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創業から50周年が過ぎ、今「パタゴニア」が目指すモノ作りと課題とは?
「リーディングカンパニー」、「レスポンシブル・カンパニー」の異名を持ち、アウトドア企業として “地球を救うためのビジネス”を牽引するパタゴニア。そこで現在、メンズ・ライフ・アウトドア・プロダクト・ラインのディレクターを務めるマーク・リトルさんの来日に際し、インタビューが実現。パタゴニアの経営理念やモノ作りのプロセス、物を手に取るときに重視するポイントから、『メンズノンノ』世代へオススメする名品までを語ってもらった。
パタゴニアのミッションと価値観を反映した
高品質な衣類を作ることに情熱を注ぐ。
―まずマークさんがパタゴニアへ入られたきっかけについて聞かせてください。
マーク・リトル(以下、マーク):私は現在、パタゴニアでメンズ・ライフ・アウトドアのプロダクト・ライン・ディレクターをしていますが、パタゴニアに入社する前からファッション業界で仕事をしていました。2000年頃から別のアパレル企業に勤め、そこでテキスタイル工場や縫製工場など、服が作られる現場を見ながら多くのことを学んできました。その一方で、服作りがどれほど環境汚染やその他の社会問題を引き起こしているかを目の当たりにし、「もっとこうだったらいいのに」という思いも積み重なって行きました。
そんな矢先、パタゴニアで働いていた友人から「とあるポジションが空いているんだけど、やってみないか?」という話がありました。僕自身、昔からスキーとサーフィンが大好きで、パタゴニアのウェアやギアは使っていましたし、プロダクトに関する信頼は厚かったので、その時はとても嬉しかったです。
その後、パタゴニアの本社へ行き、企業としての理念や歴史はもちろん、モノ作りや現在、取り組んでいることについて、さまざまな話を聞きました。その中で、僕自身がファッション業界に対して抱えていた葛藤や「もっとこうだったらいいのに」と考える部分が合致し、パタゴニアの世界観にすごく感銘を受け、働くことを決めました。あと本社のあるベンチュラの波がとても良さそうだったことも理由のひとつです(笑)。
―運命的ですね、ではマークさんが入ってからの13年余りについて聞かせてください。
マーク:これまでパタゴニアは「最高の製品を作り、環境に与える不必要な悪影響を最小限に抑える。そして、ビジネスを手段として環境危機に警鐘を鳴らし、解決に向けて実行する」をミッションステートメントに掲げ、モノ作りをしてきました。私が入社した2012年当時もオーガニックコットンを使った製品作りはしていたのですが、もっと革新的なことをするべく、2013年にリサイクル素材や天然繊維(オーガニックコットン)を使っていないものは作らないという方針を打ち立てました。そして2018年にはミッションステートメントを「私たちは、故郷である地球を救うためにビジネスを営む」へと変更。アウトドアアパレル業界においてサスティナブルなモノ作りのパイオニアとして、現在までさまざまなことにチャレンジしています。
―具体的に、どのようなことをしているのでしょうか?
マーク:現在は、“ゴーストギア”と呼ばれる海の上に浮かぶゴミや廃魚網などを回収し、それらを再利用して素材を作るサプライチェーンを構築したり、リジェネラティブ・オーガニックの農法を正しく理解してもらい、推進・拡大を目指して取り組んでいます。その他にも、製品が壊れたら修理して長く使い続けたり、使わなくなったパタゴニアのウェアを補修し中古ウェアとして販売することで全体的な消費を減らすなど、大小さまざまな活動は多岐に渡ります。現状、すべての製品に理想的なモノ作りが実践できているわけではなく、現在進行形のものも多数あります。その中で私たちが大切にしているのは、さまざまなチャレンジの中で発生する成功例や失敗例をしっかりと世の中へ伝えていくことです。
―成功だけでなく、失敗もですか?
