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マイケル・ケイン。舞台俳優からキャリアをスタートさせ、現在89歳。『ハンナとその姉妹』(86年)と『サイダーハウス・ルール』(99年)で2度のアカデミー賞助演男優賞を獲得し、『バットマン・ビギンズ』(2005年)で執事アルフレッド役を演じたのを皮切りに、近年はクリストファー・ノーラン作品の常連として認識している人も多いだろう。これまでに出演した映画は100本を超え、今なお現役。英国の宝と呼ばれる名優だ。
そのマイケル・ケインが『わが人生。名優マイケル・ケインによる最上の人生指南書』(集英社)という本を刊行した。90歳を前に人生を振り返り、長いキャリアから得たユニークな教訓を語った内容は、よくあるサクセスストーリーとは一線を画し、メンズノンノ読者世代にも響くメッセージが満載! 読めばきっとポジティブになれる、そんな人生の大先輩の言葉を紹介する!
<PROFILE>
サー・マイケル・ケイン
1933年生まれ。6度のオスカーノミネート経験を持つ英国の名優。イギリスのレパートリー・シアターで舞台経験を積み、64年の『ズール戦争』で映画のキャリアスタート。以後、『王になろうとした男』『アルフィー』『殺しのドレス』『探偵スルース』『サイダーハウス・ルール』『グランドフィナーレ』『バットマン』シリーズなど、数多くの映画に出演。92年にコマンダー勲章を、2000年にナイトの称号を英国王室から授かる。45年以上連れ添う妻シャキーラ、2人の娘、3人の孫がいる。
#1
「富と名声のことは忘れたほうがいい」
ロンドンの貧しい労働者階級の家庭に生まれ育ったマイケル・ケインだが、お金や名声が欲しくて役者になりたかったわけではなかった。スクリーンで観るハンフリー・ボガードやマーロン・ブランドの姿に憧れ、ハリウッドに行ってラブシーンでファーストキスを経験したいというのがそもそもの始まりだった。
やがて演技に夢中になり、結果的に富と名声も手にすることになったけれど、実際手にしてもこんなものかと思う程度で、それがすべての目的になってはいけないという。
それよりも大事なのは、自分のやりたいことを見つけて、やり方をしっかり学ぶこと。自分が損得抜きで選んだもの、やっているときは充実感が得られてもっとも自分らしくいられるものの中に果敢に飛び込み、最高の自分になるために決して努力を惜しまない。誰もが有名な俳優になれるわけではないけれど、好きなものを見つけて、ちゃんと報酬が得られるのであれば、それでもう十分なのだ。
#2
「目の前のチャンスは逃さない」
これまで100本以上の映画に出演し、さまざまな役柄を演じたマイケル・ケイン。中にはパッとしないものもあったけれど、仕事を引き受けて後悔したことは一度もないという。
いい仕事に出会うには数多くこなすしかない。成功は行動からしか生まれないし、チャンスは待っていても向こうからはやって来ない。自ら外に出てつかむのだ。自分は何も動かずに、完璧なプロジェクトがリボンで包まれて向こうから届けられるのを待っていても来るわけがない。待っているだけでは完璧な異性に出会えないのと一緒だ。
それに経験の積み重ねによって、いざ大きな仕事が来たときに対処することができる。だから、たとえ小さな役でも、自分の持てるものを全力で出し切る。これは芝居に限らずどんなことにでも言えるだろう。
経験からでしか自信は得られない。自信からでしかリラックスは生まれない。リラックスして自分の持てるものをすべて出すことで最高のパフォーマンスは生まれる。
#3
「基本を守ることで自信が生まれる」
明日の準備は前日の寝る前に済ませておく。夜はぐっすり寝る。スタジオやロケ地への行き方はあらかじめ確認しておく。これはマイケル・ケインが若い頃から今も続けている習慣だ。子供が学校に行く前にする準備と何ら変わらない。派手で煌びやかなものはひとつもないけれど、こうした基本を守ることで自信が生まれるという。
自信は経験と準備から生まれる。だから、経験が浅いうちは準備をしっかりするしかない。アヒルは優雅に水面を泳いでいるように見えて、実は水面の下で懸命に足を掻いている。自然な演技がまさにそれで、表向きはそう見えても実はリハーサルを重ねた結果なのである。
どんなに才能があっても問題を起こせばそこで終わりだ。生き残りたければ信頼が大事だし、地道な信頼を勝ち取らなければ成功は続かない。たとえ生活が乱れることはあっても、仕事はそうであってはいけない。
それがプロであり、その地道な積み重ねが次の仕事へとつながっていくのだ。
#4
「常に自分が競争相手」
より成長するためにはライバルはいたほうがいい。だが、マイケル・ケインの場合、ライバルは他の誰かではなく、自分自身である。初舞台から最新の出演作に至るまで、マイケルが常に考えていたのはいかに自分のベストを出すかであって、誰よりも巧く演じたいということではなかった。
どうしたら自分の力量を伸ばすことができるだろうか。どうすればこのテイクを前よりも巧くできるだろうか。いつだってそれだけを考えてきた。
他人に競争心を抱いても無駄だし得るものはない。それよりも自分の夢を追いかけるべきである。このことは自分の孫たちにも伝えているという。
「君たちより足の速い子、賢い子、見た目のいい子、お金持ちの子、運のいい子はいつだっている。だから他の子たちと競うことはやめなさい。つらくなって、自分が惨めになって不幸になるだけだ。自分のことに専念して、力の限りそれを頑張りなさい」と。
それが自分にできる最善のことなのだ。
#5
「失敗したら新たな自分を作ればいい」
誰しも失敗することはあるが、失敗したからといってそこで終わりではない。失敗をどう捉えるかは自分次第だ。
例えば世間では失敗作と言われる『ジョーズ’87/復讐篇』(87年)。マイケル・ケインは端役での出演であったが、出演者の中で最も知名度があったため、映画が酷評されたときにやり玉に挙がった。しかも、このとき『ハンナとその姉妹』(86年)の演技が評価されて初のアカデミー賞を獲得したのだが、授賞式と撮影スケジュールが重なったため、賞を受け取ることができなかった。まさに踏んだり蹴ったりである。
だが、マイケルは『ジョーズ’87/復讐篇』に出演したことを失敗だとは思わない。あの映画の出演料で母のために豪勢な家を買ってあげることができたのだから。
たくさんの出演作の中には興行成績が振るわず評価も散々で、名声を傷つけるようなものもあるにはあったけれど、どれも何らかの形で自分の人生を豊かにしてくれたという。たとえ失敗しても、そこから何かを得ればいいのである。
<書籍紹介>
『わが人生。名優マイケル・ケインによる最上の人生指南書』
マイケル・ケイン[著]、大田黒 奉之[訳]
¥2,310/集英社
名優マイケル・ケインがこれまでの人生を振り返り語る知恵と教訓。ときにシニカルに、ときにユーモラスに。肩の凝らない人生の指南書としておすすめ。
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