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服好きに支持されるブランドのデザイナーにフォーカス。彼らはどのようにしてデザイナーになったのか? コレクションを通して伝えたいことは何か? これから、どんなクリエイションをしていくのか? デザイナーの過去、現在、未来のストーリーをロングインタビュー。
第9回は沖縄の有名セレクトショップに生まれ育った名城彰耶と、ドメスティックブランドでキャリアをスタートした輿水雄大が出会って形になった「ツイタチ」。デビュー3シーズン目にして、早くも沖縄に直営店をオープンし、着々と夢を実現している。そんな彼らが目指すものとは?
ツイタチ ディレクター
名城彰耶 さん
1988年、沖縄県生まれ。ファッションに携わる父の影響で、幼少の頃から洋服に興味を持つ。高校卒業後、父が経営するセレクトショップに入社。海外で古着やインディアンジュエリーの買い付けなども担当。2014年に独立して、那覇市に自身のセレクトショップと酒場をオープン。2019年にオリジナルブランドを設立するために上京。2022年春夏にツイタチを始動。
ツイタチ デザイナー
輿水雄大 さん
1989年、神奈川県生まれ。高校卒業後に、ドメスティックブランドに入社し、10年間勤務。主に企画、生産管理を担当していたが、ブランド終了を機に独立。アパレル企画、生産などの仕事に携わる中、名城と出会い、ツイタチの立ち上げに参加。デザインや生産など実務を担当する。
本格的なコレクションを構想して
東京でブランド立ち上げを決意
――【デザイナーINTERVIEW】ではいろいろなブランドを取り上げていますが、PRの方にツイタチをご紹介いただき、展示会も拝見して。今までのどのブランドとも成り立ちが違うので、お話をうかがいたいと思いました。
名城 ありがとうございます!
――ファッションメディアでツイタチのプロフィールを見ると、名城さんのお名前だけが記されていますが、実際にはふたりで運営しているのですね?
名城 はい。僕自身、ファッション業界は長いんですが、洋服づくりに関する経験や知識が少なくて、ひとりで服はつくれないんですよ。だから、コレクションのストーリーはつくりますが、実際のデザインや生産は輿水に任せています。
――輿水さんとは出身や経歴も違うようですが、おふたりはどうやって出会ったのですか?
名城 僕の父親が今年で34周年を迎えるWALKERというセレクトショップを沖縄で経営していて、高校を卒業してからずっとそこで働いていました。そこから20代半ばまで、会社を継がせてもらうつもりで仕事に励んで、僕が25歳のときにちょうど25周年を迎えました。
――沖縄で四半世紀以上とは素晴らしいですね。
名城 父はセレクトと古着の2本柱で、沖縄で会社を大きくしてきました。自分の代になったときに、洋服だけでは時代的にも厳しいんじゃないかと思って、他業種(自分の場合は飲食店)とファッションをクロスする商売がしたいと考え、26歳のときに独立を決心しました。
――それは大きな決断でしたね。
名城 独立してまず、酒場とセレクトショップをつくりました。酒場をつくったのは、洋服を着て行ける場所、洋服好きのたまり場をつくりたかったからなんです。洋服好きの仲間と酒場をやりはじめると、酒場に通うお客さんが洋服に興味を持ってセレクトショップのほうに来てくれたり、相乗効果もありました。
――ブランドを東京で立ち上げたのはどうしてですか?
名城 沖縄から発信すると沖縄のブランドになってしまうじゃないですか? それで成功したブランドってあまり聞いたことがないというか…。土地柄や生産背景的にやっぱり難しいのかなって。僕は洋服を糸とか生地からつくったり、アウター、インナー、ボトムから靴までフルラインナップでそろえる本格的なブランドをやりたかった。それをやるならやっぱり東京に出ようと。
飲食店経営で資金と仲間をつくり
時間をかけてツイタチを始動
――東京でもまず酒場からですよね。
名城 はい。2019年に上京して、資金と仲間をつくるために、まず池尻に酒場ターコイズを出しました。輿水とはそこで出会いました。
――輿水さんのご経歴は?
