トップとなり、その技術を生かして時計業界へ進出。1974年にオートカレンダー搭載の電子腕時計「カシオトロン QW02」で脚光を浴び、1983年に耐衝撃腕時計G-SHOCK「DW-5000C」を開発、発表した。
カシオ「G-SHOCK」の歴史
落下実験からG-SHOCKと命名された
「落としても壊れない丈夫な時計」
1983年に誕生して、来年40周年を迎えるG-SHOCK。2022年3月末時点で世界累計1億4000万セールスを突破し、今なお新作や新シリーズ、コラボなどが発売され、熱狂的なコレクターも多い。35周年記念の際には1本770万円(税別)の金無垢G-SHOCKが35本限定で発売されたが、40周年では何が発売されるのか? このワクワク感もロングセラーの重要な要素になっている。
G-SHOCKは1983年にカシオ計算機(以下、カシオ)から発売された。その社名からもわかるとおり、カシオは1950年代から計算機分野で頭角を現した。革新的技術で1960年代に電子式卓上計算機(電卓)で成功し、海外に進出。1970年にはニューヨークに現地販売会社「カシオインク」を設立していた。卓上サイズだった電卓は小型化されて個人が使用するアイテムとなり、1972年には世界初のパーソナル電卓「カシオミニ」で大ヒットを記録する。
電卓で業界トップとなったカシオは当時、時計が機械式からクオーツ式に切り替わる技術変革期にあったことを見逃さなかった。クオーツ式のデジタル時計なら、カシオが培った技術を最大限に生かせる。1974年に世界初のオートカレンダー(自動的に日付を修正する機能)を搭載したデジタルウオッチ「カシオトロン QW02」で、時計業界に参入した。
G-SHOCKの開発者として知られる伊部菊雄は1976年に入社。時計の設計部に配属される。当時はデジタル時計の薄型化がミッションだった。そんなある日、伊部は父親から贈られ大切にしていた腕時計を会社で落とし、時計がバラバラに壊れてしまう。そして勤務していた羽村技術センターの前の道路工事現場で働く人たちが、腕時計をつけていないことに気づいた。
時計は精密機械だから、工事現場でつけていたら壊れてしまう。そんな人たちのための「頑丈な時計」がひらめいた。伊部は月に一度の「新技術・新商品提案書」に『落としても壊れない丈夫な時計』とだけ書いて提出した。
本来であれば構造案や開発のスケジュールを詳細に記す必要があったが、カシオには「まずはチャレンジしてみろ」という、新しい提案を発しやすい土壌があった。「世の中にないものを創造できたら面白い」という社風によって、この”常識を覆す”発想が受け入れられ、開発がスタートすることに。
伊部は「メタルケースにゴムを貼りつければ可能だろう」と軽く考えていたが、地上10m、3階の窓から落とす実験を始めると、時計は粉々に壊れ、事態はそれほど簡単でないことに気づく。ソフトボール大のゴムで保護してやっと壊れないということがわかったからだ。
試行錯誤の結果、衝撃を吸収するやわらかい素材と硬い材質のフレームを組み合わせて大事な“時計のエンジン”部分を保護する「5段階衝撃吸収構造」にたどり着く。時計のサイズを現在のG-SHOCKの大きさにすることはかなったが、その後の落下実験では電子部品がひとつだけ壊れるという難問が立ちはだかった。この問題を解決するために、かなりの時間を費やすことに…。
プロジェクトに携わり、実験の様子を見ていたデザイナーが時計を落下させる様子からGravity(重力)のGを取ってこの商品を「G-SHOCK」と名づける。商品開発から1年が過ぎ、開発期限直前に、“衝撃を吸収した後、伝えにくくする=部品が壊れない”「点接触のモジュール(時計の心臓部)中空構造」という独自のケース構造を着想。無事商品化にこぎつけた。
1983年4月に「落としても壊れない」革新的な時計、G-SHOCKは発売された。奇遇にも時計を“ファッション”としてとらえ、デザインバリエーション豊富に展開するスウォッチも同年にデビュー。スイス発のスウォッチが日本でも一大旋風を巻き起こす一方、G-SHOCKは日の目を見ず、鳴かず飛ばずの状態が続いた。
G-SHOCKブレイクのきっかけはアメリカだった。1984年にDW-5200C(初代モデルをマイナーチェンジしたモデル)を、アイスホッケー選手がパック(ボール)の代わりに使ってシュートするという現地制作のCMが放映されると、消費者から「誇大広告では?」という疑問の声が多数寄せられた。
当時アメリカで人気を集めていた消費者の疑問に答えるテレビ番組が、CMのシーンを実際に再現。さらにダンプカーにひかせるという実験も行ったが、G-SHOCKは壊れず動き続けた。この放映後、警察官や消防隊員といったハードユーザーに評価され、スケートボーダーの間にも広まっていく。さらに1985年、世界中に中継されたアフリカ難民救済コンサート「ライヴエイド」ではスティングがDW-5200Cをつけていたことも話題を呼んだ。
90年代初頭にはスケーターファッションの流行とともに、日本でもストリートシーンでG-SHOCKの人気が高まった。当時発売されたインパクトのあるバンパープロテクターシリーズは争奪戦となり、1994年に大ヒット映画『スピード』で主演のキアヌ・リーブスが私物の「DW-5600C-1V」をつけていたこともブームに拍車をかけた。
G-SHOCK旋風が巻き起こった90年代だが、やがて人気は失速する。この状況を打開すべく2000年代にアメリカでリブランディングに取り組むと、セレブリティたちがG-SHOCKを自発的に購入し、ヒップホップ界の大物、カニエ・ウェストがG-SHOCKファンを公言するなど、イメージアップに成功した。エクストリーム系スポーツのライダーにもタフな機能が再評価され、カルチャーを巻き込んで人気が再燃していく。
25周年を迎えた2008年からはニューヨークを皮切りに、G-SHOCKの魅力を開発ストーリーとともに伝えるイベント「SHOCK THE WORLD TOUR」を開催。G-SHOCKが開拓した耐衝撃性能を武器に、世界各国にファンを増やしている。
G-SHOCKのディテールチェック
多種多様なデザインが展開されるG-SHOCK。初代「DW-5000C」のDNAを引き継ぐ5600シリーズの基本モデルとして、現在定番展開されているのが「DW-5600E-1」だ。機能は現代的にアップデートされているが、基本的なディテールは初号機を踏襲している。
薄型時計が主流だった当時、タイヤのようなボリューム感の外装デザインは衝撃的だった。突き出たベゼルがガラス面を保護する設計。1987年に発売された角型モデルの完成形、「DW-5600C-1」がデザインのベース。
落下した際、バンドが緩衝材の役割を果たすように、バンドとケースの接続部をカーブ状に固定。
ケースバックにはG-SHOCKを象徴する「G」のロゴと「SHOCK RESIST」の刻印入り。
シンプルなリストバンドスタイル。本体側バンドの両サイドにはドットの型押しが。このメカっぽさもG-SHOCKの魅力。
最新G-SHOCKをチェック!
