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僕らが最近よく観ているのは、映画史に残るような名作。特に1980~90年代の映画は、ファッションもおしゃれで、スタイリングの参考になるようなヒントが多く詰まっている。その着こなしをメンズノンノモデルたちが現代的に表現しながら、作品の魅力に迫っていく。
LES AMANTS
DU
PONT-NEUF
『ポンヌフの恋人』
CAST
Eriya Julie Hachiya
ノスタルジックなフェアアイル柄が気になって
パリのポンヌフ橋を舞台に、痛切な愛の駆け引きを描く『ポンヌフの恋人』。フランス映画史上最大の製作費がかかったといわれている作品だが、その壮大さと美しさは唯一無二。なかでも地下鉄の構内でアレックス(ドニ・ラヴァン)がミシェル(ジュリエット・ビノシュ)の肩を抱くシーンは、彼が着ているフェアアイル柄のカーディガンがひときわ目を引く。映画前半のアレックスは、ほぼ上半身裸にベストで過ごしていることもあり、このコーディネートがことさらにインパクトを残すのだ。彼のように自由な着こなしで、この秋はレトロな柄に挑戦してみたい。
赤と黄色の服がアクセントになり映画が活気づく
花火が打ち上がるポンヌフ橋の上で、アレックスとミシェルがひたすら踊り回る名シーンをオマージュ。夜の闇や橋のコンクリートなど無彩色が画面の多くを占める『ポンヌフの恋人』において、ふたりが着ている服の赤と黄が映画全体のアクセントになっている。アレックスが着る赤いカーディガンや黄色のセーター、ミシェルが着る赤いピーコート、黄色いトラックジャケットなどがまさにそう。ここではその鮮やかな色使いを表現した。
『ポンヌフの恋人』
Story
パリのセーヌ川にかかるポンヌフ橋に暮らす天涯孤独の青年・アレックスは、病気による失明の危機と失恋によって人生に絶望する女子画学生・ミシェルと出会う。ふたりは恋に落ちポンヌフ橋でホームレス生活を始めるのだが、ミシェルには両親から捜索願が出されており、街中に張られた捜索願のポスターには、目の病気の治療法が見つかったと記されてあった…。
Fashion
フランスの奇才レオス・カラックスが監督する『ポンヌフの恋人』は、主人公のアレックスとミシェルが、パリの街で拾ってきたであろう洋服をまるで古着をミックスするかのように自由に着こなしている姿に惹かれる。丈の長さなどがちぐはぐであったりと、ちょうどいいサイズの服を着ているわけではないのだが、ふたりの体にしっかりとなじんでいるのがいい。洋服の色使いも計算されており、赤と黄色のアイテムが映画の中で効果的に使われている。
写真:アフロ
映画監督・デザイナー・
スタイリストが魅力を語る!
シネマ&ファッション レビュー
『ポンヌフの恋人』
レオス・カラックス監督が手がける名作ラブストーリー。『ボーイ・ミーツ・ガール』『汚れた血』に続く「アレックス青春3部作」の完結編としてつくられ、すべての主演に、カラックスの分身的存在ともいわれるドニ・ラヴァンが起用されている。本作のヒロインは、ジュリエット・ビノシュ。花火が上がるポンヌフ橋上でのふたりの舞踏は映画史に残る名シーン。今年日本公開の『アネット』も話題に。
— FASHION REVIEW —
「動く人」を見せることに特化した服装
初めて『ポンヌフの恋人』を観たとき、グレーのベストを着たアレックス(ドニ・ラヴァン)が道をよろよろと歩いている最初の場面が流れるや、「カラックスの映画が始まる!」と興奮したのを覚えています。ホームレスの大道芸人であるアレックスの服装は、ボロボロだけどカッコいい。カラックスの映画におけるドニ・ラヴァンという役者は、いつも「動物としての人」みたいなものを背負わされていると思っていて。本作でも特に前半は、アレックスがアクロバティックな動きをする場面が多くある。そうした身体性に伴った、「動き」や「肉体」「肌」を見せることに特化したファッションに目を奪われます。
登場人物が置かれた状況や時間の流れなども、服装によく表れていると思う。ミシェル(ジュリエット・ビノシュ)を象徴する「黄色」の服をアレックスがまとうことで、ふたりの親密さを想像したり。フェアアイル柄のニットが登場してからアレックスは肌の露出が減り、季節が移り、何かを通過したことを表す。言葉ではなく視覚的に変化を語るのが、映画らしい表現ですばらしいです。
西村浩平/DIGAWEL デザイナー
2006年にセレクトショップ「DIGAWEL(ディガウェル)」を設立。『ポンヌフの恋人』が好きすぎるあまり、実際にポンヌフ橋へと足を運んだことも。
— CINEMA REVIEW —
カラックスは「自由な場」をつくる達人
面白い映画を撮るために監督がすべきことは、極端に言えばただひとつだけだと思っているんです。それは、役者が自由に芝居をできるような「場」を提供すること。レオス・カラックス監督が特別だと言われる理由は、それがすさまじいレベルで達成できているからだと思います。
『ポンヌフの恋人』は、パリにあるポンヌフ橋を舞台にした恋愛映画です。観た後に知って驚いたのが、このポンヌフ橋がすべてセットでつくられたものだということ。一度は実際のポンヌフ橋で撮影許可が下りたけど、さまざまな事情で頓挫したようで。それで、なんと同じサイズの橋を田舎町につくって撮影しているんです。しかも一回、嵐によってその橋が壊れて、またつくり直したのだとか(笑)。とんでもなくお金がかかってるけど、そのおかげで役者が芝居しやすい「場」ができているんです。
でも普通、これだけコストをかけたら役者をガチガチに演出してしまって、縛りが強くなりそうなもの。しかし、ドニ・ラヴァンとジュリエット・ビノシュが橋の上で踊り狂うシーンを含め、役者に自由にのびのびと演じさせているのがわかる。フィクションとしてつくり込んだ描写と、リアリティのある役者の身体的な動きが入り交じっているんです。配信とかでもいいけど、これはぜひ映画館で体験してほしい映画ですね。
今泉力哉/映画監督
1981年生まれ。2010年『たまの映画』で商業監督デビュー。2019年『愛がなんだ』が話題に。11月4日に主演・稲垣吾郎の『窓辺にて』が公開予定。
Photos:Toshio Ohno[L MANAGEMENT] Hair:TAKAI
Make-up:DAKUZAKU[TRON] Stylist:So Matsukawa Text:Kohei Hara
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