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昨年の12月21日にTUMI〈トゥミ〉表参道が、グローバル初のコンセプトストアとしてリニューアルオープンした。レセプションのために来日したトゥミのクリエイティブ・ディレクター、ヴィクター・サンズさんに、旗艦店のことから「19 Degree(ナインティーンディグリー)」コレクションの誕生秘話、デザイナーになったきっかけまで、気になるあれこれをインタビュー!
【ブランドプロフィール】世界中にファンを持つTUMI〈トゥミ〉とは?
1975年にアメリカで、南米のレザーバッグの輸入会社としてスタート。1980年代に機能的でスタイリッシュなバリスティックナイロン製のバッグで脚光を浴びトップブランドに躍進、世界中にファンを持つ。トゥミというブランド名は南米の偶像に由来。https://www.tumi.com
【インタビュー】昨年末に来日したTUMIクリエイティブ・ディレクター、ヴィクター・サンズさんに話を聞いた!
1_ TUMI表参道のリニューアル
まるで現代アート作品のような
トゥミ初のコンセプトストア
――リニューアルしたトゥミ表参道は、ストア全体が現代アートの作品のようでした! トゥミはアジアのほかの都市にも直営店がありますが、表参道を「アジア太平洋地域初の旗艦店」に選びましたね。
東京の表参道に旗艦店を開くというのは、私たちにとって非常に大事なことです。
――アジアの中でも名だたるブランドが軒を連ねる通りだからでしょうか。
それだけではありません。東京、とりわけ表参道は、私たちトゥミにとって、いつもインスピレーションをもらっているエリアでもあるんです。ここは世界的に見て、ファッション、カルチャーはもちろん食や音楽においても、最先端を行っていると思います。そして表参道はトゥミがアジア太平洋地域で初めて直営店を開いた場所という経緯もあるので、今回もグローバル初のコンセプトストアに選びました。
――今回のコンセプトストアは、トゥミの代表的なコレクション「19 Degree」にフォーカスしているということで、外装や内装に「19 Degree」のモチーフがふんだんに使われています。店舗のデザインもすべてヴィクターさんがディレクションしているのですか?
はい。「19 Degree」がトゥミにとって、重要な存在になってきていますので、コレクションとストアのムードのバランスを取る必要があると思って今回、初めてコンセプトストアを創りました。リニューアルしたトゥミ表参道は、メンズ、ウィメンズ、トラベルの主要なコレクションだけでなく、小物やフレグランスなどもそろい、最新のブランドの世界観を体験できる空間になっています。
2_「19 Degree」コレクション
彫刻のような美しさを携えた
今のトゥミを集約するコレクション
――「19 Degree」はキャリーケースだけでなく、ミノディエール(フォーマルにも使えるクラッチバッグ)のようなアイテムもラインナップするなど、今までのトゥミとは違う魅力を感じます。ヴィクターさんがデザインされたんですよね? 自然界からインスパイアされたと、オフィシャルサイトの説明文には書かれていますが…。
実は「19 Degree」の誕生にはちょっとしたストーリーがあって。
――どんなストーリーでしょうか?
私は年中旅をしています。あるときフライトが遅れ続け、空港に7時間も足止めされたことがありました。ただ座って時間を費やすことしかできません。「この7時間があればアートを見るとか、美術館に行くことだってできたのに…」。そう思っていたらふと、このラゲージが彫刻のようだったらどうだろう? というアイデアが湧いてきて。そう考え始めると、そうじゃない理由がまったく見つからなかったんです。
――言われてみれば、「19 Degree」はどこか彫刻的ですね。
そのとき私はラゲージに機能性だけでなく、美しさを入れなければならないと思いました。光がこの曲線に沿って動いて、見惚れるほど美しいのですが、エンジニアリング(革新的技術)もしっかりあって、バッグとしてインテリジェント(効率的)な構造や耐久性も備えている…。こうして「19 Degree」は生まれました。「19 Degree」にはトゥミを定義づける私のディレクションがすべて集約されています。
――なぜ19 Degree(19度)なのですか?
彫刻のようなラゲージとして考えたとき、19度にリブを描くと自然と視線がそれを追うんです。リブの曲線を追うと光が躍っているように見えませんか?
