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「自分が美しいと感じるものを表現しているので、それが伝わったらうれしい」 浅川喜一朗さん[シュタイン デザイナー] ロングインタビュー

「自分が美しいと感じるものを表現しているので、それが伝わったらうれしい」 浅川喜一朗さん[シュタイン デザイナー] ロングインタビュー

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服好きに支持されるブランドのデザイナーにフォーカス。彼らはどのようにしてデザイナーになったのか? コレクションを通して伝えたいことは何か? これから、どんなクリエイションをしていくのか? デザイナーの過去、現在、未来のストーリーをロングインタビュー。

第2回はシルエットやディテールにこだわった、ジェンダーレスなリアルクローズにファンも多いシュタインのデザイナー、浅川喜一朗さん。古着をミックスした独特のスタイルは男子の憧れでもある。完璧主義者のように見えて、意外な一面が!?

浅川喜一朗(あさかわ・きいちろう)

1986年、山梨県生まれ。東京学芸大学を卒業後、会社勤めを経て古着屋から発展した原宿の伝説的セレクトショップ、ナイチチのスタッフに。2016年4月に原宿キャットストリートの裏通りにオーナーショップ、carol(キャロル)をオープン。同年、シュタインを立ち上げ、2017年春夏からはビジュアルイメージを制作。2021年4月に青山(現在の店舗)に移転。

ナイチチでの経験が
あってこその今

――浅川さんは古着好きとしても有名ですが、服が好きになったのはいつ頃ですか?

小学生の頃から好きでした。子どもながらにナイキのエアが入ったスニーカーに衝撃を受けてカッコいいスニーカーを集めたり、親と量販店に買い物に行ったときも自分で服を選んでいましたね。中学・高校時代は仲のいい従兄が多摩美術大学に通っていたので、東京にも遊びに行くようになって。従兄が古着好きだったので、原宿、渋谷界隈の古着屋さんにも連れていってもらいました。

――その従兄のお兄さんに影響を受けたんですね。

はい、大好きでした。大学を卒業した後はプロダクトデザイナーとして活躍しています。今は上海にいますが、僕がナイチチに居た頃は千駄ヶ谷に事務所があったので、よく遊びに行かせてもらっていました。

――ナイチチで働くようになったのは、大学卒業後ですか?

そうです。実は大学時代に服を買いすぎていて……。僕は卒業したらスタイリストのアシスタントになりたかったんですが、友人にお金を借りて服を買っていたので、大学4年生のとき親友に「まずは就職して、みんなにお金を返してからにしろ!」と諭されまして(笑)。

アトリエには浅川さんの古着のコレクションが大量に保管されている。

――意外です(笑)。でもいい友人ですね。

とりあえず一度地元に帰って就職して、きちんとお金を返したんですが「スタイリストアシスタントになったらまた借金するのは目に見えているから、自分の生活が成り立つような服の道に進め!」とまた叱られて(笑)。それで当時、自分がカッコいいと思うお店がナイチチだったので、働きたいと申し出たらご縁があって、働かせてもらえることになったんです。

――それが23歳くらいのときですか?

はい、大学を卒業した半年後でした。当時のナイチチは古着もまだ少し扱っていて、インパクティスケリーというオリジナルブランドのほかに、インポートブランドもセレクトしていました。最初は販売でしたが、1年半後にはマネジメントや商品のバイイングにも携わり、いろんな経験をさせてもらいました。

メンズノンノ2011年11月号に菅 秀明さんとともに掲載されたナイチチ時代のスナップ。当時からスナップ企画の常連だった。

――メンズノンノの誌面にもよく登場されていましたよね。カリスマスタッフの菅さんといっしょに。

偶然にも菅さんは高校の先輩だったんですよ。そんなこともあって、すごくかわいがっていただきました。仕事、仕事の毎日でしたが、仕事が終わると菅さんとご飯を食べに行って、プレスの加来(美佐生)さんや菅さんの友人も加わって、そのまま朝まで飲んだり。最初の2年ぐらいは365日のうち100日くらい菅さんの家に泊まっていました(笑)。


――ナイチチでの経験が、今の浅川さんのベースになっているんですね。

菅さんはもちろん、インパクティスケリーのデザインをしていた小島令子さんとお仕事させていただいたのも大きかったです。ファッションはプロダクトも大事だけれど、その世界観や空気、カルチャーも大切だということを学ばせていただきました。楽しかったんですけど、めちゃくちゃ怒られてもいました。なんで怒られていたかは、思い出せないんですが(笑)。いい思い出です。

デニムの解体再構築を
carolでスタート

――ナイチチが閉店してしまったことが、浅川さんの転機になりましたか?

