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服好きに支持されるブランドのデザイナーにフォーカス。彼らはどのようにしてデザイナーになったのか? コレクションを通して伝えたいことは何か? これから、どんなクリエイションをしていくのか? デザイナーの過去、現在、未来のストーリーをロングインタビュー。
第14回はエッジのきいたデザインが持ち味のアレキサンダーワン。6月に青山の旗艦店をリニューアルオープンし、アイコンバッグ「リッコ」もローンチと話題を集めている。グローバルに活躍してきたデザイナーが20周年に向けて、今思うことは?
アレキサンダーワン デザイナー
アレックス・ワン さん
1984年アメリカ、サンフランシスコ生まれ。NYのパーソンズ・スクール・オブ・デザイン在学中の2005年に、自身のブランドを立ち上げる。2008年に若手デザイナーを支援するCFDA/ヴォーグ・ファッションファンドでグランプリを受賞。2014年~2015年は「バレンシアガ」のクリエイティブディレクターを務めた。
BRAND PROFILE
alexanderwang(アレキサンダーワン)
2005年、NYにてウィメンズのニットコレクションで「ALEXANDER WANG」としてスタート。2007年にNYで初ランウェイショーを開催し、2008年に初のバッグコレクションを発表。黒を基調としたモダンなコレクションで人気を博し、2011年にメンズコレクションを始動。同年、マンハッタンのソーホーに旗艦店をオープンし、2013年には青山にも出店。2018年にブランド名を「alexanderwang」に変更。
INTERVIEW
1_幼少期から学生時代
授業よりもインターンシップなど
現場での経験で多くを学ぶ
――グローバルに成功されているアレックス・ワンさんが、ファッションに興味を持ったきっかけを教えてください。
そうですね…。小学校のころ、8歳くらいからだったかな? 母が美容院に行くとき、よくついていったんです。そこにはファッション雑誌がたくさんあって、それを見るのが大好きでした。気に入ったページをこっそり破って持ち帰り、壁に貼ったりして楽しんでいました。ファッションに興味を持ち始めたのはその頃です。
――ご両親がおしゃれだったんですか?
いえ全然(笑)。以前よく「親が台湾にアパレル関連の工場を持っている」という噂が流れたんですが、それはまったくの嘘! ファッションへの興味は自発的なことでした。
――デザイナーになりたいと思って、NYのパーソンズ・スクール・オブ・デザイン(ファッション・アート専門の私立総合美術大学)に進学したんですよね。
はい。高校生のころからサンフランシスコでパーソンズやロンドンのセントラル・セント・マーチンズ、LAのオーティス・カレッジ アート&デザインなどのサマープログラムがあると参加していました。
――日本でいう夏期講習会のようなものがあるんですね! 留学という選択肢もあったと思いますが、NYを選んだ理由は?
距離的な問題ですかね。サンフランシスコに住んでいたので、LAだとちょっと近すぎるし、ロンドンはかなり遠いなと思いました。NYなら遠すぎず、近すぎず、いいバランスだなと思ってパーソンズにしたんですよね。パーソンズに進学したときには、もうファッションデザイナーとして一旗揚げようという意気込みでした。
――パーソンズ時代はどんな学生でした?
中学生くらいから義理の姉のブティックでアルバイトをしていたこともあり、ファッションの現場で学びたいという気持ちが強かったですね。だから学校の授業よりも、アフタースクールのインターンシップに興味がありました。1年経つ頃には授業がとても退屈に感じられて。それで自分で自身のブランドをやっていこうと決めました。学校よりも実体験に重きをおいた学生時代でしたね。
――学校で学ぶよりも実際にやってみるほうがいいという結論に達したんですね。
ええ。誰でもそれが正解かはわかりませんが、自分にとっての答えはそれでした。家族にバイヤーとかパターンナーとか? ファッション業界に詳しい人がいれば教えてもらったり、誰かを紹介してもらうこともできたかもしれません。でもそういう伝手がなかったので、自分で試行錯誤して道を見つけなければならなかったんです。
――学生時代にはマーク ジェイコブスや『ヴォーグ』(ファッション雑誌)でインターンをされていました。そのことがブランドを立ち上げたことに影響していますか?