――確かに。美しいですね。
この角度がリブに機能美を与え、また同時に強さも表現しています。これが創造するということです。
3_トゥミのこれからについて
人々が楽しいと思う瞬間に
フォーカスして製品をつくる
――トゥミはプロダクトを通して、私たちの生活をよりよくしたいというコンセプトを掲げていますよね。
私たちが目指しているのは、自分たちが生み出す製品が、生涯使えること、そして生活をできるだけ楽にすること、効率的にすることです。製品を開発するときには、ディテールにいたるまで、いつもカスタマー(お客様)のことを考えて創っています。カスタマーがトゥミのバッグをどのように使ってくれるか、想像するんです。
――具体的には?
この「19 Degree」のバックパックを例にすれば、シンプルにボタンを押すだけでポケットが開けられます。メインコンパートメントも同様で、マチが付いているから開けてもバッグが倒れません。そして作業が終わったらサッと閉じられます。すべてカスタマーが使いやすいと思う仕様で創っています。
――よく考えられたディテールですね。
はい、どの製品もそうです。トゥミは2021年からフレグランスもラインナップしていますが、同じプロセスを踏襲しています。カスタマーがこれをつけてどんな行動をするだろう? 生活はどう変わるだろ? あるいは、旅に出たときにこれをどんなシーンでつけるんだろう? このボトルはカスタマーが旅に持っていくことを想定して、ロックできるようにデザインしました。
――デザインも含めて、フレングランスもバッグとシンクロさせているんですね! トゥミはまずビジネス分野で成功を収めましたが、今ではラグジュアリーブランドのような存在になってきています。多くのバッグブランドがある中で、トゥミがトップブランドであるために、これからどんなことを考えていますか?
確かにトゥミは創業当時、ビジネスマンや出張にフォーカスしていました。でも、そこから世界は進化してきました。もちろんカスタマーも進化しました。私たちは皆さんの進化したライフスタイルに合わせて製品を創っていきたいと思っています。
――スマホが登場して持ち物がどんどん少なくなり、ビジネスマンも書類が減ってPCやタブレットなどデジタルデバイスが増えました。バッグの在り方も変わりましたよね。
仕事を中心に生活が進化するということもあると思います。ただそれだけではなく、情熱を傾けられるものは何でも生活を変えると思います。推し活のようなものだったり、スポーツもそうですし、家族と旅行することに生きがいを感じている方もいらっしゃいます。私たちはブランドとしてその瞬間を思いっきり楽しめることにフォーカスしています。
――そういえばトゥミはeスポーツに特化したプロ仕様のコレクションを2021年に発表していましたね! 今シーズンのSS24には、ゴルフのキャリーバッグも新たなモデルが発売されます。
はい、SS24にはゴルフコレクションもフルラインナップで登場します。スノーボード用、スキー用、テニス用などいろいろなコレクションの製品があります。トゥミは非常にたくさんの製品を手がけていますが、素晴らしい機能性、耐久性、特性を追求すること、そしてインテリジェントなデザインを踏襲するというブランドとしてのDNAは変わっていません。
4_ トゥミのデザイナーになるまで
芸術家を目指す中で出会った
インダストリアルデザインの魅力
――ヴィクターさんがプロダクトデザイナーになろうと思ったきっかけは、何ですか?
若いときは彫刻家とか、画家…芸術家になりたいと思っていました。アートを愛していて、ものを創ることも好きでした。
――それでNYのアートスクールに通われたんですね。
ええ。そのアートスクールの授業で、あるとき若い男性が自転車のポートフォリオ(作品集)を見せてくれたんですが、その自転車がまるで彫刻のように見えたんです。私は「どうしたらこんな彫刻のような自転車が創れるんだ?」と尋ねたら、彼は「これがインダストリアル(工業)デザインだよ」と言ったんです。
――それで芸術家ではなくインダストリアルデザイナーの道へ進んだのですね。卒業後はイーストマン・コダックに入社されました。コダック時代に賞を取るようなプロダクトを作ったとうかがっています。
コダックではデジカメをデザインしていて、ラスベガスで開催されているハイテク技術見本市「CES」で賞を取りました。当時はコダックのカメラ工場が長野県の茅野市にあったので、初めてのアジアへの旅は日本でした。そういう意味でも私にとって東京は特別な場所なんですよね。
――その後ファッションとプロダクトを融合したいということで、バッグデザイナーに転職したんですよね?