輿水 高校時代は野球漬けで、おしゃれをしたりバイクに乗っている同級生を横目に、毎日ジャージで野球をやっていました。部活を引退してから自分も洋服に興味を持つようになって、よく通っていたブランドに入社したいと志願しました。最初は雑用でしたが、そのうち洋服づくりに入れてもらえるようになって、最終的には役職にも就き…。
――服飾専門学校とかではなく、野球の名門校出身だったんですね。
輿水 前職のブランドが解散することになったとき、もうどこかに属するのはいいかなと思って。表舞台に少し飽きていたというか。でもファッションには携わっていたかったので、アパレルの企画、製造会社をつくって独立しました。それと同時期くらいに、知人に酒場ターコイズを紹介してもらって…。
名城 僕ら共通のカルチャーがタトゥーで、ふたりとも知り合いの彫師さんがいたんです。その方が紹介してくれて。
輿水 酒場ターコイズで出会ってからは連日飲むようになって(笑)。
名城 実は自分は、10代の頃はタトゥーに関して批判的だったんですが、沖縄の親友がタトゥー好きで。親友が好きなカルチャーをよく知らずに否定するのもよくないと思って、試しにひとつ入れてみたらそのカルチャーの広がりが理解できました。
――今はタトゥーアーティストがファッションブランドとコラボすることも増えましたよね。カルチャーとしても、確立されてきている。
輿水 知り合って1年くらいはただの友だちだったんですが、ゆくゆくはブランドをやりたいという名城の考え方や構想しているブランドの形を聞いて、それならいっしょにやってみたいなと。お互い洋服好きだし、考えていることも近かったし、僕は生産ができたので「じゃあ、いっしょにやろう」という話になり、立ち上げの準備がはじまりました。
――この形なら、と思ったのはどんなところですか?
輿水 まわりにはアパレルから独立してブランドをはじめる知り合いもたくさんいましたが、格好よくブランドを続けられる人はやっぱり一握りで。名城の場合は、彼の人柄やまわりの人脈も面白くて。ブランドをはじめたら東京と沖縄の両方で展示会をやりたいと言っていたので、いろんな面で新しさを感じました。お互いの長所で短所も補い合えるなって。
名城 語っていたのは、洋服の内容じゃないよね(笑)。自分でいうのもおかしいんですが、このキャラに賛同してくれたんでしょうね。僕はブランドでも酒場でも、チームをつくるプロセスが好きで、東京にもチームをつくるために来た感じありました。そういう話をしていたんでしょうね。
ツイタチというブランド名に
込めたいろいろな思い
――ツイタチというブランド名はいつ決めたんですか?
名城 ブランドを立ち上げると決めたときに、僕が考えました。人が口にするような日常的な言葉をブランド名にしたいと思っていろいろ思案して…。独立したときにつくった会社は歩幸(アルコウ)商会という名前なんですが、父親の会社がWALKERだったので、「服を着て街を歩く人に幸あれ」という意味を込めて“幸”を足して「アルコウ」にしたんですよね。
――なるほど!
名城 ツイタチは漢字で書くと「朔」という文字で「月(ツキ)」という文字が入ってます。
――「ツキ(運がいい)」を内包しているということですね?
名城 ホームページのプロフィールにも「月の第一日目。月が満ち欠けして、もとの状態に戻ること。おわりであり、はじまり。」と書いてる通り「始まる服、始める服、一歩くりだす服」をブランドとしてもテーマにしています。
――名前もコンセプトもいいですね。
名城 ツイタチを準備している頃って、インフルエンサーブランドが流行っていて、それは個人的にスーベニアビジネスだと思っていました。
――スーベニアビジネス?