マーク:例えば画期的な素材を作り出したけど、サプライチェーンの構築には間に合わなかったことなど、何に成功して、何に失敗したのか、それらをしっかりと世の中に伝えていくこと。
私たちは会社を挙げて、環境への負担を最小限に抑える革新的なモノ作りを実現すべく務めています。しかし、地球規模で考えるとまだまだ小さな会社のひとつです。ですから私たちの成功と失敗を伝えることで、他の企業や団体など、1人でも多くの人たちを地球に責任を持つモノ作りに巻き込んで行きたい。そのためには成功例だけでなく、失敗例も透明性を持って伝えることで、やろうとしていることを知ってもらい、それがそう簡単ではないことまでも伝える。それを製品と合わせて、カスタマーにも届けることで、さまざまな業界ではびこっているグリーンウォッシュの抑止力にもなればと思います。
―リーディングカンパニーとしての覚悟を感じます。
マーク:パタゴニアでは、何か製品を作るときに、私たちがサポートしているクライミングやスキー、サーフィンなどのスポーツに関連して、カスタマーにとって絶対に必要だと思うものだけを作っています。ですから、スポーツするシーンや日常生活にフィットせず、ファッション性だけを追求するような製品は作りません。
またできる限りリサイクル素材を使って製品作りをしていますが、それらは形にしたら終わりではなく、そこから長く使い続けるものであること。ゴミをリサイクルしたとしても、それがすぐ壊れてしまう脆弱なものや汎用性の低いもの、トレンドだけを追求して翌年には使わなくなるようなものでは、新たなゴミを生み出しているだけになってしまいます。だから私たちはリペアしながら長く着続けられるレベルの品質まで仕上げて販売しています。ゴミをリサイクルして、そこから長く着続けられる良質な製品を作ることで、地球環境や社会への悪影響を少しでも減らすことが私たちの責任のひとつと考えています。
―パタゴニアの掲げる「レスポンシブル」の部分もとてもよく理解できました。では改めて次世代を担うメンズノンノの読者へ、物選びについてアドバイスをお願い致します。
マーク:日常的に私たちはさまざまな物を消費しますが、何かを消費するということは地球資源に直結しているということを知った上で、目の前にある製品が本当に自分に必要か否かを問いかけて欲しいです。そして私たちパタゴニアも含め、その製品を作る会社がどのような経営理念を持ち、物作りしているかも調べて、学んで欲しい。そうして製品を作る企業とそれらを買うカスタマー、両方の立場から人や地球にとって必要なものだけを作るという意識ですね。さまざまな製品を作る側の責任感と、買う側の責任感を併せて高めていければと思います。
【マーク・リトルさんが選ぶ!】
メンズノンノ世代に知ってほしい
名品3選
デザインについて「パタゴニアでは、製品が旅することをコンセプトにしています。製品はどれも流行などに関係なく、飾らずタイムレスなデザインと頑丈な作りになっているので、何度もリペアして使い続けることができ、人から人へと譲り受けることでも長く旅できるものにしています」と語るマークさん。そんなマークさん自身が読者世代にオススメしたい名品3選をピックアップ。
リコメンドアイテム①
メンズ・ジャクソン・グレイシャー・ジャケット
「防風性と保温性に優れたジャクソン・グレイシャー・ジャケットですが、この度、ダウンをリサイクル・ダウン100%にしたことと、防水性を100%まで引き上げたことが最大のアップデートポイントです。以前のモデルも防水素材ではあり、シームテープを使って防水性を追求していたのですが、パタゴニアの高い完全防水基準にはパスしていませんでした。それを今回はカッティングやボンディングテープの貼り方を工夫することで完全防水を実現しました。さらに、身頃のフィット感を工夫することでフロントジップの開閉をより滑らかにし、着心地もより快適に仕上げました。特徴的なマット生地も健在です」。
リコメンドアイテム②
メンズ・クラシック・レトロX・ジャケット