絶対的にありますね。アメリカの仕事って「こうやればいいよ」と誰も教えてくれることはなくて、「このボタンを24時間以内につくって」みたいなタスクを与えられたら、全部自分でやらなければならないんです。子どもながらに考えて、自分なりに解決策を見つけていくという方法を学びました。それが今のものづくりや会社経営の基礎になっています。
――シビアな世界ですね。
NY流かもしれません。ただファッションに限らずどの分野でもそういう大変なことは絶対あると思います。『プラダを着た悪魔』(2006年公開の映画)ではアン・ハサウェイが出版される前の『ハリー・ポッター』の本を見つけなければならないというエピソードがありましたよね。それに似たようなことは、ファッション業界ではわりと多いと思っています。
――難題を解決していくスキルが不可欠と。
そうですね。パリにいたとき、フランス人は「impossible(それは不可能です)」とよく言うんです。それが言葉の壁なのか、ボキャブラリー的なことなのかわかりませんが、仕事のときにすごくよく言われたんです。彼らのいう「impossible」が「難しくて絶対にできないこと」なのか、「がんばればできること」なのか、最後までよくわかりませんでした(笑)。
2_アレキサンダーワンの飛躍と進化
CFDAグラプリ受賞によって知名度が
上がり、ビッグメゾンで研鑽を積む
――在学中の2005年、21歳のときにalexanderwangを設立しました。どんな経緯でブランドを立ち上げたのか、教えてください。
特にプランもなく、とりあえずニットウェアで初めてのコレクションをつくりました。PRをつけて卸業者を探そうと思い、面識があったショールームに持っていったら、「今は新しいブランドを扱う余裕はない」と断れたんです。それで「どうしよう? 学校に戻るべきなのか?」と悩んでいたら、ラッキーなことに義理の姉が「協力するからブランドを立ち上げよう!」と背中を押してくれて。おかげで自然な流れでスタートできました。
――2008年に権威のあるCFDA/ヴォーグ・ファッションファンドのグランプリを受賞したことで、ブランドは変わりましたか?
すごく変わりました。世界的に有名になったことよりも、メンターシッププログラム(経験や知識が豊富なメンター=指導者が、初心者や未経験者を指導、支援するプログラム)を受けたことが大きかったです。ダイアン フォン ファステンバーグから、今はブランドのCEOを代行してくれているポーラ・スタッターや顧客を紹介してもらったりしたことが、ブランドの大きな支えになりました。
――2012年末から2015年夏までは、バレンシアガのデザイナーも兼任されましたね。両立は大変だったと思います。
突然のオファーでしたが、こんないいチャンスを断ることはできませんでした。グローバルビジネスを見ることは、自分のブランドにとってもいいことなんじゃないかと思って挑戦したんです。とはいえ、自分がどんなにいいアイデアを提案したとしても、そこは自分が経営する会社ではないので、最終的に試練となり。契約が満了となったら自分の会社に戻ろうと思いました。もちろん、バレンシアガでの経験は、その後のブランド運営に活かされています。
――2019年春夏シーズンに、「ALEXANDER WANG」から「alexanderwang」へとブランドロゴなどを変更しました。コレクションのカウントの仕方などいろいろ変えた理由はなんでしょうか?
このときはブランドを大きく変えたいというアプローチで、いろいろなことを一斉に変えました。ロゴだけでなくストアコンセプトや商品のラインを変えたり、レーベルをなくしたり。自分がつくってきたブランドなので、当然、いろいろな愛着もありましたが、ブランド設立から15年近く過ぎて、これからはブランドが自立していくことを考えないといけないと思ったんです。だからレガシーゼロポイントとして、ブランドの新しいチャプターを始めました。
――メンズコレクションは2011年にスタートして、2020年秋冬から2023年春夏までは休止して、2023年プレフォールから再ローンチしています。これも先ほどの流れの延長的なことなのでしょうか。
近いかもしれません。その期間、メンズを完全にストップしていたわけではなく、ユニセックスの展開は残っていたので、ECサイト上にはメンズのモデルが着用した画像も載せていました。ただ当時、メンズで売れていたのはほぼカットソーとデニムということもあって、一度見直して、そこからまた2023年にジャケットやメンズのテーラリングで仕切り直しました。やめたのではなく、整理をした感じです。
3_青山店のリニューアルと「RICCO」
ブランドの世界観を反映する
新ストアとアイコンバッグの復刻
――今回は青山店のリニューアルで来日されました。新ストアのコンセプトやこだわった部分について教えてください。
このコンセプトは北京のストアからはじまりました。以前は大理石の内装でしたが、今回はステンレススチールパイプとラバー、レジン、コンクリートの4つの素材をフィーチャーしました。インダストリアルでブルタリスティック(ブルータリズム建築様式のようなムード)だけれども随所に溶岩石などアーシーな素材を取り入れて、アレキサンダーワンの洋服のように人工的だけれども地に足が付いているイメージです。
――新作バッグ、「RICCO(リッコ)」をローンチされました。現代のハイブランドにとってバッグは重要なアイテムになっていますよね。このバッグのコンセプトについても教えてください。
今回、初めてメンズにも持ってほしいという思いをこめてつくりました。このバッグは2009年に発表した「ROCCO(ロッコ)」というバッグの復刻でもあります。当時はダッフルバッグ型で発売したので、スラウチバッグ(リラックスして持てるバッグ)として大ブレイクしました。
――セレブリティが愛用していましたね。
もっといいバッグをつくりたいと思って研究に研究を重ねて、今回納得のいくものが完成しました! まずスタッズが約30%軽くなって、ラムレザーを象の革のようなグレインレザーに仕上げています。フラップを付け、ストラップもデュアル仕様にして長さを両サイドで調整できるようにしました。ショルダーからクロスボディまで、身長や体型に合わせて、何通りにも使えるデザインです。仕上がりにとても満足しています。
――アレックスさんが持っている姿もとても素敵です!