そうですね。社長から閉店ときいたときにはとてもショックでしたが、だったら独立して自分でやろうと。2016年の1月にお店が終わって、4月にはcarolを開けました。準備期間が短かったので春夏ものの新品の買い付けが時期的にできず、ベルベルジンやアームズ クロージング ストアなど古着屋の先輩方に古着の仕入れ先を紹介していただきました。それで90年代の色落ちのきれいなUSA製リーバイスを250本、買い付けることができたんです。

キャットストリート裏時代のcarol。ブルーのドアが目印だった。

――そんなに大量に! よく見つかりましたね。

最終的には300本くらい集まりましたが、売るものはそのリーバイスと少しの古着、いつもよくしていただいていた熊谷(富士喜)さんのつくられているカーニーの眼鏡のみの展開でした。ラインナップは少なかったのですが、ナイチチ時代のお客様が頻繁に足を運んでくださって。だからジーンズのカスタムを始めたんです。古着のリーバイスから好きなものを選んでもらって、自宅に持ち帰って全部ほどいて、お客様のサイズに合わせて一本一本リメイクをして渡していたんですよ。

――超オーダーメイド! また手間のかかることを!

最初はそこからでした。慣れていないから仮縫いのときに針が手に刺さることもしょっちゅうで、当時の僕の手は血だらけで、家は糸くずだらけでした。普通のミシンとデニム用のミシンは持っていましたが、ロックミシンを持っていなかったので、縫い子をやっている叔母の家までデニムを持っていって作業をしたり。

リーバイスの古着ジーンズは今もcarolでセレクトしている。

――それは大変でしたね。若いからこそできた業ですね。

大変でしたが、お客様が喜んでくださったので、やりがいがあってすごく楽しかったです。3本のジーンズを解体再構築して1本にまとめる複雑な構造のものもつくっていたんですが、1本つくるのに20時間くらいかかったので、それは15本くらいで断念しました。でも、当時のリメイクジーンズは皆さん、未だにはいてくださっています。

――服づくりは独学ですよね? 服飾専門学校出身者にコンプレックスを感じていた時期もあったそうですが。

ナイチチ時代に名品がどうして名品と言われるのか知りたくて、古着の解体をしていました。上下合わせると100着くらいはほどいたでしょうか? 縫製の順番やロックミシンをかけるところ、巻き縫いしなければいけないところ、デニムの糸の番手などもメモしていましたし、途中まで解体して構造がわかったら自分で縫い合わせる作業もやっていたので、デニムのリメイクはできました。

デニムへのこだわりは現在のクリエイションにもつながっている。「カスタムしていた時代もお客様にフィッティングして、自分が納得できないとつくり直していました(苦笑)」

――carolでさらにリーバイスのリメイクを100本以上手がけた。だからシュタインはパンツからスタートしたんですね。腑に落ちました。

パターンも感覚的な部分ではわかっていたので、デニムをリメイクしているうちに「つくれれるかもしれない」と思うようになって、パンツ3型からシュタインをスタートしました。

何かと結びつくことで
特別な存在になるstein

――最初につくったパンツはカジュアルなものでなく、スラックスでした。

昔から冷たい空気感や凛とした雰囲気が好きだったので、ブランドとしてはカジュアルでないところから入りました。


――ブランド名も最初からシュタインにしていました。どういう意味があるんですか?

steinはドイツ語で、アインシュタイン、ヴィトゲンシュタインのようにフロントに何か言葉がつくことで、特定の一族の名前になる単語です。一見普通だけど、何かと結びつくことで特別なものになる。同じように僕がつくる服が、手に取ってくださった方に寄り添いつつ、着てもらうことで特別な一着になっていく。そんな思いを込めました。