「レトロXはやはりパタゴニアを代表するモデルであり、定番中の定番です。読者の方々にオススメしたいポイントは、普遍的なデザインとパタゴニア製品の中では比較的手に取りやすい価格であること。中には防風性に優れたメンブレンがついているのでフリースなのに風を通さず、アウターとして着用できます。日本の冬は温かいので、マイルドな冬であればこれをジャケットとしても使えると思います。流行に左右されないデザインでありながら、定期的にさまざまな色が出ているので、お祖父さん、お父さんから息子、孫まで何世代にも渡っていろんな着こなしが楽しめるところもポイントです」。
リコメンドアイテム③
メンズ・リバーシブル・シェルド・マイクロディニ・ジャケット
「自分でも愛用していて、オススメしたいのがリバーシブルで着回せるフリースジャケットです。パタゴニアでも一番薄くて軽いウィンドブレーカーを採用したナイロン面と、テクニカルラインにも使われている柔らかくて温かいフリース面が組み合わさっています。保温性を上げたい時にはナイロン面を外側に、フリース面を肌に近づけることで温かい空気を逃さず外からの風をブロックしてくれます。温かくなったら裏返して活用できますし、たたむとコンパクトに持ち歩けるので、旅行などにも手軽に持っていけます」。
【マークさんのフェイバリット! ナチュラルコレクション】
読者へのリコメンドアイテムのほか「プラスチックや石油由来のものを自分のクローゼットに入れないのが新たな目標」というマークさんが“マイフェイバリット”として熱く語るナチュラルコレクションにフォーカス。リジェレラティブ・オーガニックへと転換を目指すコットン・イン・コンバージョン素材を使用することで、農業革命を目指すアイテムたちを要チェック。
リバーシブル・コットン・ダウン・ベスト
「本体は、コットン・イン・コンバージョン100%素材を使って表面を起毛させた平織りの生地と、オーガニックコットン100%の6ウェール・コーデュロイをリバーシブル仕様で仕上げています。600フィルパワー・リサイクル・ダウンを使っており、隅々まで天然素材で作られています。裏と表、それぞれの表情の違いも楽しんで欲しいです」。
コットン・ダウン・ジャケット
「裏表、ともにコットン・イン・コンバージョン素材を100%使用。リサイクルダウン100%を使い、とことんナチュラルづくしで作られています。タイムレスに着回せるデザインを追求するパタゴニアらしいクラシカルなキルト加工もポイントです」。
ワックスド・コットン・ジャケット
「これはコットン・イン・コンバージョン素材100%を使っているだけでなく、オリーブオイルなど、食品産業の廃棄物を利用した植物由来のワックスを使用しています。化学繊維などがない時代に、初めてアウトドアをした人々やイギリスの船乗りたちが魚のオイルをコットンに塗りつけて雨具にしたことから端を発し、天然繊維を使って過酷な環境から身体を守るために生まれたワックスコットンの技術を現代版にアップデートして採用しています。私たちは地球の未来のために革新的な物作りを実践する上で、時には原点回帰しながら日々、試行錯誤をしているのです」。
パタゴニア メンズ・ライフ・アウトドア・プロダクト・ライン・ディレクター
マーク・リトル さん
大手アパレルメーカーで経験を積み、2012年1月パタゴニアに入社。メンズ・スポーツウエアとサーフ・アパレルの製品ライン・マネージャーを務め、15年3月から現職。アパレル業界で23年以上の経験を持つ。パタゴニアのミッションと価値観を反映した高品質の衣類を作ることに情熱を注ぐ。また、変革的な農業や二次廃棄物の転用に焦点を当て、社会的責任の価値観と循環型経済を推進し、より良いビジネス慣行への挑戦を続ける。趣味はサーフィンとスキー。
問い合わせ先
パタゴニア日本支社 カスタマーサービス
0800-8887-447
https://www.patagonia.jp/home/
Photos:Kaho Yanagi Text:Wakako Matsukura
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