はい、ファッションにも興味がありましたから。トゥミを最初に見たときにファッションとインダストリアルデザイン、両方を兼ね備えたブランドだと思いました。すべてのディテールがきちんと考えられたデザインになっていて、それを人が身につけることができる。バッグは自分のエモーショナルな部分も表現できるプロダクトなんだと感じました。
5_ デザイナーとしての仕事
使う人を第一に考え、パーツに
至るまで機能美を意識してつくる
――トゥミで最初にデザインしたものは何ですか?
バックパックでした。画像がありますよ! (スマホを見せて)これです。20年前に、自分のキャリアの中で初めてデザインしたバッグです。そこからここ(「19 Degree」)まで進化しました(笑)。すべてが初めてのことだったので、とてもワクワクしたことを思い出します。材料も、身につけるということもデジカメとは全然違いますが、原則は同じでした。
――デザインをする上で、ヴィクターさんが大切にしていることは?
常に「カスタマー・ファースト(お客様第一)」であること。私もカスタマーのひとりなので。デザイナーにとっては、これこそが正しい価値だと思います。デザイナーがいろいろな決断を下して製品が生まれていくわけですが、それがカスタマーにつながっているということ、誰かが使うのだということを考えなければいけません。
――つくるものには責任があるということですね。
たとえばこのラゲージダグ。タグを脱着する金具の下はレザーになっていて、レザーの幅は金具よりも広くなっています。それはなぜかというと、タグが動いたときに金具がバッグ本体を傷つけてしまったら、そんな悲しいことはないじゃないですか? そうならないようにきちんとレザーで保護しているわけです。目立つ部分ではありませんが、そういうパーツに至るまで、美しさと機能、全部考えられているわけです。
――奥が深い! もの作りのインスピレーションはどこから得ているのでしょう。
私はいろんなところに旅をしますので、そこで建築物を見たり、音楽を聴いたり、人の話や美味しい食事をいただいたり、そういうすべてのものごとからインスピレーションを得ています。今回の出張でも皆さんと食事をしたときに、プレートの盛り付けがものすごく美しかったんです。出された瞬間に「ワオ! なんて美しい色とパターンなんだろう!」。これを製品のパターンやプリントに生かせないかと考えたり。いつも何かに触発されています。
――アイデアを書き留めるスケッチブックを持ち歩いていると、あるインタビューで読みました。きょうも持っていますか?
常に大小2~3冊を持ち歩いています。旅にはこの小さいほうのスケッチブック。デザインのアイデアなどを絵で描き留めています。要するに私の頭の中のメモ書きなんですが…。
――これはもしや今回のトゥミ表参道の什器?
そう、東京ストアのディスプレイ用什器。バッグだけじゃなくて、こういったものまで、いろいろなアイデアを描いています。まさにトゥミの世界です。あとはさっきの料理のように、写真もかなりたくさん、ディテールなどまで撮って、アイデアのヒントにします。
――最後に、メンズノンノのメイン読者は20代の男性です。彼らにメッセージをお願いします。
Z世代ですね! 私は彼らからいつもインスピレーションをもらっています。Z世代には彼らのセンス、スタイル、テイストがあって、世界を常に新鮮な目で見ていると感じるからです。彼らがどう成長していくのか考えるのもすごく好きで、そういうことを考えながら新しいもの創りに取り組みたいと思っています。ビジネスマンだけでなくZ世代にも私たちの製品の先にいてほしい。
――きょうヴィクターさんのお話をうかがって、「19 Degree」がなぜ彫刻的なのか、わかりました。アートピースのようなこのコレクションは、きっと読者の憧れの存在になると思います。
「19 Degree」はアートとプロダクトの融合を、かなり理想的な形で実現できたと思います。私が学生時代に衝撃を受けたように、これを見たメンズノンノの読者がインスパイアされて、次世代のインダストリアルデザイナーになってくれたら光栄です。
SHOP DATA
トゥミ表参道
住所:東京都渋谷区神宮前5-9-17
TEL:03-3797-0052
営業:11:00~20:00 不定休
Photos : Kenta Watanabe Interview & Text : Hisami Kotakemori
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