名城 例えば飲食店でもTシャツとかバンダナとかお土産みたいなモノだったらつくれるじゃないですか? インフルエンサーはちょっとした味付けをしてファッションに持っていっていますが、ファンが買ってくれるという点ではスーベニア(お土産品)と同じですよね。
――確かに。そうしてコロナ禍でインフルエンサーブランドが加速しました。
名城 僕は洋服屋に生まれ育ったという矜持もあるから、ありもののボディを使ってまずTシャツからブランドを立ち上げる、みたいなことはやりたくなかった。それはコレクションじゃないじゃないですか? それなりのラインナップがあってこそ、コレクションと言えると思うので、ファーストシーズンから革靴もつくりました。
――東京に出た目的を、ちゃんと実践したのですね。
輿水 沖縄発信のブランドにしたくないと名城は言っていましたが「だけど、その要素がまったくないのも嘘になるよね」ってことで、ものづくりの中に沖縄のエッセンスは入れるようにしています。
名城 そうだね。ツイタチは初回からコレクションテーマとは別に、毎回テーマフラワーを決めているんですが、最初はヒメユリだったしね。
――沖縄の「ひめゆりの塔」を連想させる花ですね。
名城 ツイタチの一にかけて、一輪挿しもつくっています。
架空の花「イチリア」から
「アイランド」というテーマに発展
――2023年春夏のテーマは「アイランド」でしたよね? 展示会では島のビーチ風のセットをつくってアイランド柄のラグも見せていましたね。
名城 テーマに沿った見せ方をしたのは今回が初でしたね。今シーズンは「イチリアの花」という架空の花をつくって、その花が咲いている島からストーリーを膨らませました。
輿水 架空の島内に息づく様々な「ヒト、コト、モノ」にフューチャーしたコレクションで、人間模様、動物や植物、催しなどを想像してアイテムに落とし込んでいますね。
――いつもストーリーをつくってデザインに落とし込んでいくんですね。
輿水 つくりたいモノが先行してテーマがあとから付いてくる場合もありますが、2023年春夏はテーマが先でした。だからコレクションの骨組みをとても作りやすかった。
――ツイタチのルックやイメージビジュアルには、毎回女性が登場しています。基本的にユニセックスですよね?
名城 サイズ展開に幅を持たせて男女どちらでも着られるようにしています。沖縄のセレクトショップのお客様の3割ぐらいが女性ということもあって、ワンピースのようなレディースアイテムも最初から入れています。
――今回のコレクションで、思い入れの強いアイテムはありますか?
輿水 やはりテーマフラワーをモチーフにしているアイテムですかね。この2着なんかは、形はどちらもアロハシャツなんですが、加工や仕上げでまったく違うものに見えるようにデザインしました。
――花の表現や配置も微妙に違いますが、生地はだいぶ違いますね。
輿水 白地の花柄のほうは、ベルベット生地にグラデーションのプリントを施してから、オパールという加工で生地の表面を溶かして花柄を出しています。立体感とカラーのグラデーションが特徴です。黒地のものはレーヨンに顔料抜染という手法でプリントしています。オパール加工のシャツと比べると、ヴィンテージのアロハシャツに近い手法、製造工程でつくっています。
――どの生地も凝っているなと、見たときに感心しました。
輿水 僕たちはオーセンティックな形の服が好きなので、どこでオリジナリティを出すかというと、やはり生地や製法が一番に上ってきます。オリジナルの生地づくりは、毎回新しい発見があってとても勉強になります。
名城 あとツイタチには継続してつくっているアイテムがいくつもあります。ボウリングシューズとボウリングシャツがそうなんですが…。
――ファーストコレクションのイメージビジュアルもボウリング場で撮影してましたよね。
名城 ボウリングシューズって普通、ヒールにサイズが入っているじゃないですか? ツイタチでは片足に7、もう片方に10と異なる数字を入れています。ボウリングで7番ピンと10番ピンが残るスプリット(スネークアイ)って絶対倒せないんですよ。プロでも本当に難しいくらい。だからこれは、「街に繰り出す一歩」、「絶対にこけない、倒れない」という履いていただく方へのメッセージを込めたナンバリングになってるんです。
――アイテムにいろいろな意味を込めていますね。
名城 僕は洋服屋(販売)上がりなので、買い物に行ったとき、店舗のスタッフさんの商品の説明が面白かったり、洒落がきいてるなと思うものに惹かれます。だからものづくりをするときには、ほとんどのアイテムにはこういったストーリーや背景を入れますね。
――どこか古着っぽさを感じるアイテムですね。
輿水 古着をオマージュしている部分も確かにあります。ただ、古着ってダメージが入っていたり、サイズが惜しかったり、「あと一歩」のものが多いじゃないですか? そこにカッコよさがあったりもしますが、現代では再現したくてもできないものも多いんです。そういうものへの敬意もありつつ、ブランドの色を出すようにはしています。そこが一番むずかしい部分でもありますね。
昭和を着想源にツイタチらしい
名品をいつか完成させたい
――ツイタチにはどこかレトロなムードがありますが、コレクションのインスピレーションは古着以外に何かあるのでしょうか?