――店名のcarolをブランド名にしようとは思わなかったんですね。

シュタインはブランドとしてやっていきたい方向性があったので、完全に別のものとして考えました。一方でcarolはあくまでセレクトショップだから、シュタインの商品も全部を扱うわけではありません。

現在のcarolの店内。浅川さんの美意識が凝縮された空間。

――店の名前をcarolにした理由は?

carolは讃美歌に由来します。セレクトするブランドも古着も、自分がいいなと思うものに、つくり手の方のものすごいエネルギーを感じていますので、そういうものが集まる(賛美する)場所をイメージして。

――シュタインのホームページには“stillness and motion , mininal and maximal , mode and tradition.”「無から有へ。そのはざまの部分を表現する」というブランドのコンセプトも紹介されています。

このコンセプトもスタートから決めていました。古着もモードも好きだけれど、その間の部分に自分の好きなものがあったりします。洋服はもちろんビジュアルの写真なども含めて、そういう「はざま」が自分がいちばん表現していきたい部分であり、シュタインの方向性です。

私服でもシュタインと古着(この日はスウェットパンツ)をミックスするのが浅川さんのスタイル。

シーズンレス、ジェンダーレスに
内面から湧き出るものを形に

――コレクションはどのようにつくっていますか?

最初は枠をつくって、そこから始めていました。たとえばルートヴィヒ・ミース・ファン・デル・ローエ(20世紀モダニズムを代表するドイツの建築家)をテーマにして、彼の建築やプロダクトにフォーカスしてつくるというスタイル。でも自分が本当に好きな部分は変わらないので、今はスタートの時点ではテーマを決めず、つくっていく過程で自分が気になるところや、そのときの気分など内面的な部分を追求してコレクションを完成させています。


――2022年春夏はどんなテーマになりました?

作品を通して伝わってくる「重み」にフォーカスしました。それは重量を意味するのではなく、例えば言葉の重みは、その人が長年かけて築いたスタイルに裏打ちされています。写真でも明るいから軽いということではなく、光が回っていても緊張感が伝わってくる写真には重みを感じたりします。目には見えないけれど伝わってくるもの。それを「重み」として“profound thought(深い思考)”という言葉で表現しました。

――思い入れのあるルックやアイテムはどれでしょう?

今回はデニムで新しい構造をつくりました。フレアとテーパードを1本のジーンズに落とし込んだんです。相反するシルエットを絶妙なパターンで融合して完成しました。色も自分が古着でも持っている「通常では残らない色の残り」を表現したくて、加工の実験を繰り返し、何本も試作をつくりました。

――デニムにはいつも並みならぬ情熱を注いでいますよね。語りも熱い(笑)。

そうですね。あとはハーフ丈が気分で、ハリントンジャケットを長めにつくったり。ジャケットとコートの中間的な、中途半端な丈のバランスがすごい好きで、これを冷たい感じで表現したくて、いろいろ探りました。

デザイン画ではなくプロダクトによった仕様書を手描きで作成する。

――創作のインスピレーションとなるものは、何ですか?

写真が好きなので写真集は参考にします。シーズンの初めにつくりたいものをイメージしたとき「あの写真がカッコよかったな」と見返して具体的なプロダクトにつなげていくこともありますし、最近は夕方の5時、6時くらいの空の色、赤と青のコントラストをうまく表現してみたいと思ったり。色のコントラストはかなり気になっています。今は9割くらいがオリジナルのテキスタイルになってきているので、そういう部分に反映したりしています。

コリンヌ・デイ、ヨルゲン・テラーの写真集が今季のコレクションとシンクロ。

コリンヌ・デイ、ヨルゲン・テラーの写真集が今季のコレクションとシンクロ。

言葉では表現できない
世界観を写真で伝える

――ルックとは別にシーズンのイメージビジュアルにも毎回こだわっていますよね。

プロダクトを追求する軸と、世界観を深めていく軸、2つの軸でシュタインは成り立っています。言葉では表現できないものも、ビジュアルを通して世界観や空気感を伝えることができる。そこは大切にしています。僕は写真が好きなので、趣味的なことも含めて毎回とても楽しみにしているということもありますが(笑)。