このバッグのローンチは、本当にワクワクしました! 「ROCCO」を発売した2009年と今では時代も変わってジェンダーロールがなくなってきていますが、ブランドとしては初めてのユニセックスバッグになりましたので。
4_2024PREFALLコレクション
トロンプ・ユイルプリントや
バルーンシルエットを多様に展開
――今回2024年プレフォールのコレクションもご紹介いただきます。メンズとウィメンズをいっしょに発表されましたが、どんなコンセプトでスタートしたのでしょう。
アレキサンダーワンは来年、20周年を迎えます。それを新しいチャプターの始まりとして「Legacy 2.0」をテーマにしました。私はいつもワークウェアが経年変化でどのようにそのキャラクターを変えるか、そしてアメリカ文化の裏側(メインストリームでない部分)に触発されてきたので、そういったものをベースに意外性のある生地やトロンプ・ルイユ技法などを使って対比的な表現しています。
――思い入れのあるアイテムがあれば教えてください。
ひとつは先ほどもお話した「RICCO」バッグです。ほかでは経年変化をトロンプ・ルイユの手法で表したトラッカージャケットなどのシリーズ。バルーンシルエットのパンツをさまざまなドレスコードに合わせて、スタイリングの多様性を表現しました。スポーツウェアも常に進化し続けるインスピレーション源になっています。
――創作するときにベースに置いているイメージソースはありますか? 例えば以前は映画や音楽にインスパイアされていたとインタビューで話していました。
私たちはあらゆるところからインスピレーションを引き出しています。以前は音楽に比重があったこともありましたが、今、重要なのはアイデアを対比させて、今までにない挑戦的な視点で再構築しプロダクトに落としこむことです。
5_アレキサンダーワンのこれから
時代のエネルギーをキャッチして
常に変化しつづけるブランドでありたい
――アレックスさん自身の趣味は何ですか?
ありきたりかもしれませんが、最近、週末にガーデニングをするのが嫌いではないことに気づきました。
――植物や自然はいいですよね。アレックスさんがファッションを通して伝えたいことは?
ブランドとしてはそういうことをあまり深刻に捉えないようにしています。ただ私自身が考えるファッションはエネルギーのようなものであり、現代文化やポップカルチャーからの受けた直感を伝えるアイデアの統合だと思います。
――これからのファッションやブランドの将来について、アレックスさんが思っていることがあればお聞かせください。
いい質問ですね。今、すごくエキサイティングなブランドがたくさんあります。たとえば、Telfar(テルファー/NY発のバッグブランド)やLuar(ルアール/ラウル・ロペスが2017年に創立したNYコレクションにも参加するブランド)。ただファッションブランドに限らず、ブランドは使命に忠実でありながら、時代のエネルギーを捉え、それに素早く反応して、新しい技術を受けいれていくことが重要だと思います。
――最後にアレックスさんにとって、ファッションとはなんでしょうか?
私がブランドを始めた頃、ファッション業界は今とはまったく違っていました。でも、今でも変わらないのは、この触れることのできるエネルギーがファッション好きな人たちの感覚を刺激するということです。ファッションにおいて唯一の不変は変化し続けること。そこに私はずっと共鳴してきました。
Photos:Kenta Watanabe(portrait&report) Composition & Text:Hisami Kotakemori
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