名城 デザインソースのひとつに、昭和があります。あの時代特有の制限のない自由さ、そして荒削りな人間くささをイメージしています。例えば、当時の銀幕スターの直球で無垢なカッコよさ、70年代のアメリカンヒッピーカルチャー影響を受けた、フォークシンガーとか。
――言われてみると、昭和感という言葉がフィットします。きょう輿水さんが着ている絣(かすり)のスーツも毎シーズンつくっていますが、これも昭和感がありますよね。
名城 これも自分の中のTHE・昭和ですね。チェック風の絣は最近、洋服ではあまり見ない素材だけれど、寅さん(フーテンの寅さん。俳優の渥美清が演じた映画『男はつらいよ』の主人公)もチェックのスーツ着てるじゃないですか? 寅さんも好きなんで(笑)。
――ツイタチが今後目指すものはなんでしょう?
名城 「このブランドはコレだよね」というものをいつか完成させたいということにあります。
――定番や名品をつくるということですか?
名城 そうです。例えばボウリングシューズをずっとアップデートして、つくり続けていくとするじゃないですか? そのうちに「ツイタチといえばボウリングシューズだよね」と。「リーバイスといえば501だよね」みたいなものをつくりたいと思っているんです。名品番をつくれば、僕が死んでもそれは残っていくわけじゃないですか?
――時代を超えて愛されていくものを、ということですね。
名城 それはもしかしたらシャツかもしれないし、一輪挿しかもしれない。
――これからやりたいことはありますか?
名城 やりたいことというか、もう決まっているんですが、2月1日に沖縄に完全直営店をオープンします(※このインタビューは2022年12月に取材)。2023年春夏コレクションのデリバリーが、2月1日にスタートするので、それに合わせて。
――デビュー3シーズン目で! 早いですね。
名城 那覇市の歓楽街のど真ん中というロケーションで、夜営業のお店や怪しいネオンが立ち並ぶエリアです(笑)。そこではツイタチをフルラインナップするほか、一部ヴィンテージもセレクトする予定です。
輿水 直営ならでは取り組みも増やして行く予定です。今回は、オープニング記念として限定で、着物用の古布をアップサイクルしたパッチワークのノーカラージャケット(※下の店舗写真の左側に見える)などが登場します。
――沖縄に直営店というのもカッコいいですね!
名城 沖縄愛は異常にあるんで(笑)。ツイタチの世界観を大きく太く見せたいということはもちろん、ツイタチが好きな人に沖縄に来て欲しい。そして観光してほしい。沖縄を盛り上げたいんです。
――社長目線で考えていますね。
名城 そこはいろいろ。ちなみにツイタチはコレクションのデリバリーを毎月朔日にしているんです。洋服屋をやっていた経験上、月初に売り上げがいいと気持ちも上がるんで(笑)。春夏は2月、3月、4月と3回のデリバリーを予定しています。
――生産管理が大変ですね。
名城 そこは輿水に頑張ってもらっています(笑)。
――最後に、おふたりにとってファッションとはなんですか?
名城 「家ごと(家のこと)」であり「趣味」でもあり。あとは自分がいちばんお金を遣うもの(笑)。
輿水 「好きな仕事」ですかね。
BRAND PROFILE
TUITACI(ツイタチ) 2022年春夏にスタート。昭和に憧れ、自由とロマンを求めたコレクションを展開する。インパクトのある柄アイテムやレトロなグラフィックにも定評があり、古着好きにも響くものづくりでファンを増やしている。この2月1日、那覇市に直営店をオープン。
HP / インスタグラム
Photos:Kenta Watanabe(portrait&report) Composition & Text:Hisami Kotakemori
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