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人気ショップやブランドを多数ディレクション、自身のお店「ブティック」も絶好調のクリエイティブディレクター・金子恵治さん。新しい視点と発想に満ちた「頭の中」を、旅の話を通してのぞいてみよう。
LONDON
紳士服の基本をおさらいし、
現在のトラッドを捉えるためにロンドンへ


ロンドンの中心部と郊外の2拠点で10日間滞在。「じっくり街を味わう旅でした」



更新され続けるイーストロンドン
「NIKEなのに構築的なジャケットというギャップが面白く、思わずシャッターを切った。新しいショップが生まれ続けるイーストロンドンのエリアではスナップが撮り放題」


移動手段のひとつとして当たり前のスケート。「ファッションも面白く、スケートショップのオリジナルを着た人から古着の着こなしがうまい人まで、見ていて飽きない」



根づいているテーラード、バブアー、バラクータ
「紳士服街で仕事の休憩中に犬の散歩をしている紳士。まさにクラシックなロンドン像」
インターネットは捨てず街にも出る。
生身の出会いこそ面白い
昨秋は人生で初めてプライベートで海外を訪れる機会に恵まれ、ロンドンとソウルへ。僕自身「ブティック」を、コロナ禍の名残がある2年前にオープンさせましたが「ネットショッピングではなく街へ出て実店舗を訪れる意義とは?」の答え合わせをするような旅になりました。いくらインスタでリサーチしたところでわからない生身のモノやお店…旅には濃密な出会いがつきもの。実際に訪れることで次なる発見につながったり、欲しいと思えるアイテムに巡り合えます。お店の人との雑談から、新しいビジネスの仕入れ元や工場を教えていただくことも稀にあったりして(笑)。インターネットは捨てないけれど、旅に出ることで数珠つなぎにストーリーが生まれる。この目で見て肌で感じる嗅覚をやっぱり大切にしたいと思いました。旅行中の食事もグルメサイトに頼る必要はなく、テラス席で洒落た紳士たちが談笑しているお店は間違いなくおいしいわけです。
さて今回はヨーロッパ各地に足を延ばすのではなく、ロンドンにこだわって10日間みっちり滞在。改めてメンズ服の発祥地に腰を据えたかった。円安で海外から商品が仕入れにくく、ライフスタイルが変化してドレス服の必要性が失われてきたこのご時世、日本にいてはわからない英国トラッドの“今”を、集中して体験する必要性を感じていました。

僕にとっての旅はパッキングから始まり、今回もいろいろと新調。出発前に趣味のカメラを2台購入し、ズームレンズ2つと三脚も用意。カメラバッグとして十分機能するタウンユース向けのバックパックに、同じ装備がピッタリ入るミステリーランチのショルダーバッグも追加購入。もはや似非カメラマン(笑)。決定的な瞬間を逃したくないパパラッチ気質で、写真を撮ることも自分にとっては旅のテーマのひとつ。現地でハントした人に自分のブランドの服をモデルとして着てもらうのもいいなと妄想したり…プライベート旅だったはずがファッションのことを考えていると結局仕事と地続きになってしまう。英国紳士に欠かせない自転車と傘にもフォーカスしたく、ブロンプトンの自転車の工場に突撃で取材を申し込み、フォックスアンブレラの工場見学にも訪れました。どちらも日頃から愛用しているブランドです。



スポーツバイクとクラシックな英国自転車
「自転車も今回の旅のテーマ。行く先々でブロンプトンの折り畳み自転車を発見」

バーでちょっと休憩、の姿もイイ
バーのカウンターにバブアーを着た男性、という英国的でシネマティックな1枚。


妥協しないマイ・パッキングルール
「僕は旅の目的に合わせた最適なパッキングを追求していて、今回はカメラ2台とレンズ2つをバックパックに収納。ラフに街歩きするためにコンタックスの古いデジも携帯」





トラッドを着こなす若者たち
「英国大好きロンドンっ子たちというムード。ジャケットやローファーにチェック…象徴的なアイテムを今の感覚で着こなすグループをサヴィルロウ周辺でよく見かけた」

「おいしいお店は外観の雰囲気で察知。小腹を満たすために休憩にビールを飲んだりも」
アップデートされた「今」の英国
トラッドを新旧2つのお店で体感
正直、街全体のムードは大きな変化を感じなくて…。老舗テーラーが並ぶサヴィルロウに、バブアーやバラクータをはおった紳士が闊歩するジャーミンストリート、個性的な若者が集結するブリックレーン。イーストロンドンのエリアは相変わらず様々なスタイルでにぎわい、ストリートファッションの宝庫。時間を忘れてカメラを構えて過ごしつつも、どこか「想定内」だったのも事実。ただ、新しいトラッドの息吹を感じる、傑出したお店との出会いもありました。まずは1906年創業の「アンダーソン&シェパード ハバダッシェリー」。テーラーに付随するショップであらゆる服の仕立てがすばらしく、デザイン面で時が止まっておらず進化している。ナポリのハンドメイドシャツメーカーへの別注品や、ガンジーセンターのような衿もとにアレンジされたシェットランドセーター、通常よりピッチが狭いドット柄のバンダナ…と、昔の英国では考えられない柔軟な発想に唸りながら、ついショッピング三昧。対して新しい店舗では、以前からインスタの投稿にただ者ならぬムードを感じていた「スぺシャーレ」がすごかった。自国の文化を残そうという姿勢が強く、ある種新参者のテーラーだけれど店の奥には縫い子さんがいる仕立てスペースがきちんとあって、シャツもニットも作りがいい。カメラ好きと見受けられる中判のフィルムカメラが置かれていたり、インスタのあの独特のムードにも合点がいきました。若者が現代の感覚でつくるトラッドのカッコよさに、自分のクリエイティブが引っ張られないようにしなきゃ、と思わず身構えるほどのセンスのよさ。ここでは特に異彩を放っていたオリジナルのシルバーチェーンを購入。数は少なくとも、こうしたトラッドの新天地を目の当たりにできたのがロンドン旅の大きな収穫でした。

Photos:Erina Takahashi(still) Keiji Kaneko(London, Seoul) Composition&Text:Takako Nagai
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