初代モデルをベースにした5600シリーズも、シーズンごとに多様なデザインが展開される。ファッションユースにおすすめの最新作を中心に、コラボモデルもピックアップ!
初代モデル「DW-5000C」のケース形状、文字盤デザインを踏襲したクラシカルなルックスだが、文字盤下部に「TOUGH SOLAR」とあるとおり、ソーラー充電システムを搭載した上級モデル。機能重視派におすすめ。
「ソリッドカラーズ」シリーズのブラックモデル。液晶部分も反転のブラックと徹底したワントーン&ボディとバンドをマットに仕上げることで、モード感が漂う1本に。モノトーンの着こなしはもちろん、かっちりしたセットアップなどにも合わせやすい。
スクエアデザインのベゼルとケースをメタル化したシリーズ。こちらはソフトウレタンバンドを使用したハイブリッドタイプ。メカっぽさが強調される硬質なステンレス素材に、反転液晶がシックな表情を添える。
ゴールドのケース&バンド、文字盤にはチェーン柄と、ヒップホップ・カルチャーのアクセサリーに着想を得たデザイン。バンドとベゼルはつけ替え可能で、ブラックとスケルトンの交換用パーツがセットに。その日の気分に合わせて楽しめる!
乳白色のスケルトン仕様は90年代に初登場して以来、G-SHOCKで高い人気を誇る。スマートフォンリンクを搭載した「DW-B5600」シリーズの新作も、スケルトンをラインナップ。クリーンな印象の乳白色は、合わせる服を選ばない万能カラー。
カスタマイズサービス「MY G-SHOCK」では人気イラストレーター、長場雄とのコラボレーション5600系もラインナップ。“山”をテーマにしたアートワークが全体に施され、文字盤のあしらいが手書き文字になっているのもスペシャル。バンド、フェイス、ベゼル、遊環のカラーをカスタマイズできる(一部のパーツは完売)。
2019年のスタート以来、完売を繰り返す人気別注を2022年は「DW-5600」で展開。ブラックケースに、ベルトはチャコールグレーとブラッククリアのクレイジーパターンでビームスらしいデザインに。バックライトと裏ぶたには地球儀ロゴもあしらわれている。
問い合わせ先
カシオ計算機 お客様相談室
TEL:03-5334-4869
https://www.casio.com
ビームス 原宿
TEL:03-3470-3947
みんなのカシオ「G-SHOCK」
コーディネート
樋之津琳太郎/メンズノンノモデル
「19歳のとき、姉が誕生日に買ってくれました。時計を持っていなかったので、入門編として定番のものが欲しかったということもあり、G-SHOCKのいちばんベーシックなモデルにしました。アウトドア的なイメージがあるけれど、シンプルでコンパクトだからきれいめコーデのハズしにも活躍。きょうもオーラリーのシャツ、スタジオニコルソンのワイドパンツ&ジーエイチバスのローファーというきれいめコーデに、あえてG-SHOCK!」
「このG-SHOCKを買ってから4年の間に、僕の服装の好みはコロコロと変わりました。着なくなった服もあります。でもこのG-SHOCKは常にワードローブの一軍に居続けています。こういうものが“永久定番”なんだろうなと思います」
丸 海都さん/ビームス プレス
「アクティブなシーンで使える時計を探していたとき、この別注が発売されました。G-SHOCKは学生がつける時計というイメージがあったんですが、実際につけてみると子どもっぽさはなく、タフなデザインにほれ込んでしまいました! 今シーズンはベストが気分なので、ビームスのダウンベスト&チェックシャツにディッキーズの別注パンツ、手もとにGショックをつけてアウトドアに行きたいなと思っています。キャンプや川遊びでも臆せずつけられて、最高ですよね!」
「ビームス別注のクレイジーパターンは、合わせるのが難しそうと思っていましたが、まったくそんなことはなく、どんなコーディネートにもハマる万能さにびっくり。G-SHOCKをつけ始めてから、長く愛されている理由がわかってきました。この初G-SHOCK、20年後もつけていそうな気がします」
Photos:Erina Takahashi(still) Stylist:Takumi Urisaka Composition & Text:Hisami Kotakemori
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