モノクロで陰影のコントラストを付けたり、ディテールにフォーカスしたカットが印象的なシーズンビジュアル。

モノクロで陰影のコントラストを付けたり、ディテールにフォーカスしたカットが印象的なシーズンビジュアル。

モノクロで陰影のコントラストを付けたり、ディテールにフォーカスしたカットが印象的なシーズンビジュアル。

――アトリエにズラリと並んだ写真集やカメラを見てもわかります。

「こういう写真が撮りたい!」という理由でつくるピースやルックもあったりします。デザイン画は描きませんが、全部試着するので、頭の中では自分なりのコーディネートが完成しています。今回もデニムにスウェットをタックインして、スウェットのカーディガンを羽織っているコーディネートは、この空気感を写真にしたいというモチベーションから派生しています。

浅川さんのアトリエ。作業机の隣の棚には写真集やカメラがズラリと並ぶ。

――過去にはマイナスコレクション、コンクリートコレクションなどシーズンコレクションとは別に、ライン的に展開していたこともありました。

コレクションに関しては、今はすべてを集約する形でひとつにまとめて創作しています。そのときどきでやりたいことがあって、表現するスタイルはさまざまなんですよ。今も新しくやりたいことが、たくさんあります。


――成熟の過程ということですね。ランウェイショーなどにも興味がありますか?

写真は好きだからずっと追求していくと思いますが、新しい表現方法にも興味が湧いています。今はランウェイもやってみたいと思うようになりました。モデルが服を着て動いているところが見せられるという点はもちろん、音や空間のデザインも含めて、表現の可能性が広がりますよね。

2020年秋冬“street”コレクションのポラロイド写真をアート作品のように額装して飾っている。

時間が経っても魅力的な
いいものを届けたい

――昨年はお店も移転して、理想の空間ができたと思います。浅川さんはお店もとても大事にしていますよね。

自分にとってとても尊い存在です。だから時間がある限り、お店に立ち続けたいと思っています。自分がつくった服やセレクトしたものを、お客様が本当に喜んで買っていってくださる。それを見るだけでエネルギーがもらえるんです。もっといい空間をつくりたい。いいものをつくって届けたい。そんな自分の思いも再確認できます。お店をオープンした当初は1日にお客様がひとり、なんてこともありましたので (笑)、今はこんな裏通りのお店にたくさんの方が来てくださるということが、本当にうれしくてありがたいです。

――今後の目標はありますか?

好きなことをやって生活できていることに感謝しながら、自分が50歳、60歳になるまで、ずっとお店をやり続けて、ものづくりをしていきたいと思っています。ヴィテンージの古着や家具のように、時間が経っても価値の変わらない、または価値が上がってくようなもの、プロジェクトを、ゆっくり淡々と皆さんにお届けして、喜んでいただけたらと思っています。

――ファッションは浅川さんにとってどんなものですか?

すごく夢のあるものだと思います。ありきたりで恥ずかしいんですが(笑)。結果的に、人をしあわせにするものだと思っています。アートが見た人に寄り添って心に残るように、シュタインは、自分が好きな部分、美しいと思うものを表現しているので、それが伝わってくれたらいいなと思います。

BRAND PROFILE

stein(シュタイン) ブランドスタートから6年が経ち、現在はアジア、ヨーロッパ圏にも販路を拡大。2022年春夏はおなじみのデニムやモノトーンに加えて、ベージュのアイテムがバリエーション豊かに展開されている。繊細なレイヤード風のデザインも多く、見ごたえのあるコレクションになっている。

HP:www.ssstein.com
インスタグラム:@ssstein_design

carol

住所:東京都渋谷区神宮前5-45-3 COSMO BLD1F
TEL: 03-5778-9596
営業時間:12:00~19:00 水曜定休 
※営業時間はHPにてご確認ください。
storecarol.com

Photos:Kenta Watanabe(portrait&report) Composition & Text:Hisami Kotakemori

小竹森久美

小竹森久美

エディター

「僕らの永久定番ファイル」や「コレクション速報」などファッションテーマを幅広く執筆。

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